第309話 計画前夜
本日1話目の投稿です。
本日は後で続きを投稿します。
無事に鈴風と話ができた俺は、ライラネートに帰還した。
「ほぅ。それでシュートさんは見目麗しい女性と二人で飲み明かしたと」
「それどころか、次の日には仲良く帝都デートですか」
「シュートさいてー」
「きゅいてー」
「いやいや!? いったい何を聞いていたの!?」
任務完了の報告をしたら、何故かアザレアとアズリアに責められる。
確かに鈴風とは朝まで飲んだけど、話したことは主に酒談議だよ!?
それに次の日だって、帝都の観光案内を頼んだけど、鈴風の闘技場で戦う姿を見せられただけ。
つーかナビ子とラビットAはこっち側だろ!!
ったく。すぐに悪乗りするんだから。
「まぁまぁ。シュート、その最後のプレーヤーの心配はいらないんだな?」
うんうん。まともなのはエイジくらいだよ。
……見た目は魔王だけどな!!
「ああ。日本には全く未練はないってさ」
あれから鈴風に色々と話を聞いたけど、鈴風は日本に全く興味がないどころか、他のプレーヤーのことすら全く気にしていなかった。
この世界に何人のプレーヤーがいて、どんなスキルを持っているのかさえ知らなかったのだ。
運営との繋がりも、単純に毎月日本酒を送ってくれる存在程度の認識だったし。
そりゃあ別に日本との繋がりがなくなってもいいと思うよね。
「それに勘違いもしてたし」
これは完全に意図しなかったんだが、俺が運営の目的など面倒なことは何も言わず、ただ日本との繋がりが途切れるって説明しただけ。
だから、単純に世界間を維持するのが大変で繋がりを断ち切ると……俺達の仕業だと思いもしなかったらしい。
ただ、これは電子妖精のムサシが運営に確かめたらすぐに分かること。
もし、問い合わせして俺が運営と対立したことがバレたら、運営に逆らえないムサシは敵対するかもしれない。
だから、一応すでに繋がりが不安定だから、連絡しないようにって言ってある。
ムサシはアイビーとは違って、運営の狂信者ってわけじゃない。
むしろ、毎月の定例会に参加するのも億劫って思っていたくらいだから、わざわざ問い合わせをして俺たちの話の真偽を確かめるような真似はしないだろう。
まぁ仮に問い合わせをしても、計画決行は明日だから、テレポートでもできない限り、鈴風とムサシにどうすることもできないけどね。
「タクミの方も準備はバッチリなのか?」
「うん。スキルブレイカーのレベルも10になったし、大丈夫だよ」
レベル10!?
たった数日でカンストしちゃったのか。
いったいどんな使い込みをしたのか。
でも、これで本当に準備万端ってことか。
後は明日を待つだけ……。
****
本来なら英気を養うために、早めに休むべきなんだろうが、俺とエイジとタクミの男3人で最後の夜を飲み明かすことにした。
「僕、高校生でお酒は飲めないんだけど……」
「大丈夫。ここは日本じゃないから気にすることはない」
「第一、今のタクミの身体は未成年じゃない」
そう言って俺とエイジはタクミに缶ビールを渡す。
もし本当に嫌ならジュースに変えるけど……酒に興味はあるようで、タクミも嫌がりはしなかった。
「乾杯」
男三人。
盛り上がる必要もないので、軽く缶をあわせるだけ。
そして一気に半分ほど飲む。
いやぁやっぱりビールは最初の一杯が最高だな。
「うっ……にがっ」
一方タクミの方は、初めてのビールにしかめっ面を浮かべる。
「ははっ。タクミにビールはまだ早かったか」
「うん。僕はジュースの方がいいかな」
俺はジュースをタクミに渡す。
「日本に戻って……20歳を過ぎたらもう一度チャレンジしてみるよ」
「うん。それがいい」
今のでビールが苦手になって今後一切飲まないってのは悲しいもんな。
「それで……ビールを飲む度に今日のことを思い出すと思う。シュートさんとエイジさんと三人で飲んだんだって。僕には一緒に飲んだ素敵な仲間がいたんだって」
タクミは声を震わせながら……涙をこらえながら、ははっと笑う。
「日本でも……ずっと一人だった。そんな僕に……初めてできた友達。シュートさんとエイジさん。僕は二人に出会えて……仲間になれて……本当に良かった。……ありがとう」
タクミは途中で何度も声を詰まらせながら……他にも色々と言いたいこともあったようだが、ありがとうと。
それだけをなんとか絞り出したように言う。
本当はもっとこの世界で一緒にいたい。
この世界で冒険や旅をしたい。
そう思っているかもしれない。
俺だってせっかくタクミと打ち解けれたところなんだ。
それこそエイジと三人でこの世界を旅できたら面白いと思う。
だから、日本に戻るなと。
今からでも別の方法を考えようと。
そう言いたい。
でも、それはできない。
わがままで……生意気で……打ち解けることができなかった少女。
そんな少女と今度こそ打ち解けるため。そして守るため。
今までずっと流されていたタクミが彼女のために決断したこと。
それを邪魔することはできない。
「タクミ……」
だから俺ができることはただひとつ。
「俺とエイジを仲間だと思うなら……さん付けじゃなく呼び捨てにしろ」
対等の仲間として送り出してやるだけ。
タクミの目から堪えていた涙が溢れ……
「うん。……分かったよ。シュート、エイジ」
笑ってそう答えた。




