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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第7章 カードマスター
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第308話 音速の鈴風

「シュート。かんぱーい!」

「きゅい! かんばー!!」

「ああ。乾杯」


 俺は空のグラスを持ったナビ子と、ニンジンジュースを持ったラビットAと乾杯する。

 帝都の観光を終えた俺たちは、繁盛していた酒場で乾杯していた。

 ちなみに飲み物を口にできないナビ子は空のグラスを。

 ラビットAのジョッキにはニンジンジュースが入っている。


「シュートシュート。帝都ってすっごいね」

「きゅい! きゅい!」


 二人とも興奮して語彙力が乏しくなっている。

 まぁ俺も似たようなものだけど。


 広場で大道芸をしていたり。

 絵画や彫刻の芸術品を扱った美術館がいくつもあったり。

 演劇やコンサートのホールがあったり。

 モンスターや、剣闘士が戦う闘技場もあり。

 おまけにカードとコインを使用するカジノまであった。


 それに魔道列車のおかげで国中から特産品が集まるため、大手商会は、どこもファーレン商会クラスの品揃えだし。


 冒険者も多種多様。

 テイマーもざらにいるし。

 スライムやリスのような小動物から、虎のモンスター、挙げ句の果てには小さなドラゴンを連れて歩いているテイマーもいた。

 おかげでナビ子を連れていても、全然目立たなかった。

 だから調子に乗ってラビットAまで呼び出してしまったんだが。


 というわけで、三人で楽しく帝都内を観光しまくった。

 だが、とてもじゃないけど、1日で回れる場所じゃない。

 というか、観光名所がありすぎて、観光マップまで販売しているくらいだ。

 今度、1ヶ月くらいかけて、ゆっくりと観光したいな。


「ねぇねぇ。明日はどこに行こうか?」

「きゅい!! 新しいおよーふくがほしーの! ひらひら!」


 ……確かに街で可愛い服を見かけたけどさ。


「お前ら……本気で何のためにここに来たか覚えてないだろ?」


 俺たちの目的はあくまでもイベントプレーヤーの鈴風に会って説明すること。


「明日は朝一にギルドに行くぞ」


 俺がそう言うと二人がふくれる。


「ぶぅ。シュートのけちんぼ」

「けちけち」


 だからけちじゃないだろうと。


「んでもさ。別にギルドに行かなくても、普通に会えるくさくない?」


 一応、観光ついでに音速の鈴風について知っている人を探したんだが……マジで知らない人はいないくらいの有名人だった。

 冒険者登録をしたその日にグリムクラスのブラックドラゴンをソロで討伐した新人冒険者。

 その討伐でレベル30になってしまったため、上級職への転職を希望。

 上級職になるには貢献度や能力、素行などが必要となってくるが、ソロでドラゴンを退治できる実力と将来性を買われて特別に上級職への転職となる。


 そして現在は冒険者活動をしながら、闘技場で無敗の剣闘士としても活躍中とのこと。


 そりゃあ有名になって当然だ。

 むしろこれだけの有名人なら、ギルドも秘密にしなくてもいいだろうにと思わなくもない。

 まぁ、だからこそ変なことを考える冒険者も多いのかもしれない。


「だからさ。明日は直接闘技場に会いに行こうよ」

「きゅい! さんかするー」


 いや、会いに行くじゃなくて、闘技場を楽しみたいだけだろうに。

 というか、確かに姿を見ることができるかもしれないけど、選手だと警備が厳しくて会えないに決まっている。

 まぁ不法侵入すれば会えないことはないと思うが……明日ギルドに行って、対応次第じゃそれでもいいかもしれない。


 そんなことを考えていると、酒場の客が一斉にざわつく。


 ん? なにごと?

 そう思って周囲を見渡すと、客の目が入口に集中している。

 俺も振り返って入口を見ると……そこには着物姿の女性が立っていた。

 すらりとした長身。おそらく俺よりも背が高い。

 そして、腰にまで届きそうな美しい黒髪をポニーテールにしている。

 手には自身よりも更に長い武器。軽く2メートル以上ある薙刀を携え。

 肩にはブラウニータイプの電子妖精。


 ……その女性が何者なのか、言われるまでもなかった。


「ほらシュート。簡単に会えた。これで明日も観光だね」

「かんこー!」


 この二人は……もしかして気配察知でこっちに向かっていることを知っていた?

