第303話 正しいスキルの使い方
運営男がカード化スキルを奪うため銃を撃つ。
黒い煙が一直線に襲いかかってくるので、さっきのようにブラストガンで吹き飛ばす。
そして、続けざまに男に向かってブラストガンを連射。
タクミやギルマスみたいな屈強な人が全力で踏ん張って、なんとか耐えられる突風。
これで吹き飛んで……とはならなかった。
突風は男に当たったかと思うと、そのまま霧散して消えていく。
「ふははは。だから言っただろう。貴様の攻撃は効かないのだよ!」
くそっ!?
どういう原理か分からないが、本当に俺の攻撃は対策されているようだ。
いや、まだ防がれたのはブリザードームとブラストガンだけ。
全部効かないと思うのは早計だ。
俺は試しに普通の銃――ベレッタを召喚する。
「むっ!?」
男の顔色が変わり、距離を取る。
なるほど。物理攻撃なら効きそうだ。
俺はベレッタの引き金を引く。
「ふっ無駄だ。アースウォール」
男の目の前に土の壁が現れ、ベレッタの弾を防ぐ。
「……魔法も使えるのか」
「ふはは。当然だ。貴様が報告した魔法は、私もすべて使える」
そりゃあ100のスキルを持つなら、魔法系のスキルを持っていてもおかしくないか。
しかし、俺が手に入れた魔法を全部使えるとか……頑張った手柄を横取りされたみたいで気分が悪い。
「したがって……こういうことも可能だ。ダークミスト」
男が唱えると、俺の周囲に黒い霧が発生する。
ダークミストは毒ガスでもなんでもないただの黒い霧。
目くらましにしかならない。
それに、どうせ相手がやることはひとつ。
俺は落ち着いてトルネードの魔法を解放する。
トルネードによりダークミストの霧と、男が撃ったであろう黒い煙が吹き飛んでいく。
魔法が使えなかったら、ヤバいコンボだったろうが、対策が取れるのであれば、なんてことはない。
「では、これはどうだ? サフォケイト」
サフォケイトは周囲の酸素を奪い、窒息死させる魔法。
星3ながら、俺の持つ魔法の中では特に殺傷能力の高い魔法だ。
だが、この魔法が使われることも予測済み。
俺は息を止め、ソリッドエアの魔法を解放する。
――――
ソリッドエア【風属性】レア度:☆☆☆☆
風属性の上級補助魔法。
対象の周囲を空気で包み込む事によって、無酸素空間でも呼吸が可能となる。
閉鎖された場所や、水中での呼吸などに使用される。
――――
ソリッドエアが俺の包み込む。
ふぅ。これで呼吸ができるようになったと。
この魔法は、防護服を着た状態になる魔法といえばいいだろう。
閉鎖されたダンジョンに閉じ込められて、酸素がなくなったり、周囲が毒ガスに覆われて息ができない場合に使えば、呼吸に悩まされることもない。
その上、水圧などにも耐えうることができるから、海底探索にも使えるらしい。
「……何故苦しまない?」
サフォケイトが効かなかったことで、初めて男が狼狽える。
……そっか。
このソリッドエアの魔法を運営は知らないんだ。
何故なら、この魔法は最近作った魔法だ。
アントープの街で海の話が出たから、海に行った時に困らないようにって、あの居心地の悪かった空の旅の途中に合成で作った。
ナビ子が最後に日本に帰還したのはアントープに行く前。
ナビ子が報告した後に作った魔法やスキルに関しては、この男は何も知らないんだ。
だとすれば……試してみるか。
俺は1枚の魔法カードを解放する。
召喚されたのは1本の氷の槍。
「アイスジャベリン? そんなのが効くはず……」
「それはどうかな?」
俺はアイスジャベリンを掴む。
ソリッドエア越しにも冷たいのが分かる。
これ……直に触っていたら凍傷するんじゃね?
ラビットAが冷たくて手を離したのも分かる気がする。
俺はアイスジャベリンを上空に投げる。
「いけっ! つららマシンガン!!」
――――
つららマシンガン【水属性】レア度:☆☆☆☆
水属性の上級魔法。
アイスジャベリンを回転させることによって、無数の氷柱を発射させる。
また、使用者の意思によって、ある程度の方向転換も可能。
――――
「なっ!? なんだその魔法は!?」
男が驚きながらも慌ててその場を退避する。
やはり男が知らない魔法は無効化できないみたいだ。
もちろん避けても無駄。
つららマシンガンは男が避けた方向へ照準を合わせる。
「ひっ、ひぃ!?」
「どうした? 情けない悲鳴なんて上げて。俺の攻撃は効かないんじゃなかったのか?」
「くっ!? 黙れ! ファイアウォール」
男が炎の壁を召喚する。
だが、ファイアウォールは星2の魔法。
相性が悪くても星4のつららマシンガンは防げ……ないはずだったのだが、俺のつららマシンガンはファイアウォールに全て防がれてしまった。
「はっはは。どうだ。無効化できずとも、貴様の魔法など効かんのだよ」
うわぁ。さっきまで必死に逃げていたのに、防げるとわかった途端これか。
何ていうか……本当に小物感が半端ない。
まぁ能力だけは強力だけど。
「魔法を強化するスキルでも持っているのか?」
「そのとおり。私は魔法倍化と即時発動、他にも魔法に関するスキルだけで10個以上持っている」
そういえば、さっきからノータイムで魔法を唱えてたな。
それが即時発動の効果か。
魔法倍化は威力が2倍になるってことか?
3倍とか4倍の威力になるのなら、星1魔法も馬鹿にできないかもしれない。
「……マジで宝の持ち腐れだな」
「なんだと?」
「いくら強力なスキルや魔法を持っていても、使う奴がこれじゃあ無意味だってことだ」
いくらこの男が強力なスキルを持っていようが、知識があろうが、しょせん素人。
理解していても、体や頭が追いつくことはない。
実際にウインドシールドで簡単に防げるベレッタの弾を、アースウォールで過剰防衛する。
銃弾をあんな大きな壁、視界の妨げになって邪魔になるだけだ。
攻撃だってそうだ。
向こうがしてきたのは適当に銃を撃つか、俺達が過去に使用した魔法ばかり。
戦ったことがないから、パターンが分からないんだ。
「俺が正しいスキルの使い方を教えてやるよ」
スキルは量じゃなくて使い方だってことをな!!




