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第12話 帝都美術館

 というわけで美術館へやって来た。


「では受付を済ませてきますので少々お待ちを」


 アズリアが入館手続きをしに受付をと向かう。

 こういう手続きを代わりにやってくれるのはすごく助かる。


 待っている間、俺は入館案内を確認する。

 入館料は……ひとりあたり銀貨2枚か。

 もっと高いかと思ったけど、意外と安いんだな。


 あとはパンフレットにも書いてあったが、鑑定は自由だが、作品に触れるのは駄目と。

 もし作品に触れると、破損の有無問わず罰金が発生するらしい。

 作品には防御魔法が施されており、触れた瞬間発動するため誤魔化すこともできないそうだ。

 ……調子に乗ったナビ子やラビットAが触れないように重々注意しないと。


「そういや写真とか撮影っていいのかな?」


 ナビ子がカメラの準備をしながら言う。

 案内板には撮影の有無は書かれていない。

 そりゃカメラとか普及してないから当然だ。

 ただ俺たちは撮影器具を持っている。


 ひとつは盗撮用の監視カメラ。


 狭い場所への探索用にとナビ子が運営から貰ったもので、ナビ子でも持てるくらい小さいタイプだ。

 部屋の監視とか、魔法やスキルの試し打ちなどに重宝している。

 ただ、再生するにはタブレットが必要だが。


 それからもう一つ。

 運営の偵察機を分解したことで手に入れたカメラ。

 元々スキルを手に入れるためだったのだが……性能はほぼデジカメで、撮った写真や動画をその場で再生できるので重宝している。


 ……図鑑の登録だけでいいと思っていたが、撮影OKなら是非とも撮影したい。


「……鑑定がいいんだから、いいんじゃね?」


 どうせ撮影って言っても通じないんだから、鑑定みたいなものって誤魔化せるはずだ。


「んじゃあバシバシ撮ってサナやアザレアにも見せてあげようっと」

「きゅい! いっぱい撮る!」


 よし。撮影はナビ子とラビットAに任せよう。


 と、ここで見逃せない文面を発見。


「……おい。ペットの入館はご遠慮くださいって書いてあるぞ」


 これってナビ子とラビットAは入れないんじゃ?


