第302話 スキルイーター
ラビットAのブリザードームから無傷で抜け出した運営男。
彼は首を捻り、肩を回し全身の動作を確かめる。
「ふはははは。これがスキル――魔素の力か。すばらしい。なんて素晴らしいんだ!」
運営男が歓喜に震えている。
あの吹雪をスキルで防いだってのか。
「シュート。ボクはあの方に逆らえないから、中立の立場を守るために、旅のしおりに戻るね」
まぁ面と向かって敵にならないだけで……いや、むしろ守る対象が減る分助かる。
「あっ、それからあの方のスキルはスキルイーター。人のスキルを食べて、自分のものにするスキルだよ。だから、カード化も取られちゃうかもね」
ルースはそれだけ言って消えていく。
スキルまで教えたくれるなんて、中立とは何だったんだレベルだよな。
それにしても……スキルイーターか。
非常に厄介なスキルを持っているな。
「サナはここから離れてくれ」
ルースが言っていたが、男の狙いはサナの天運スキル。
エイジやサテラも言っていたが、天運スキルは因果律すら変えてしまうスキル。
確実な勝利のためにも、真っ先に手に入れたかったスキルだろう。
「ラビットA。サナをライラネートへ。しばらくしたら、また呼び出す」
とりあえずテレポートでライラネートに逃げてもらえば天運スキルを取られる心配はなくなる。
俺は魔力回復ポーションを解放してラビットAに渡す。
すでに一回テレポートを使用して、更にブリザードームまで使用しているから、かなり魔力を消費しているはずだ。
「きゅい。りょーかい」
ラビットAはサナを引っ張って物陰へ走り出す。
「むっ!? 逃がすか!!」
男がさっきの銃をラビットAへ向け発射。
黒い煙がラビットAに向かって襲いかかる。
だが、さっきとは違い、今度は準備万端。
俺はブラストガンの突風で煙を吹き飛ばす。
その間に、ラビットAはサナを連れて厩舎の向こう側へと移動。
ここから見えなくなった。
残ったのは俺とミストとバル。
「すまないが二人も一旦カードに戻ってくれ」
俺は二人を返還でカードに戻す。
正直なところ、星4のゴブリンミスティックと星3のケットシーじゃ、目の前の男相では足手まといになる。
それどころか、スキルを取られたら堪ったものではない。
そう考えると、他のモンスターを召喚するのも難しい。
戦力になるモンスターほど、所持しているスキルがヤバいからな。
そのため、俺は仲間を召喚することを諦め、ソロで目の前の運営男と戦うことにした。
「貴様がカード化か。やはり裏切っていたようだな」
「何を言っているんだ? 裏切るもなにも、いきなり襲ってきたのはそっちだろ。俺は指示に従って改造プレーヤーを探していたぞ」
俺はダメ元で誤魔化す。
向こうはまだハッキリと俺とエイジが繋がっている証拠はないはずだ。
「そっちこそ、何でサナを襲っているんだ。仮に俺が裏切り者だとしても、サナは関係ないだろ」
「天運スキルの報告を聞いて、この世界で活動するためには必要不可欠のスキルだと確信した。貴様らを粛清するためにな」
「んじゃあ、裏切ってないってことで、粛清の必要はないな。日本に戻ってどうぞ」
「馬鹿を言うな。何故帰る必要がある? スキル、魔法……素晴らしい世界じゃないか!!」
「素晴らしいと思うなら、俺達なんか使わずに、最初から自分で来ればよかったじゃないか」
「何を言っている? 本体と精神を切り離して問題ないか。仮初の肉体に精神を入れて機能するのか。そして、本来の肉体に戻ることが可能なのか。実験して成功しない限り、自分で試すはずがないだろう」
ようするに俺達が成功したから、自分でやって来たと。
……ん?
「本来の肉体に戻れる? まだ誰も戻っていないだろ?」
電子妖精は戻っているが、プレーヤーは戻っていないはず。
今度帰還するタクミが最初のはずだ。
「そんなもの試せばいいだけだろう。適当に誰か入れて、すぐに帰還させれば済むだけの話だ」
……そうか。
元々こっちの世界に来る条件は運営がプレーヤーの基準にしただけ。
行って帰るだけなら、条件なんかなく、適当なプレーヤーにやってもらうだけ。
そして、結果ちゃんと帰還することができたと。
正直腹立たしい気分ではあるが、タクミも無事に戻れるってことが分かったのはありがたい。
「さて。今までの君たちの報告は十分に役に立ってくれたよ。お陰で難なくこの世界に馴染むことができた。この銃だって君からの報告がなければ完成することはなかった」
さっきの黒い煙を出している銃。
おそらくあの黒い霧に触ってしまうとスキルを食われてしまうのだろう。
「だが、君たちは生ぬるい。数ヶ月も経つのに、一向に暴れる気配がない。我々はもっとこの世界に混乱が起こることを期待したんだがね。国家を転覆させたり、戦争を起こしたり、魔王を名乗って世界征服したり」
「常識的に考えて、そんなことするはずないだろ」
「そうか? あんなソシャゲをプレイする人間なんて、力を手に入れたらそういうことしか考えないんじゃないのか?」
……とんでもない偏見だな。
「まぁいい。どちらにせよ君たちには失望した。後は私が代わりにこの世界を混乱させるから……カード化スキルは返してもらおう。何、カード化さえ素直に返してくれれば、命までは取らないでおこう。残りのゴミスキルと一緒にここで大人しく暮らすといい」
「そう言われて返すと思うのか? アンタとは経験値がぜんぜん違うんだぞ」
スキルイーターは強力だけど、ハッキリ言ってしまえばそれだけだ。
スキルイーターはおそらく直接触られるか、あの黒い霧に当たるか。
遠距離で霧にだけ気をつければ、この世界に来たばかりの男に負けるはずがない。
だが、男はそれでも笑みを崩さない。
「ふはははは。貴様もさっきも見ただろう? あの吹雪で無事だった私を。貴様が今までに報告したスキルや魔法は全て対策済みだ。どんな攻撃も効きはしない!」
くそっ。そうだった。
一体どんな対策をしたか分からないが、今までに報告した魔法やスキルは全て無効化されてしまうみたいだ。
「それだけじゃない。私はね、スキルイーター以外にもスキルを持っているんだよ。現プレーヤーの君たちに渡したスキル以外の……過去に手に入れて保管していた全てのスキルをね!!」
「んな!?」
それって、スキル消失事件で手に入れたスキルや、この後来る予定だったプレーヤー用のスキルも全部ってこと!?
「さぁカード化だけの貴様と、100以上のスキルを持っている私。たった数ヶ月こちらで過ごしただけの経験値で勝てると思うのか?」
「……勝つさ。負けるはずがない」
「ふはははは!! よかろう。では殺した後でカード化を奪ってやる!!」
こうして運営男との決戦が始まった。




