第8話 冒険スケジュール
港町アクアパッツァは帝都バルバラートから更に東に行った場所にあるとのこと。
そこの海岸に極稀に海竜石が打ち上げられると。
「ってことは、海竜石の採掘場所はアクアパッツァの近海にある?」
「そう言われてはいるが……具体的な場所は分かってない。深海の捜索なんて湖底捜索以上に難易度が高いからな」
なるほど。
あくまでも打ち上げられているのを確認できるだけだから、それが近海からなのか遠海から海流に乗って流されたのかも分からない。
この世界には船はあっても潜水艇のようなものはないから、どうやって探せって話だ。
潜って探すにも限界があるしね。
う~ん。
てっきり海底ダンジョンみたいなのがあって、そこから採掘できるって話かと思ったのに。
流石にこれじゃあ探せないな。
だからといって今更海に行かない選択肢はないけど。
なら帝国内で面倒くさい手続きも必要ないアクアパッツァ行きでいい気がする。
ギルドには……海のモンスターの素材でも渡せば貢献度としては十分だろう。
「とりあえず行って見るだけ行ってみるよ」
俺はギルマスに礼を言ってギルドを出た。
****
ギルドから戻ってきた俺は昼飯にとピザを焼く。
……とは言っても、カード合成なんだけど。
ナビ子が以前日本から持ち帰った料理本からピザのページを見つけ出す。
そのページをレシピとして合成すれば一瞬で完成だ。
「う~ん。一瞬で焼き立てを食べられるとはいえ、焼いている時の匂いがないのはちょっと残念だな」
手間暇掛からず一瞬で完成するカード合成のだが唯一のデメリットとして、料理中の匂いを楽しめないこと。
カレーとかもそうだけど、待っている間の匂いが食欲を促進させるんだよね。
まぁ俺は料理をできないので、カード合成するしかないんだけど。
「あっ今日のお昼はピザなんですね」
そうこうしている間にサナがリビングに顔を出す。
「ああ。ちょっと食べたくなってな」
その理由がアクアパッツァというピザとは全く関係はないんだけど。
いや、イタリアンってことを考えると全く関係ないってことはないな、
「私シーフードピザが好きなんですよね~」
……シーフードピザはないけどな。
これから手に入れに行くので、そうなったらシーフードピザも作ろうかな。
その前にアクアパッツァを作るけど。
「じゃあ私、みなさんを呼んできますね」
サナもそうだけどアズリアとガロンも俺がキルドから聞いてきた話を聞くために、昼休みを利用して戻ってきている。
別に夜でもいいと思うんだけど……みんな俺がどこに行くか気になって仕方がないらしい。
そういうわけで、昼飯を食べながら、みんなにギルマスから話を聞いて行き先を港町アクアパッツァに決定したことを伝える。
「ってなわけで海竜石は諦めるんだな」
「なん……じゃと」
海竜石という未知の鉱石が手に入る場所と聞いて喜んだのも一瞬。
採掘できないと知り、打ちひしがれるガロン。
まぁこればっかりは仕方がないよね。
「私は新しい子を連れてきてくれるならどこでも……」
「ん。水族館計画に変更なし」
サナとアゼリアは変わらず。
というか水族館計画は進めるんだな。
……俺は無関係だからな。
「港町アクアパッツァ……」
その中でアズリアだけは行き先を聞いて思案顔。
「どうした? アクアパッツァに何かあるのか?」
まさか美味しそうって感想ではないだろう。
あっでもアズリアは日本の知識を持っているから、アクアパッツァのことを知っているかも。
「いえ。少し地理を思い浮かべてまして。確か帝都からさほど離れていない場所でしたよね?」
うん。やっぱり違った。
「そうだな。ギルマスの話によると帝都から馬車でも二日かからない場所らしい」
馬車が一日50キロくらいが目安だから100キロもないだろう。
「アクアパッツァまではどうやって向かうのですか?」
「とりあえず帝都までテレポートで行って、そこから馬車かなぁ」
帝都までのルートは陸路、空路、テレポートの三パターン。
陸路は一般的な移動方法で、一ヶ月かけて魔道列車の走っている四大都市のサブカナートまで移動。
それから魔道列車に乗って数日かけて帝都までって流れになるのだそうだ。
別に急ぎの旅ではないけど、流石に目的地まで時間がかかるのは嫌だしなぁ。
空路は飛行モンスターに乗って移動する方法。