「ペットじゃないもん!!」

「きゅっトじゃないもー!!」


 いや、俺だってペット扱いはしてないが、美術館側がどう思うかってことでだな。


「お二人の入館は問題ないそうですよ」


 そう言いながらアズリアが四人分のチケットを持って戻ってきた。


「妖精族と獣人族は種族として認められていますから」


 禁止のペットは犬や猫、それからテイマーの魔獣系とのこと。

 ラビットAは獣人族じゃなくてモンスターなんだけど……二足歩行で服も着ていることから獣人族扱いで問題ないらしい。


「もちろん問題を起こすとシュートさんが責任を取らされるでしょうが」

「いいか。絶対に大声で話したり、はしゃぎすぎて作品に触ったりするなよ」

「大丈夫、分かってるってば」

「きゅい!」


 まったく。返事だけはいいんだから。


「私としてはシュートさんも心配なんですが。いいですか、レア度が高いからと言って、作品をカードにしてはなりませんよ」

「……はい」


 そんな事するつもりもないのだが……俺も返事だけはいいと思われてそう。



 ****


 まずは絵画コーナー。

 絵画には作品名と作者名、それから販売はしてないが、およその金銭価値が記されている。


「ねぇシュート。右の絵と左の絵、なんで金額が10倍も違うんだろうね」

「……俺にも分からん」


 左の絵がバスコ・フィガロ作『バルバラートの夜明け』。

 右の絵がライアン・ローベ作『希望の兆し』。

 多少の違いはあるものの、どちらも城を中心に帝都を描いた絵。

 俺はどちらも上手いと思うんだけど……左が金貨500枚で、右が金貨50枚。

 この差は一体……とりあえず登録してみるか。

 俺はハイアナライズで二枚の絵を登録する。


 ――――

 バルバラートの夜明け【絵画】レア度:☆☆☆


 バスコ・フィガロ作による帝国の始まりを描いた一枚。

 ――――

 ――――

 希望の兆し【絵画】レア度:☆☆


 ライアン・ローベ作による帝国の繁栄を描いた一枚。

 ――――


 基本的内容は美術館側の説明と変わらず。

 レア度と簡単な説明だけ増えている。

 ただ、登録の方は金額は書かれていない。

 まぁ金額は時価というか変動的なものだから、他のアイテムにも書かれていないから当然だけど。


「なるほど分からん」


 一応、高い方が星3とレア度も高いけど……この状態じゃ、何でレア度が高いかすら分からん。


「バスコ・フィガロは帝国で最も有名な画家ですね。ライアン・ローベの方は新進気鋭でまだまだこれからの画家でしょうか」


 なるほど。

 知名度が段違いってことか。

 ライアン・ローベの方ももっと認知度が上がれば値段も上がるのだろうか。


「アズリアの鑑定の方はどうだ?」

「私の方は触れてませんのでレア度は分かりませんが……それ以外はシュートさんと似たような結果です」


 アズリアの鑑識眼も触れることで最大限の能力を発揮するから、触れていない状態では殆ど変わらないか。



 それから俺たちは続けて色々と見て回った。

 人物画、風景画、静物画、絵画以外にも壺やら像やら。

 ただ、どれを見ても上手とかすごい以外の感想を言うことができなかった。

 物珍しさはあるものの、良さが分からないと作品一つ一つを見て回るのも足早になり……結局、全作品の登録と撮影をするだけになるという。


「シュート。アタイに芸術は分かんなかったよ」


 撮影係だった元電子妖精も似たような感想らしい。


「まぁ俺は図鑑登録できただけで十分満足だけど」


 登録したカードを確認しながら俺は答える。

 芸術的価値はわからなくても、図鑑登録が増えるのは歓迎だ。


「きゅふっふふーん」


 もうひとりの撮影係であるラビットAに至っては早々に離脱。

 暇つぶしに渡した画用紙とクレヨンでお絵かきをしている。


 ちなみにアズリアは俺よりも興味があるのか、じっくり作品を見たり、スタッフに詳しく話を聞いている。

 そのため、俺はアズリアを待ちながら、登録したカードの整理がてら、ベンチで休憩中ってわけだ。

 別にアズリアが楽しんでいるならいいんだけど……後どれくらいかかるのだろうか?


「ん? なんだこれは?」


 俺は一枚の登録カードに注目する。


 ――――

 女神の祝福【美術品】レア度:☆☆☆☆☆


 アリア作による戦いと知恵の女神パラス・アテナを描いた一枚。

 ――――


 まさかの星5である。

 他の作品は星1~3で星4すらなかったのに。


「この人の作品って他にないかな?」


 そう思って探してみるが、女神の絵画はいくつかあったが、どうやらアリアが描いた絵はこれだけみたいだ。

 そして他の女神の絵はどれも軒並み星1。

 星2すらなかったのは悪意すら感じる。


 ついでに俺はデジカメのメモリからこの絵の金額を確認する。


「き、金貨5枚?」


 他の星1の女神の金額が金貨20枚から100枚くらいに対して、この絵だけビックリするくらい安かった。

 女神の絵画以外の作品には金貨5枚以下の作品も存在したから、別におかしくはない。

 それに金額は殆ど作者の認知度的な部分のようだから……にしても星5だぞ。

 たとえ無名の人だとしても、安すぎる気がする。


「やっぱり女神だから、それらしい格好をしてないと人気ないんじゃない?」


 ナビ子の言葉を聞いて少し納得する。

 他の女神の絵に関してはドレスや羽衣風の衣装なのだが、星5の絵だけは輝かしい鎧を着ていたのだ。

 戦いと知恵の女神って描いてあるから戦女神をイメージしてのことだろうけど。


 にしても、金額とレア度がこれだけ違うなんて。


「……やっぱり芸術のことなんてさっぱり分からないな」

「そうだね」

「きゅっきゅい! かんせーい!」


 うん。俺にはラビットAが描いている向日葵の絵が一番に思えるよ。

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