第6話 さぁどこへ行こう?
仕事から帰ってきた面々は、俺が部屋から出てきていることに驚き半分、やっと出てきたかと呆れ半分。
そこで俺はナビ子の時と同じように、言い訳という名のコレクター魂と冒険に出かける旨を説明した。
「仕事をサボって引きこもり。出てきたかと思ったら今度は言い訳。挙句の果てに今度は旅行ですか。自由気ままでいい身分ですねぇ」
思いっきり皮肉られた。
ただまぁ日本で一週間仕事サボった挙げ句、旅行に行きますじゃクビ間違いなしだ。
うん。我ながら自由すぎる。
皮肉くらいは甘んじて受け入れよう。
「それで、今度はどこに行かれるおつもりですか?」
皮肉を言っても、止めたりはしない。
みんなも俺たちの事情は知ってるし、冒険に出てもちゃんと帰ってくることも分かっている。
まぁ以前みたいに一ヶ月制限はないから、何ヶ月かは帰ってこないかもしれないけど……通信機があるから連絡はできるし、テレポートもあるからその気になったらいつでも帰ってこれるしね。
「その冒険の場所なんだけどな。まだ何も決めてないんだ」
問題はどこに行くかだ。
帝国内か他国か、そもそも何をしに行くのか。
目的のない旅は初めてだ。
だからこそどうしていいか分からない。
そもそも俺はこの世界の地理に詳しくないしな。
「ってことで、どこか行って欲しい場所はないか?」
ってことで、行き先を決めてもらいたいと思う。
条件としてはコレクションを増やせる場所ってことだけ。
素晴らしい景色とかくつろげる温泉とか、そういったのは二の次。
……まぁそんな観光スポットがこの世界にあるか知らんけど。
ともかく最優先はまだ登録されていないカードを増やすこと。
そのため一度行ったことのあるブルームなどは却下。
行ったことない場所でも、ライラネートで手に入るようなものが特産品だったり、俺の持っているモンスターしか出ない場所だったりする場所は却下。
その条件さえ満たしてくれればどこでもいい。
お土産も買ってくるつもりだから、各人が欲しいものがあるならその場所でもいい。
引きこもりだったアゼリアや俺と同じプレーヤーのサナには難しいだろうが、冒険者ギルドで働いているアザレアやファーレン商会で商人ネットワークを持っているアズリア、元冒険者で鉱石を探していたガロンには期待している。
「いきなりそんなこと言われましても……珍しいスキルや魔法がある場所なんて存じませんし」
……別にスキルと魔法に限定する必要はないんだが?
「私はうちの店で取り扱っていない商品さえあれば……あっ、ついでにそこの商会と定期的に取引できるようになれればと」
だからそれはどこだよと。
というか、俺は商人ネットワークを駆使した情報が知りたかったのに、新しい商人ネットワークを構築するとは言ってないぞ。
「ん。この世界に残ってる偵察機を探してきて」
んな無茶苦茶な。
そりゃあ運営が回収できなかった偵察機がまだあるかもしれないが、だからそれはどこにあるんだよ。
「ふむ。ここでは手に入りにくい鉱石が欲しいのう」
……だから具体的な場所と鉱石名をだせと。
「私は牧場で育てられる子を……」
それは俺も欲しいけど、だからどこに行けばいいんだと。
「つ、使えねぇ」
思わず口に出てしまう。
駄目だ。
誰一人として具体的なことを言いやしない。
「失礼ですね。こちらとしても、もう少し具体的に何が欲しいかとか、どんなモンスターに出会いたいとか仰っていただきませんと、アドバイスのしようがありません」
……そうは言ってもなぁ。
具体的に欲しい物とか……持ってないのなら何でもいいんだって。
まぁ何でもいいが困るってのは分かるけどさ。
「いっそのこと、棒が倒れた方向に行くとか、行き当たりばったりでいいのでは? あっ他国とはほぼ取引しておりませんので、繋がりを得るのであればどこでもよろしいですよ」
「それならば魔族領にでも行けばよくないですか? 魔族ならば珍しいスキルをお持ちでしょうし」
投げやりにアズリアとアザレアが言う。
この姉妹は本当に……。
だが、魔族領という言葉にナビ子が反応する。
「魔族領は駄目っ!?」
「あら。ナビ子さん。どうしてでしょうか?」
「だって魔族領にはサテラがいるんだもん」
あーなるほどね。
改造のプレーヤーだったエイジと相棒のサテラは運営との戦いの後、魔族領へと向かった。
「別にサテラさんがいても問題ないのでは?」
「それだとサテラに自慢できないじゃないのさ!」
エイジには、いつでも連絡ができるように通信機を持たせていたんだが、その通信機でナビ子とサテラは定期的に連絡を取り合っていた。
一応俺もナビ子から近況は聞いていたんだが……直近では魔族領で知り合った教授って人と意気投合して研究の日々を送っているらしい。