 いや、察知無効の魔道具を発動中だから、ナビ子が探すのも……鈴風が俺達を探すのも無理のはず。


 じゃあ偶々……でもない。

 鈴風が普段この店に来ているのなら、他の客がざわつくはずがない。


 事実、彼女は誰かを探すように辺りを見渡し……俺と目が合うと、こちらにやってきた。


「失礼。貴方がシュートですか?」


 丁寧な口調。

 しかし、心なしか怒っているような雰囲気。


「そうだけど……アンタが鈴風?」


「わたくしに話があるそうですね。河岸を変えます。ついてきなさい」


 鈴風はそれだけ言うと店を出て行く。

 まさに取りつく島もない。


「……シュート。どうするの?」


 さっきまで余裕そうにしていたナビ子が一気に不安げな顔になる。

 もしかしたら、敵側かもと考えているみたいだ。


「とりあえず、ついて行くしかないだろ」


 どのみちこんな注目されていたら話せない。


「ちょっとまって」


 ラビットAはそういうと、一気にニンジンジュースを飲み干す。

 ……それを見て、俺もグラスを開けてから外に出ることにした。



 ****


 鈴風の案内で連れてこられた場所は、先ほどのような大衆酒場ではなく、高そうな小料理店。

 しかも通された部屋はなんと畳部屋。


「この世界にも畳があったんだ……」


 少なくとも俺は初めて見る。


「わたくしが作らせました」


 鈴風がそう言って熱燗をクイッと飲む。

 和服美人が徳利とおちょこでお酒。

 実に絵になる。

 まるで日本の料亭にでも紛れ込んだようだ。

 ……料亭なんて言ったことないけど。


「それで。わたくしに話があるとか」


 そう言いながら鈴風が俺を睨む。


「……もしかして怒ってる?」


「話があるからと、わたくしを呼びつけておきながら、宿にはチェックインすらしておらず。入れ違いになってはと思い、待っていましたが、一向に帰ってくる気配はなく。ムサシに頼んで電子妖精の気配を探ろうにも、何故か気配もない。挙げ句の果てには酒場で食事。これで怒らないとでも?」


 ……どうやら、あの後ギルドがすぐに鈴風に連絡したようだ。

 んで、俺が伝えた宿でずっと待っていたと。

 だけど、俺たちは観光していて酒を飲んでいて……そりゃあ怒るわ。


「いや、まさか待っているとは思わなくて……はい。すいません」


 言い訳しようとすると睨まれたので、俺は素直に謝ることにした。

 今回の宿はアズリアお薦めの高級宿。

 紹介状があるから、いつでも泊まれるってことで、後回しにしていたけど……こんなことなら先に宿を取ればよかった。


「それで。話とは何です? つまらない話なら許しません」


「つまらないとか、そういう話じゃないんだが……」


 なんか、運営との対立とか面倒なことをいったら怒られそうなんで、要点だけ伝えることにした。


「えっと、あと数日で日本とこの世界の繋がりがなくなって、二度と日本に帰れなくなるんだ」


「それで?」


 それでって……何故とか理由とか聞くことあるんじゃないのか?

 それとも最後にまとめて聞くつもりなのかもしれない。


「だから日本に帰るラストチャンスなんだけど……どうするかなって?」


「貴方はそんなどうでもいいことを説明するために、わたくしに無駄な時間を使わせたのですか」


 どうでもいいって……。


「えと、じゃあ帰らなくてもいいってことで?」


「当然です」


 まぁこんだけこの世界を満喫していたら、帰る選択肢はないよなぁ。


「えっと……ムサシももう帰れなくなるし、報告もできなくなるけどいいの?」


 ナビ子が向こうの電子妖精に尋ねる。


「うむ。あの煩わしい報告がなくなれば、セッシャとしてもありがたい」


 セッシャて……まぁ電子妖精の一人称に今更突っ込んでも仕方ないか。

 にしても、ありがたいって……このムサシは運営と敵対しても大丈夫なのか?


「しかし、ムサシが戻れなくなると、日本酒が手に入らなくなるわけですか」


 どうやら鈴風は定例会のお土産に日本酒を貰っていたみたいだ。

 ……なんだか一気に親近感が沸いたな。


「こちらでも似た醸造酒がありますが、やはり日本酒の香りには敵わず……それが味わえなくなるのは困りますね」


 ……酒が原因で敵対されたら堪ったもんじゃないな。


「じゃあこれは無駄な時間を使わせたってことで」


 俺はカードから日本酒を取り出す。


「ほぅ。貴方、随分と物分かりがいいようですね」


 俺から日本酒の瓶を受けとると、愛おしそうに瓶を眺める。

 ……マジで酒好きなんだ。


 結局、この後一気に機嫌が良くなった鈴風と朝まで飲み明かすことになった。

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