第3話 シュートの成長
ともあれ冒険に出ることになった俺とナビ子。
となればだ。
どこに行くとしても、その前にやらなくてはならないことがある。
俺は各種図鑑を取り出す。
「ん? なにすんの?」
「そりゃあ冒険に出るんだから準備しないと。……ってことで、まずは装備の確認だ」
もちろん装備とはカードのこと。
冒険に出る前にしっかりと所持カードを把握して準備しなくては。
ただそんな俺にナビ子はジト目である。
「アンタ……ついさっきまで一週間かけて確認してなかった?」
う~ん。
あの目は『やっぱり駄目駄目くんじゃないのさ!』とか思っていそうだ。
だが待って欲しい。
「さっきまではカード整理。確認とは違う」
あれはあくまでもカードを並べ替えたり鑑賞して楽しんでいただけ。
モンスターカードやスキルなど現時点の戦力は?
魔法カードや食料など消耗品カードの在庫数は?
必要に応じて買い足しや複製をしなくては。
いざという時に困るもんな。
「装備の確認ってのはこういうことなんだぞ」
分かったかナビ子。
だが、ちゃんと説明したにもかかわらずナビ子はまだ懐疑的な目を向ける。
「そう言ってまた引きこもるつもりなんじゃ……」
「あのなぁ。少しは信用しろよ」
俺だって冒険に出る気分になったから、今更引きこもりはしないって。
「でもシュートって多分、大掃除中に読み始めた漫画が止まらないタイプだから……どうせ確認中に並びが……とか言って脱線するに決まってるもん」
う~ん。
まったくもって否定できないのが痛いところ。
だって本棚から取り出したらページめくるじゃん。
そしたらもう止まらないよね。
「まっ引きこもろうとしたらアタイの必殺キックが炸裂するけど」
「……それは勘弁願いたいな」
仕方がない。
カード確認は後にして、先に今の自分のスキルを確認しよう。
俺は自分の冒険者カードを取り出す。
――――
カードマスター:レベル8
言語翻訳:レベル10
シャットダウン:レベル2
必中:レベル4
フェイク:レベル5
看破:レベル10
静寂:レベル10
――――
「シュートのスキルもスッキリしたよね」
一緒に覗き込んでいたナビ子が言う。
確かに。あらためて言われると俺のスキルも随分と変わったよなぁ。
俺は以前、運営男との戦いでカードマスター以外のスキルを全て失った。
もちろんスキルはすぐに取り返した……というか、運営男の100以上のスキルを全て手に入れたわけだが。
その時に、ただ覚え直すのではなく、スキルを整理することにした。
まず言語翻訳は必須スキルなので普通に取得。
気がつけばレベルもカンスト。
カンストした恩恵は受けた覚えはないけど……知らない種族の言葉や暗号なんかも理解できるようになっているのかな?
――――
シャットダウン
レベル:10
レア度:☆☆☆☆
攻撃系以外のスキルと魔法を無効化する。
このスキルより高いレベルのスキルや上位スキルには通用しない。
――――
ずっとお世話になっていた魔力妨害とスキル妨害のスキル、それと防御系の魔法の合成で完成したシャットダウン。
鑑定とか看破とか魅了のような状態異常系のスキルと魔法を、星4以下を無効化する。
まさに両方の性質プラスアルファの完全上位互換のスキルだ。
星5のスキルや魔法には効かないが……星5のスキルなんて誰が持っているんだよって話だ。
まったくもって心配する必要はない。
――――
必中
レア度:☆☆☆☆
レベル:4
目視した選んだ対象をターゲットにするスキル。
レベルが上がることに精度が上がる。
――――
命中補正の上位スキルになる必中。
仲間では星4のゴブリンスナイパーが取得しているスキルだ。
必中と言っておきながら、標的に必ずしも命中するわけではない。
命中補正の場合は対象が大きく見えたり手ブレがなくなったり、おおよその着弾地点が分かったりと、まさに補正って感じのスキルで、武器を構えて狙いを定めるところまでは自分でやる必要があった。
必中の場合は、照準調整すら意識しなくても勝手にやってくれる。
簡単に言えば当てたいと思うだけで、手が勝手に命中するポジションまで合わせてくれるのだ。
ただし、あくまでも射線は直線。
曲がったり折れたりはしないし、自動追尾もない。
それから当てたいと思いながらも、必中の照準調整を無視して自分の意志で動かしたら、当然ながら命中しない。
また、目視にてターゲットを選ぶ必要があるため、背後のものや隠れているものにも通用しない。
それから当然のことだが、防御魔法や盾などに防がれることもあるし、上位スキルだと避けられる可能性もある。
