第301話 牧場の危機
俺は庭で遊んでいたラビットAを返還で呼び戻し、解放する。
「シュート。どーしたの!?」
普段は呼び戻されないから、ラビットAも、ただ事ではないと気づいた様子。
「牧場が大ピンチなんだ。テレポートを頼めるか?」
まだ、ここと牧場間のテレポートは試したことがない。
だけど、ここから牧場まではブルームよりも近い。
ブルームからここまでテレポートできたラビットAならできるはず。
「きゅい! やってみる!」
「エイジ。こっちのことは任せた。それから……ナビ子をよろしく」
ナビ子をこの敷地内から出すわけにはいかない。
ナビ子はラビットAと一緒にいたはずだから、急いでこちらへ向かっているだろう。
俺はナビ子に出会う前に、ラビットAのテレポートで牧場に向かった。
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「きゅい! とーちゃく!」
ラビットAのテレポートで無事に牧場まで到着。
若干気持ち悪いが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「サナ! どこだ!」
俺は大声でサナに呼び掛ける。
「シュートさん! こっちです!」
家を挟んで向こう側……厩舎の方からサナの声が聞こえてきたので、俺とラビットAはそっちへ向かう。
すると……そこにはサナと、そのサナを守るように、バルとミスト。
ルースはサナから離れ、オロオロと戸惑っている。
そして、正面には見知らぬ男。
男は俺と目が合うと、俺に向かって銃を構える。
「じゅ、銃だと!?」
こいつ……プレーヤーか!?
「シュートさん! 避けてっ!! 絶対に触っちゃ駄目!」
サナが叫ぶ。
俺も迎撃できるように、ブラストガンを召喚……するよりも早く男が俺に向かって引鉄を引く。
くっ間に合わな……
「シュートっ!」
隣りにいたラビットAが俺を力いっぱい蹴り飛ばして、俺をその場から吹っ飛ばす。
ラビットAも俺を蹴った反動で、反対側へすっ飛ぶ。
そして俺とラビットAが立っていた場所に、黒い煙のような物が通過する。
普通の弾じゃない!? 何だ? あの銃から何が撃たれたんだ?
「ブリザードーム!」
俺が戸惑っている間に、ラビットAが男に向かってブリザードームの魔法を唱える。
「むっ!?」
男の周囲がドーム状に包まれ、中で吹雪が吹き荒れる。
真っ白で中が全く見えないが……あの吹雪の中で無事で済むわけがない。
一応気をつけながら、俺はラビットAに近づく。
「シュート。だいじょーぶ?」
ラビットAは魔法を発動中のため、俺の方をチラリと見てすぐにブリザードームに視線を戻す。
「ああ。問題ない。助かったよ」
ラビットAがいなかったら、俺は今頃黒い霧に飲まれていただろう。
それに、すぐに攻撃に転じることができるのも。
本当、戦闘に関しちゃ、ラビットAは天才的だと思う。
「シュートさん。ラビットAちゃん」
男が捕まったので、サナ達もこちらへ来る。
「シュート! これは一体どういうことなんだい! それに、ナビ子はどこにいるの?」
ルースが詰め寄る。
だが、どういうことなのかは俺の方が聞きたい。
「サナ。あの男は誰なんだ?」
「あの人は……ルース君の話だと、運営の人らしいです」
「運営!?」
新しいプレーヤーじゃないのか!?
「そうだよ。あの方は運営の一人だよ」
あの方……運営の人間だったから、ルースはサナから離れて戸惑っていたのか。
「運営が……まさかこの牧場を狙って?」
俺を裏切り者認定して、カードモンスターである牧場のモンスターを……。
「いえ。あの人は私を狙ってました」
「サナを?」
もしかして、俺と一緒に裏切ったことがバレたのか?
「あの方はサナの天運を手に入れるからって言ってた。裏切り者達を処分するためにって……ねぇシュート。達ってどういうことなの? シュートはサテラと改造プレーヤーと戦っていたんじゃないの?」
ルースが尋ね……いや、糾弾する。
「……俺は運営を裏切って改造側についた」
「やっぱりそうなんだ」
ルースは半ば予想していたようだ。
「……ナビ子とアイビーは?」
「ナビ子は置いてきた。アイビーは……現在眠ってもらっている」
「そう。壊してはいないんだね?」
「ああ」
それを聞いて、ルースは少し安心したような表情を浮かべる。
ルースもアイビーのことは気にかけていたらしい。
「サナは? 知ってたの?」
「うん。黙っててごめんね」
「そっか。じゃあサナもシュートと同じように向こうについちゃったんだ」
「うん。それでね。ルース君にも仲間になって欲しいんだけど……」
「ボクが? 無理だよ」
サナの誘いにルースは悩みもせずに断る。
断られると思っていなかったのだろう。
サナが目を見開いて驚く。
「ボクはアイビーみたいに運営信者じゃないし、サナのことは嫌いじゃない。ううん、心情だけならサナの方が好きだよ。でもね、ボクは電子妖精だから、創造主には逆らえないよ」
……ここでも電子妖精の呪いか。
「良かったぁ。私、ルース君に嫌われたかと思った」
サナが安堵する。
嫌いだったら、どうしようもないけど、仕方なく敵となるんだったら、どうにかなる。
「良くないよ。サナは好きだけど、運営を裏切るなら敵だからね」
「なら、ナビ子と同じように、運営の影響下に置かれなくなったら? そうしたら俺達の仲間になれないか?」
要するにルースもライラネートに連れていけばいいだけの話だ。
「まぁそんなことができれば考えなくもないけど……」
「よし、じゃあここが片付いたらライラネートに戻るぞ」
まぁあの吹雪の中で無事だとは思わないけど。
……死んでしまったかな?
「シュート。油断しない方がいいよ。相手は運営だよ?」
ルースが言う。
「シュートが今までの行動はナビ子が全部報告しているんだよ。万全の対策を立ててこの世界にやって来ているとは思わないかい?」
……ブリザードームはブルームで使用したことがある。
そのデータがあれば、対策されてても……
「ラビットA。ブリザードームを止めろ」
俺の指示にラビットAはブリザードームを唱えるのを止める。
ドームが消えて、雪の塊だけがその場に残る。
普通なら、完全に凍えてしまっているんだろうが……男は熱を発しながら、無傷で雪の中から現れた。




