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第10話 帝都到着

 アズリアが同行者に決まって数日後。

 仕事の引き継ぎやらを終えていよいよ出発の日となった。

 屋敷の玄関口でナビ子たちが居残り組と別れの挨拶をしている。


「皆さん。いってらっしゃい」

「うん。アタイも頑張って新しい仲間を捕まえるから期待しててね!」


「ん。アズ姉、お土産よろしく」

「アゼ……サナさんに迷惑かけては駄目ですよ」


「海竜石……儂の海竜石……」

「きゅい。じーちゃ。だいじょーぶ。ちゃんと見つけてくー!」


 その見送りの中で一人だけ気持ち悪い笑みを浮かべる人物。

 出発直前ってことでカード化スキルを貸与してやったアザレアだ。


「でゅふ。でゅふふふふ……わたくしのカード化スキル」


 お、おう。マジでキモいな。

 観察眼で自分自身を鑑定しながらうっとりするアザレア。

 約束通りカード化スキルを貸与したのだが……早くも後悔してしまいそうだ。

 ……先日の妹思いの姿は幻想だったか?


「おいアザレア。浮かれるのは構わないが、離れていても取り上げることはできるんだからな。この間みたいに仕事をサボってると……」

「わ、分かっております」


 ハッと我に返るアザレア。

 最初に貸与した時は仕事を二日もサボりやがったからな。

 もし今回もサボるようなら、すぐに連絡するようにサナに言ってある。


「正論ですけど、姉さんもシュートさんにだけは言われたくないと思ってますよ」

「ねっ。完全にブーメランよね」

「きゅート! ひきこもー!」


 ほっとけ。


「それよりも、いつまでここにいるつもりですか。見送りをしている身にもなってください」


 アザレア……おまえ……。

 カード化スキルを試したいから、さっさと出発しろってか。

 ったく。これだからスキル厨は。

 でもまぁ別れの挨拶も一区切りついたようだし、そろそろ出発するか。


「んじゃまぁ行ってくるわ」

「いってきまーす」

「きゅってきまーす」

「留守の間、よろしくおねがいします」


 挨拶を終え、屋敷を出ようとすると、背後から声がかかる。


「アズ。楽しんできなさい」

「……ええ。楽しんできます」


 振り返ることはしなかったが、アズリアが嬉しそうに返事した。



 ****


 屋敷を出た後は、一度ライラネートの外に行く。

 街にいませんよって証拠を残しておかないと。

 ギルドにはアザレアが出勤したら報告するって言ってたから大丈夫だろう。

 ……サボってなければだけど。


 街から出た後は、人目のつかない場所に移動して、ラビットAがテレポートを使う。


「きゅっきゅいーん!!」


 ラビットAの決めポーズとともに帝都が見える場所へと到着。

 ちょっとだけテレポート酔いしているが、我慢できないくらいじゃない。


「せっかく冒険だ……って張り切っていたのに、これじゃあ色々と台無しね」


 一瞬にして最初の目的地にたどり着いたから感慨も何もない。


 ただアズリアも参加するって決まったから、時間的効率を考えて魔道列車コースを止め、テレポートにしたのだ。

 仕方ないだろう。


 ――とは言いつつもだ。


「わぁ。やっぱりすっごく賑やかだね!」

「きゅわぁ。人いっぱー!!」


 帝都に入ってさえしまえばこの通り。

 帝都の活気に当てられ、沈んだテンションもどこへやら。

 一瞬でフルスロットルのナビ子とラビットAの二人。

 気持ちは分からんでもないが、一度来ているんだから二人は少し落ち着けと言いたい。

 今の二人は完全に田舎者丸出しだぞ。


「それからラビットAは危ないから向日葵ワンドをしまうように」

「きゅい~わかった」


 ラビットAが残念そうにしながらも向日葵ワンドを片付ける。

 人混みの中で自分の背丈より大きい杖を持ち歩くのは危険すぎる。

 自分でも邪魔かなと思ってたんだろう。聞き分けがよくて助かった。


「アズリア。帝都はどうだ?」


 テンションの高い二人に比べて、初めて帝都に来たアズリアは静かだ。

 どちらかと言うとアズリアの方がテンション上げるんじゃないかと思ったが……いや、この表情は驚きすぎてリアクションができてないだけだったようだ。

 俺が話しかけるとアズリアがハッと我に返る。


「え、ええ。正直、ここにくるまではライラネートとさほど変わらないのでは……と思っていましたが、ここまで差があるとは思いませんでした」


 ライラネートも活気溢れる街とはいえ、帝都と比べると人口も面積も半分以下。

 娯楽施設も特にないライラネートに比べて、こちらにはカジノに博物館に美術館、闘技場があり、さらに魔道列車で流通も盛ん。

 オマケに海まで近いと来たもんだ。

 勝てる要素などひとつしかない。


「ただファーレン商会だけは負けてないと思うぞ」

「ふふっありがとうございます」


 お世辞ととられたのかあっさり返される。

 確かに規模だけは負けてるかもしれないが、商品の質と接客は勝ってると思うぞ。


「そういえば、この帝都にはプレーヤーがいるんですよね?」

「きゅい! きゅぎゅか!」


 アズリアの質問にラビットAが答えるが……おい、全然言えてないぞ。

 帝都にいるプレーヤーはイベント最短クリアでやって来た鈴風(すずか)

