第300話 問題発生
あれから1週間が経過した。
サナはルースが帰ってくる前に、牧場に戻り、今はルースと一緒に日常に戻っている。
サナがルースから聞き出した話では、運営は少しこちらを怪しんでいたとのこと。
ナビ子はともかく、アイビーが一切連絡を寄越さないのは不自然すぎると思っているらしい。
そのため、ルースに連絡を入れてナビ子が生きていることは分かっているが、アイビーはその時に話していないため、既に破壊されたのではないかと考えられているそうだ。
ただし、ナビ子が改造側に寝返ったかと疑われているかといえばそうではない。
ナビ子とアイビーは仲が悪かった……というか、アイビーが一方的に嫌っていたので、仲間割れの線もあるのではないか。
だから、わざと改造プレーヤーの捜索を遅らせて報告を逃れているのではないか。
そう思われているらしい。
正直、勘違いしてくれるのなら、そっちの方がいいんだが……。
ただ、改造プレーヤーを捕らえていなくても、ナビ子から連絡があれば、定例会を待たずに一度日本へ帰還するように言われているらしい。
なので、こっちからルースに連絡はできない。
今までの情報も、サナが見つからないように少しずつ教えてくれた話だ。
しかし……こうなってくると、ナビ子はもうスキル無効の範囲内から外に出ることができない。
察知できるようになったらすぐに強制送還される恐れがある。
ちなみに、ルースはちゃんとお土産を持ち帰ったらしい。
もうビールの在庫がないので、今すぐにでも取りに行きたいが……ぐぬぬ。
少なくとも偵察機が直らない限り身動きできない。
現時点で偵察機はまだ修理は終わっていない。
材料の仕入れ等に数日要していたから仕方はないんだろうけど。
昨日の時点でエイジがそろそろと言っていたから、今日明日くらいには終わりそうなんだけど。
そう思っていたら、エイジがこちらへやって来た。
少し慌てているようだが……修理が終わったかな?
「シュート。修理が終わった」
やっぱり。
「ただ、少し問題がある」
「問題?」
修理が終わったのに、問題とかいやな予感しかないぞ。
「修理した結果、偵察機には自力で日本に帰る機能がないので、作戦を実行することは不可能だと判明した」
「日本に帰る機能がない?」
そんなはずはないだろう。
それじゃあ、どうやってスキルを持って帰るつもりだったんだと。
「ああ。簡単に言えば、旅のしおりを持っていない電子妖精……まぁ俺たちプレーヤーと似た存在ってことだ」
なるほど。
そう言われれば分かりやすい。
「しかし、じゃあこの偵察機はどうやって帰るつもりだったんだ?」
旅のしおりが別の場所にあるのか?
「おそらくヤマトに送ってもらうつもりだったんじゃないのか?」
そっか。当時はまだ生きてたんだから、ヤマトが日本へ送ってたのか。
「まぁ解析するためにも修理は必要だったからいいが、作戦に関しては……完全にタクミに頼ることになるな」
タクミがアイビーを連れて日本に帰ることは確定事項として進めていた。
そのための作戦も、既にタクミが考えている。
偵察機が使えなくなったとなると、タクミがいて本当によかったと思う。
「じゃあ後は道を消す手段か」
「偵察機だったら、改造で魔道具と組み合わせることができたんだが、アイビーとタクミじゃ改造するわけにもいかんしな」
そっか。ってことは魔道具を使うパターンは無理と。
「ってことは、スキルか魔法ってことになるな」
「確かにそうなるが……データ化した状態でスキルや魔法が使えるのか?」
……どうなんだろう?
むしろ意識がないような気もするぞ。
「魔道具だったら自動発動するようにできたんだがな」
自動発動……ふむ。
「じゃあ、スキルか魔法も自動発動できるようなものを作ればいいんだな」
「そんなことできるのか?」
「多分。まぁどちらかといえば呪いだけど。ほら、魔吸虫みたいな感じで」
俺の頭に浮かんだのはグリムの体内に寄生していた魔吸虫だった。
あれは宿主の魔力を吸い尽くすって感じだったが、あれを応用すれば、自分の意志関係なく道を壊すことができるかなぁと。
「なるほど。……それなら、俺の方でもどうにかなるかもしれないな」
元々魔吸虫を開発したのはエイジなんだから、エイジにもできるはずだ。
「解析しつつ、道の特徴を調べて、それをピンポイントで破壊……解析を最優先にする必要があるな」
「俺も手伝うよ」
改造とカード化。
この二つがあれば、多分作れないものなんて何もない。
だが、そう考えていたところでサナから通信機が鳴る。
『シュートさん!』
いつもの穏やかな感じじゃなく、切羽詰まった声。
「サナ。どうしたんだ」
『たいへ……みんなあああ! 逃げてえええ!!』
通話が切れる。
そして、牧場にいた仲間達が次々と死んでカードに戻ってきた。