前回、帝都に行く際は数日間グリフォンに乗ってたどり着いた。
陸路よりも早いが……前回の移動方法で同じ方法は使いたくない。
最後のテレポートは一瞬で帝都にたどり着く。
ラビットAもテレポートを使いこなしているからな。
帝都くらいの距離でも何なく使えるだろう。
ってことで、陸路は時間がかかりすぎるし、一度使った空路を使うくらいなら、さっさとテレポートで帝都まで移動して、帝都で数日観光してから目的地に移動ってのが一番な気がする。
でも魔道列車には興味があるから、サブカナートまでグリフォンで移動してから魔道列車で帝都に向かうってのもありかもしれない。
まぁその辺りは出発までに決めればいいだろう。
「シュートさん。アクアパッツァでの滞在期間はどのくらいを予定していますか?」
「いや、全く考えてないけど……」
とりあえずアクアパッツァで手に入るカードを集め終わるまではいるつもりだ。
それが数日なのか一ヶ月なのかそれ以上なのか。
「……すぐに帰ろうと思えばラビットAちゃんのテレポートで帰れますよね?」
「まぁそうだな」
通信機があるからこっちで問題があればすぐに戻ってくるつもりだ。
というか、やろうと思えば、ここと牧場のようにテレポートで毎日こことアクアパッツァを繋ぐこともできる。
寝食はここで、通勤のようにアクアパッツァでカード集めみたいなことだって可能だ。
だがそれはしたくない。
そんなのはもう冒険じゃなくてただの仕事だ。
冒険と言って出ていくのなら、帰ってくるのは冒険が終わった時。
まぁ本当にここがピンチとかなら戻ってくるけどさ。
アズリアはまた少し考え込む。
「あの、シュートさん。折り入ってお願いがあるんですが」
なんだろう?
以前のようにコンテナ五個分の荷物を持って行けとか?
別にアントープの時と同じように納品くらいならやってもいいけどさ。
「今回の旅にご一緒してもよろしいでしょうか?」
……おや?
「ご一緒って……アズリアも俺たちについてくる?」
こくんとアズリアが頷く。
「ええと。ファーレン商会は帝都の商会ともお付き合いがあるのはご存知だと思いますが」
いや、ご存じないけど……でも前回帝都に行った時はアズリアの紹介で高級宿に泊まれたな。
「ですが、私が帝都に行ったことはないのです」
それは知っている。
以前のアズリアは引きこもりのアゼリアの面倒を見るために遠出ができなかった。
そのため、ファーレン商会と帝都の商会との取引は、他の社員が帝都に行って交渉していたそうだ。
「流石に商会長として一度は取引先に挨拶しておきたいですし、アクアパッツァの商会とは取引したことがありませんので、是非ともご挨拶したいです。それにはシュートさんだけですと頼りないですから」
ほっとけ。
というか、俺はそもそも社員じゃね―し。
「もちろんシュートさんの冒険の邪魔はしませんよ。アクアパッツァから帰るときに迎えに来てくだされば」
つまり現地では別行動と。
ふむ……俺としては全くもって問題ない。
というか、断れば俺が変わりにファーレン商会の営業をしろとか言われそうだし。
「今ならアゼの世話も皆さんにお任せできますので」
「ん。アザ姉とサナがいれば問題ない」
アゼリアがドヤ顔で駄目発言をする。
「いや、問題ないじゃなくてお前は少しはちゃんと自立しろ」
俺は思わず突っ込む。
ったく。アズリアも甘やかし過ぎなんだよ。
以前の引きこもりは隠れて偵察機の解析をしていたから仕方ないとしても、今はもう面倒見る必要ないんだからさ。
まぁ引きこもっていても解析や発明でアズリアに協力しているみたいだが。
「誰かさんと違って生産性がある分、アゼリアの方が優秀だよね」
……どーせ俺は引きこもり中は完全に遊んでますよーだ。
「というかナビ子はいいのか?」
いつもなら駄目に決まってるでしょーがとか言いそうだけど。
「ん? 別にいいんじゃない?」
だが思いの外アッサリとナビ子は同意する。
「だってアズリアがいなかったら、どーせ代わりにシュートがお仕事させられちゃうんでしょ? それに付き合うくらいならアズリアと一緒の方が何倍もいいよ」
ナビ子も俺が冒険先でファーレン商会の営業に駆り出されるよりはアズリアが行動を共にするほうがいいと。
「ただまぁアザレアが何て言うかだよね」
……本当にな。