 冒険者登録したその日にブラックドラゴンを倒し、闘技場では無敗を誇る剣闘士。

 帝都では知らないものはいないと言われるくらいの超有名人だ。


「その方へはご挨拶に行かれるんですか?」

「いや……別に用事ないし」


 同じプレーヤー仲間だけど、ぶっちゃけ鈴風のことは少し苦手だ。

 まぁ一晩飲み明かして悪い人じゃないってのは知っているけど……バトルジャンキーすぎるんだよなぁ。

 飲んだ次の日には無理やり連れて行かされて、闘技場で戦えってしつこかった。

 何とか断って見学だけに留まったけど。


 流石に一人でブラックドラゴンを倒すだけあって、鈴風は滅茶苦茶強かった。

 多分タイマン性能なら、絶対強者を使用したタクミより上だと思う。

 戦闘経験が全く違うから当然っちゃあ当然だけど。


 もし俺が闘技場で戦ったら、一瞬で負けてしまうだろう。

 まぁ闘技場外でカードモンスターありなら……数に物を言わせればってとこかな。


「無理して避けることはしないけど、こちらから会いに行ったりもしないってことで」


 せっかく観光に来たのに、逃げながらとか面白くない。

 出会ったらその時はその時ってことで。

 飲みくらいなら付き合うけど、もし戦いを挑まれたらアクアパッツァへ急ぐからと言って断ろう。


「ってことで、とりあえず今からは……」

「ねぇねぇシュートシュート。どこいこっか!?」

「きゅい! まほー! まほー屋さんに行きたい!」


 ……この二人は本当にもう。


「ほらほら。二人とも少し落ち着け。ひとまず宿の確保とギルドへの報告が先だ」

「えー」

「きゅえー」


 えーじゃない。これは必要なことなんだから。

 第一優先は宿の確保。

 先に確保しておかないと、遊び始めたら絶対に忘れる。

 そして夜になって満室で泊まれない……とかなったら目も当てられない。

 一応、前回泊まった高級宿……まぁ前回は飲み明かしたせいで、チェックインだけして実際に泊まることはなかったけど。

 あそこならアズリアの顔も利くし、今度こそ高級宿を堪能したいところだ。


 宿の確保の後は冒険者ギルドへ報告。

 依頼を受けるつもりは一切ないけど、ベテラン冒険者の義務として滞在している旨をギルドに伝える必要がある。

 それがたった数日だとしても、有事の際に備えて絶対に報告しなくてはならない。

 逆に出て行くときもいなくなる報告をしないといけない。

 だからライラネートを出るときも、屋敷からテレポートじゃなく、街の外に出てからテレポートしたんだ。


 まぁぶっちゃけ有事なんて滅多にないし、滞在していることをバレなきゃいい話ではあるんだが。

 すでに街に入る際に身分証として提示しちゃってるから、門番から連絡があった時点でアウトだ。

 それにバレた場合は罰則がある。

 面倒だからって理由で罰則は食らいたくないので、報告だけはしにいく。


「アズリアも商業ギルドに報告に行くんだろ?」

「ええ。一応挨拶くらいは必要でしょうから……ですが、冒険者ギルドと違い急ぎではありませんので、暇ができた際にでも向かいますよ」


 商業ギルドの場合は有事なんて気にする必要はないから、急いで報告する必要はないらしい。

 ただ帝都で商売をする際は報告する必要がある。

 最悪、商売をしなければ行く必要すらないのだが……ライラネートを代表する商会の会長として、挨拶はするべきだと。

 そもそも取引先の挨拶回りには行くんだから、その場で取引はするだろうしね。


「まぁ俺たちも買い物したいから挨拶回りは付き合うよ。なっ?」

「きゅい! およーふくほしー」

「……たまにはアタイもオシャレしようかな?」

「ああ。好きなだけ買うといいさ」


 ラビットAも向日葵ワンピースでオシャレに目覚めたっぽい。

 それにナビ子も触発されたみたいだ。

 オシャレをしてラビットAが可愛くなるのはいいことだし、どんどん買えばいい。

 もちろんカード登録だけはさせてもらうけど。


 ただ買物は挨拶回りのついでだから、明日……いや、明後日以降かな。

 今日と明日は観光でとことん楽しんでやるよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、ラビットAが金田朋子ボイス(魎皇鬼ちゃん@天地無用)にしか思えない……w
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