第307話 帝都バルバラート
「日本と繋がっている道は、ヤマトが空間認知のスキルで探して、精神感応のスキルで繋げた道が残ったものだから、発動中のスキルと言えなくもないと思う」
スキルブレイカーの効果を知ってエイジが言う。
発動中のスキルの効果を破壊ってことは、目的のスキルってことでいいと思う。
ってことで、俺はタクミにスキルブレイカーを覚えさせる。
……もちろん複製で増やしたコピーカードだけどな!
ちなみに、合成で本体を使ったスキルイーターも複製カードは作ってある。
複製カードは合成で使用できないし、スキルイーターなんて危険なスキルを使うことはないかもしれないが……コレクターとしてはどんなカードでも集めないとね。
「じゃあタクミがこれを覚えて日本に戻る時に使えば問題ないと。そういうことだな」
「ああ。……だが、流石にレベル1じゃなぁ」
スキルカードは手に入れた時のレベルがそのまま反映されるので、スキルイーターなどはレベル10で手に入っているのだが、合成で作ったスキルカードはレベル1からのスタートになる。
「月末まではまだ時間もあるし、使い方も慣れないといけないから、少しだけレベル上げしようか」
月末までは後一週間ある。
まぁ、既にスキル全盛りの運営男を捕まえたんだから、これ以上運営に戦力はないと思う。
それを考えると、もう月末とか考えなくてもいい気もするが……奥の手とか隠し持っていると嫌だもんな。
やはり月末に計画実行がいいと思う。
まぁ全員で協力すれば、一週間でレベル8くらいまでいけると思う。
そういえば、スキルの熟練度が上げやすくなる効率化ってスキルも、運営男から貰った気がする。
それも使ってやれ。
「よし、じゃあ全員でタクミを鍛えて……」
「あっ、ちょっとまって」
タクミが待ったをかける。
「もう残っている作業って僕のスキルレベルを上げるだけだよね?」
「まぁそうだな」
計画は既に立案済み。
運営男から話も聞き終えた。
まぁ俺は合成で忙しかったから、話を聞けてないけど。
そして作戦の肝であるスキルも完成した。
うん。レベル上げ以外やることはない。
「じゃあさ……お願いがあるんだよ」
ここに来てタクミのお願いとか……厄介な話じゃないといいけど。
「こっちの世界にもう一人プレーヤーがいるよね? その人……僕みたいに日本に帰りたがってないかな?」
****
そういうわけで、俺がやって来たのは帝都バルバラート。
最後に残った、イベント最速プレーヤーは、帝都で冒険者活動をしているとのことだった。
まさか同じ帝国内にいるとは。しかも帝都。
もし他国とかで移動に時間がかかるようなら、諦めもつくんだが……なまじ行けない距離じゃないのがなんとも。
だから、俺はグリフォンに乗って、ひとっ走り帝都まで来たというわけだ。
街に入った俺は魔素を遮断する箱を開ける。
そこに入っていたのは1冊の旅のしおり。
当然ながらアイビーではない。
「おい、ナビ子。着いたぞ」
俺は箱から旅のしおりを取り出してナビ子を起こす。
探知対策のための魔道具は、高速移動では誤作動を起こすらしいから、移動中はアイビーと同じように、完全に魔素を遮断する箱に入ってもらっていた。
普通に歩く分なら魔道具の誤作動は起こらない。
俺の声にナビ子がしおりから出てきて、辺りを見渡す。
「ほへぇ~ライラネートも凄かったけど、ここは次元が違うね」
驚きのあまり、ナビ子がポカンと大口を開けて間抜け面を晒している。
「ああ。空から眺めたけど、ライラネートの倍くらいでかかったぞ」
流石帝都と言うべきか。
そらから見た感じ、ライラネートを更に二回りは大きかったと思う。
もちろん面積だけではない。
建物の数も大きさも。
ファーレン商会クラスの建物がいくつも建ち並んでいた。
そして目を引くのは人口。
見渡す限りの人、人、人。
もちろんエルフやドワーフの姿もある。
だから、俺がナビ子を街中で呼び出しても、全然目立っていない。
これ……俺が日本に住んでいた地元よりも栄えてね?
「あっシュート。あっちに魔道列車があるんだって。ねぇ、ちょっと行ってみない?」
魔道列車!? 移動中に線路は見かけたけど、実物はまだお目にかかってない。
確かにちょっと……いや、かなり見たい。
「いや、駄目だ。今回は遊びに来たんじゃないんだぞ」
プレーヤーのことで分かっていることは、帝都で冒険者活動をしていることだけ。
一応、冒険者ということで、アザレアに聞いてみたんだが……噂によると、ドラゴンを一人で倒しただの、帝都最速で上級職になっただの。
嘘か本当か分からないが、かなりの有名人らしい。
なので、見つけるのは簡単だと思ったが、これだけ大きな街……いや、都市で本当に見つけることができるのか?
「ぶぅ。シュートのけちんぼ」
けちんぼて。
観光してて時間が足りませんだと絶対に怒られるだろ。
「だから、早く用事が終わったら、少しだけ観光するってことで」
どちらにせよ、帝都に行くならと、いつものごとくアズリアから取引商会向けの配達品を預かっている。
それに、俺自身も興味があるしね。
「うん。じゃあさ。早いとこギルドに行って聞いてみようよ!」
そうだな。
俺は冒険者支援ギルドに足を運ぶことにした。
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「音速の鈴風って冒険者がこのギルドを拠点にしているって聞いたんだけど……」
俺はギルドの受付で聞いてみた。
アザレアによると、イベントプレーヤーは音速の鈴風という二つ名で呼ばれているとのこと。
名前が鈴風とのことらしいが……。
「どのような用件があろうとも、冒険者様の個人的な情報はお答えできません」
ですよねー。
うん、多分そうだと思った。
良くも悪くも冒険者支援ギルドはお役所仕事だ。
酒場の噂話でも聞けるような話ですら一切情報は漏らさない。
だから信用できるんだけど。
同じようにライラネートのギルドで俺を探していると言っても、教えることはないだろう。
「俺はライラネートで活動しているシュート。別に怪しいもんじゃないけど……」
俺は冒険者カードを提示する。
「コレクター……上級職ですか」
「なっ、怪しくないだろ?」
「たとえ身分が確かな方でも教えることはできません」
……やっぱり無理か。
「じゃあさ。別に教えてくれなくてもいいからさ。同郷者が探していたと伝言を伝えてもらうってことはできないかな?」
「……同郷者ですか?」
ここで受付が少し話を聞く姿勢を取る。
「うん。そう。音速の鈴風とは、出身が同じなんだ。それで地元のことで大事な話があるから、できるだけ早く連絡が取りたいと伝えてくれたら助かるんだけど」
俺の言葉に受付が考え込む。
流石に地元のことで早急に……と言われたら、悩むよなぁ。
でも、悩むのなら、鈴風がこのギルドで活動していて、伝えられる状況であることは確実だ。
もし伝えられなかったら、受け付けられないと素直に答えただろうからな。
ってことで、俺のことは確実に鈴風に伝わるだろう。
そのまま伝えるか、不審人物として伝わるかは不明だが。
後は伝わって向こうからのアプローチを待てばいいだけ。
俺は滞在予定の宿の名前を伝えてギルドを出ることにした。
さて、思った以上にスムーズに出会えそうだし、軽く情報集めをしながら、観光でもしようかな。




