第310話 日本と決別
本日2話目の投稿です。
まだ1話目を読んでない方はよろしければそちらからお読み頂けますと幸いです。
この後もう1話投稿します。
「タクミ……準備はいいか?」
俺は隠しカメラの映像を見ながら通信機を使ってタクミに話しかける。
現在タクミは牧場の森にいる。
タクミはアイビーの封印された箱を手に持っており、足元にはシートで隠されているが、縛られた状態で眠らされている運営男がいる。
『うん。いつでも大丈夫』
映像越しに見るタクミは少し緊張しているように見えるが、大丈夫そうだ。
「じゃあ……好きなタイミングで始めてくれ」
俺達にできることは、映像越しに見守ることだけ。
タクミが深呼吸して箱を開ける所を全員で黙って見ていた。
****
『アイビー! アイビー聞こえる!?』
箱から旅のしおりを取り出し、話しかける。
『うっ、……う~ん』
旅のしおりから飛び出したアイビーは、まだ心ここにあらずといった状態のようだ。
『アイビー! しっかりして!』
『……はっ!? えっ!? バルガス?』
『ああ……よかった。目が覚めたんだね。ねぇアイビー。どこまで覚えている?』
『どこまで……っ!? バルガス! アイツらは!?』
『うん。時間がないから落ち着いて。簡単に説明すると、アイビーは負けてこの箱に封印されていたんだ』
『封印!? そういえば、バルガスの強制操作が解かれて、もう一度発動しようとして……そこから分からない』
『シュートが僕達の影にモンスターを隠していて、いつでも攻撃できるように仕組んでいたんだ』
『なんですって!?』
『アイビーの言ったように、シュートは最初から裏切るつもりだったんだよ。実際、シュートはアイビーを裏切った後、改造プレーヤーのエイジと手を組んだんだ』
『ぐっ……なんてことなの。……っ!? バルガス。まさかアンタも……』
『僕は裏切ってないよ』
『本当ね?』
『うん。裏切った振りをして油断した隙に、この箱を盗んできたんだ』
『バルガス。アンタにしてはよくやったじゃない。よし、じゃあ反撃に……』
『待って。僕とアイビーだけじゃ勝ち目がないよ。ここは一旦体制を立て直すべきだよ』
『ぐっ……でも、それじゃあ任務失敗に……』
『この事実を報告する方が大事だよ。それに……もうひとつあるんだ』
タクミは足元のシートをめくり、アイビーに運営男を見せる。
『マスター!? なぜここに!?』
『アイビーを心配してこの世界にやって来たんだ。でも……シュートに負けちゃった』
『アイツ……絶対に許さない!!』
『アイビー。落ち着いて。この人は無事だから。でも……だから今は一旦逃げよう』
『……そうね。マスターを危険に晒すわけにはいかないわ。でも逃げるってどこへ? そもそもここはどこなの?』
『ここはシュートの拠点の近く。僕が逃げたことがバレたらすぐに捕まっちゃうよ』
『じゃあ話している場合じゃないじゃない! 急いで逃げないと!?』
『うん。でもね、僕にちょっと作戦があるんだ』
『作戦? なによ?』
『あのね。アイビーが僕とこの人を連れて日本に戻るんだ』
『はぁ!?』
『ほら、以前シュートが言っていたけど、アイビーは僕を連れて日本に帰れるんだよね?』
『確かに帰れるけど……』
『もし帰れたら、他のプレーヤーに渡す予定のスキルとか貰ってさ。強くなってからシュートとエイジをやっつけようよ』
『他のスキルを……確かにそれなら……』
『それに、この人も助けられるよ。だって裏切ったシュートやエイジはもちろん、ナビ子やサテラだって日本には戻れないんだから』
『そうね! じゃあ帰る前に報告しないと……』
『駄目だよ! 今日本と繋がったら絶対に気づかれちゃう! だから1回で直接帰らないと』
『でも、いきなり帰ったら怒られるし……』
『アイビーは怒られないよ。ううん、僕がアイビーを守ってあげる』
『……バルガス。アンタ、少し変わった?』
『どうだろう? でも、僕はアイビーが封印されて……守れなくて悔しかった。だから、アイビーを守れる男になろうと強くなろうと思ったんだ」
『そう……じゃあバルガス。アチキをちゃんと守りなさいよ!』
『うん。……分かっているよ』
『さっ、じゃあ一旦日本に帰るから、マスターを抱きかかえて頂戴』
タクミはしゃがんで運営男を持ち上げる。
『いい。今からアンタとマスターを旅のしおりに入れるから。体の力を抜いて楽にして……』
アイビーがそう言うとタクミの身体が光に包まれ消えていく。
消える瞬間、タクミは隠しカメラの方を向き……ありがとうと呟いた気がした。
そして、アイビーも旅のしおりに戻って……旅のしおりごと、その場から消えてしまった。
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「……行っちゃったね」
ナビ子の呟きに、ああとだけ答える。
「これでもう日本に戻れなくなっちゃったんだ」
「タクミが成功させていればな」
まぁきっと成功しているだろうけど。
今はまだ移動中かもしれないので、もう少ししたら確認してみよう。
「シュート。すっかり悪者になっちゃったね」
「仕方ないさ。裏切って、封印したのは事実なんだし……それに、いちばん大変なのはタクミだ」
日本に戻った後、タクミはアイビーに裏切り者と恨まれることだろう。
二度と許されることはないかもしれない。
それでも、タクミはアイビーと一緒に帰ることを……そして守り続けることを選んだ。
これから先、タクミやアイビーがどうなるか俺には分からないし、知ることもできない。
でもタクミならきっと上手くやれると信じている。
頑張れよ……タクミ。
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それから数時間後、エイジは魔道具の効果を切った。
「ナビ子……どうだ?」
ちゃんと道は途切れたか、運営と連絡が取れなくなっているか確認してもらう。
「うん。ちょっと確認してみる」
ナビ子はそう言って旅のしおりに戻ろうとして……戻らない。
「あれっ? ……ねぇシュート。旅のしおりに戻れなくなっちゃった」