かなり使えるスキルなのは間違いないが、過信しすぎては駄目ってスキルだな。
ちなみに更に上位スキルには、威力の上がった貫通必中、見えないものにも当てる心眼必中。
上位スキルとは少し違うが、それこそ射線を自由に操れる操射や、自動追尾のスキルもあるらしい。
合成するには素材集めからやらないといけないので、手に入るのはいつになることやら。
――――
フェイク
レベル:5
レア度:☆☆☆☆
対象を別の対象に偽装させるスキル。
このスキルより高い看破系スキルには通用しない。
――――
アズリアも持っているが、偽装の上位スキルであるフェイク。
スキルとか物品を別の物に見せかけたり、自分を別人に見えるようにすることができる。
まぁここまでなら偽装でも同じことができたが……フェイクだと対象の一部分だけ限定で偽装することも可能だ。
例えば胸を大きく見せる……とか。
流石に自分でもどうかと思ったが……誘惑に負けてアズリアに聞いたら『私のは天然です!』とブチ切れられ、ナビ子には『シュートさいて』と罵られた。
うん。反省はしたが、聞いたことに後悔はしなかった。
あと元々所持していた看破と静寂。
看破は星3だから上位スキルの星4にしたかったが……看破系スキルは星4以上になると真偽眼という神眼系スキルになる。
となると合成の素材が足らず……神眼系の素材はレアすぎるんだよ。
まぁ看破で不便に思ったことはないので、このままにしている。
静寂は最重要スキル。
周りの音が聞こえなくなるから、考え事に集中するのに最適だ。
「引きこもるのに必要なだけでしょうに」
……まぁ否定はしないけど。
と、最大10個あったスキルも7個とスッキリした。
「ねぇシュート。やっぱりあの時のスキルは覚えないの?」
ナビ子が言っているあの時のスキルとは俺が運営男から奪った100のスキルのことだ。
「それは何度も言ってるだろ。あの時手に入れたスキルは使わない」
「でもでも……冒険に出るなら完全防御だけ覚えた方がいいよ」
――――
完全防御
レア度:☆☆☆☆☆
レベル:10
登録された攻撃を無効化する。
なお、物理攻撃はその限りではない。
登録するには一度その攻撃を受けなくてはならない。
――――
一度登録する必要はあるが、妨害系だけでなく攻撃系も全て防ぐことができる。
レベルが10になれば自動登録により2回目以降を完全に防いでくれる。
本来なら他のプレーヤーがこの世界に来る際に取得していたはずのチートスキル。
確かにこのスキルがあれば、冒険に出たとしても死ぬリスクは限りなくゼロになる。
「やっぱりさ。安全のためには取得したほうがいいんじゃない?」
「あのなぁ。冒険に出るなら危険はつきものだろう」
状態異常を防いでいる時点で何を言っているかと思われるかもしれないが、この世界に残ったからには多少のリスクがあった方がいい。
「それに多分、完全防御なんて覚えたら、きっと俺はコレクターを辞めるぞ」
リスクがなくなるってことは、冒険でも緊張感がなくなって……カードも簡単に集まって。
そこには多分達成感も何もない。
そんなのただの作業だ。
そんな作業でカードを集めてもなんの楽しみもない。
それならまだ日本でトレカでも集めてた方がマシだ。
「それに俺は自分のコレクター魂に誇りを持っている」
・コレクターたるもの自力でコレクションを手に入れなければならない。
・コレクターたるもの他人のコレクションに手を出してはならない。
ナビ子には何度も言ったが、俺が最も大事にしているコレクターとしての心得だ。
オークションや交渉によるトレード問題ない。
ただ権力に任せて奪ったり、盗んだりするのはご法度。
あの時はこの世界の危機ってことで、運営男からスキルを奪ったし、日本との繋がりを断つために奪ったスキルから合成でスキルブレイカーのスキルを作った。
その過程でスキルの登録はやったし、未だに図鑑の中に眠っているが、あの時手に入れたスキルは、別途自力手に入れるまでは封印すると決めている。
中には他のプレーヤーに渡すはずだったスキルもあった。
それこそ完全防御や絶対強者、カード化や改造に負けず劣らずのな。
それ以外だって有用なスキルはたくさん……それこそ自動追尾や貫通費中だってあった。
だけどそれは絶対に使わない。
合成素材にもしない。
流石に捨てることはしないけど……ただただ図鑑の肥やしになるだけ。
仮に半年前のように世界の危機になったとしたならば、使うこともあるかもしれない。
だけど、もし使う時が来るならば……それは俺がコレクターを辞める時。
「俺はな。胸を張ってコレクターと言いたいんだよ」
だから俺は運営男のスキルを永久封印する。