教授は魔族じゃなく人間って話だが、人間が魔族領で研究って……しかもエイジと意気投合したって……いったいどんな研究をしているのやら。
その一方で、ナビ子は変わらない生活の日々。
例えるなら長期休み明け後に友達が家族と旅行に行った自慢話を聞かされてた気分だろう。
そこでナビ子もサテラの知らない場所に行って楽しんだと自慢したいと。
……サテラが羨ましがるかどうかは知らないが。
俺もいつか魔族領には行ってみたいが、今行くとエイジを追いかけて行ったみたいだからそれはちょっと。
ナビ子じゃないけど、次に会うときまでに、話のネタくらいは仕入れておきたい。
「そういえば以前、海に行きたいと言っておりませんでしたか?」
「海ねぇ……」
「あら。あまり乗り気ではなさそうですね」
確かにアントープの街に行ったとき、近くに海があるって話を聞いて、行きたいとは思っていた。
ただそれはあくまで半年くらい前。
あの時と今では明らかに状況が違う。
「……いま海に行くのは寒くない?」
今は雪解けしたばかりの初春。
海水浴にはだいぶ早い。
「魔族領も嫌、海も嫌。どこでもいいと仰るわりには随分とわがままなことで」
いや魔族領は俺のせいじゃないし。
「そもそもシュートさんは冒険に行かれるのであって、泳ぎに行くわけではありませんよね? であれば、多少海水が冷たかろうが関係ないではありませんか」
むっ言われてみれば確かに。
「それとも……水着の女性が見れなくて残念とか思ってませんよね?」
「シュートさいてー」
いやいや!? 流石にそれは冤罪だって。
……まぁ見たくないと言ったら嘘になるかもしれないけど。
俺は思わずアズリアを見る。
もしアズリアが水着を着たら……。
「こら。何故わたくしではなくアズを見るのですか?」
「えっいやそれはですね」
ヤバい。
さっきまでの冗談とは違い目がマジだ。
「ふふっ見たいですか?」
「シュートさいてー」
さらに追い打ちをかけるアズリアとナビ子。
「ちっ、ちが……ごめんなさい」
結局俺は言い訳することができずに謝ることしかできなかった。
アザレアはひと睨みし、ため息をつく。
「……まぁいいです。しかし、水着はともかく、やはり海というのはアリではないでしょうか? 海のモンスターはいらっしゃらないですよね?」
「そうだな。一応水陸両用でヒュドラーと水空のEセイレーンだけかな」
あとカエルもいるが、ウチのカエルは地面を泳ぐから違うと思う。
「ここから海は遠いので、海のモンスターの情報は入ってきませんが、珍しいスキルや水魔法を持っていそうです」
確かにそうだ。
水泳とか遠泳とか潜水とか泳ぎのスキルとか……水中呼吸のスキルとか手に入るかも!?
「私も海は賛成です。ここでは新鮮な海産物はお目にかかれませんからね。カード化を使えば、鮮度を保ったまま持ち帰れますよね?」
「生きたままは無理だけど、鮮度は落ちることはないな」
モンスター以外はカードにできないので、生きた魚や貝はカードにできないが、それでも死んでいれば食材としてカードにすることはできる。
活き造りは無理だとしても、それなりに新鮮な魚は持ち帰れるよな。
ただ……えっ? もしかして取引先を探せとかじゃないよね?
お土産程度として買ってくるのはともかく、ファーレン商会の取引までは知らんぞ。
「以前、お主が持っておった水竜石。あれで武器を作ってみたいのう」
ガロンまで……。
しかし確かに水竜石は俺も欲しい。
ガロンの言う通り俺は水竜石を依頼の報酬で一個だけ所持していた。
――――
水竜石【素材】レア度:☆☆☆☆
水の魔力を宿した鉱石。
水竜の魔力を受け続けた場所でしか見つからない。
――――
ただこの水竜石はセイレーンの合成素材として使ってしまったが。
そのセイレーンが星5のEセイレーンに進化したし後悔してない。
だが他にも用途はあるし、追加で手に入るなら是非とも手に入れたい。
でも……海だからって簡単に見つかるはずが……あ~でも、水竜石をくれたギルマスなら知っているかな。
「海の中……偵察機……さるべーじ」
いやアゼリアよ。
どんなに頑張っても偵察機は無理があると思うぞ。
でも……海に沈んだって可能性はなくなないかも。
流石に狙って探さないけどね。
「海のモンスターかぁ。どんな子がいるんでしょうね」
うん。俺もそれが一番の楽しみだ。
めちゃくちゃカード集めが捗りそうだ。
でも……海のモンスターって釣り上げるのか?
それとも泳いで狩るのか? って、考えたら水竜石の採掘もどうなのか。
……泳ぐとなったら、やっぱり夏の方がいいような。
ただそんな事を言うとまた水着がとか怒られそうだから言えないけど。
それにしても……全員海の話で盛り上がっている。
どうやら海行きは決定したみたいだ。




