第298話 役割分担
「皆様。お待たせしてしまい、申し訳ございません」
あれからすぐに俺とアザレアはリビングへ戻った。
「姉さん。もう大丈夫なのですか?」
「ええ。アズにも心配かけてしまったようですね。でも、もう大丈夫です」
アザレアはすっかり元通り……というか、溜め込んだものを全て吐き出してスッキリしたのか、むしろいつもよりも元気になっている気がする。
「もしかして、シュートさんと何かありました?」
アズリアがニヤニヤと笑みを浮かべながら質問する。
そこはあんまり突っ込んで欲しくないのだが……
「実は、告白をして振られてしまいました」
「ぶふっ!?」
まさか話すとは思わず、俺は思いっきり噴き出す。
ちょっ!? 何で暴露しちゃってんの!?
「「「えええっ!?」」」
もちろんナビ子やアズリアを始め、全員が驚く。
「ちょちょちょシュート!? どういうこと!?」
「シュートさん! 私は姉さんを頼みますって言いましたよね!?」
ナビ子とアズリアがものすごい勢いで俺を問い詰める。
「あっ、いや、確かに断ったけど……」
でも、最終的には振ったというより、保留って感じになったよね。
「本当に……って、じゃあ何で姉さんはそんなに普通なんですか!? 今までの姉さんなら、今頃泣きじゃくって部屋に籠りっきりになるはずですよ!」
そんな子どもじゃあるまいし……とは言えないんだよなぁ。
実際に前回のドッキリの時はそうだったし。
「そうなの。姉さんはただいま傷心中なのです。ですから、アズの大きな胸でわたくしを慰めて下さいまし」
そう言ってアザレアはアズリアに寄りかかり、胸に顔を埋める。
「ちょっ!? 姉さん!? えええっ!?」
「ちょっと! シュートのせいでアザレアがバグってるじゃないのさ!!」
「いや、そう言われても……」
というか、さっきからナビ子もアズリアもアザレアに対しての言動がひどくないか?
「ああ。わたくしにもこれがあれば、シュートさんに振られなかったのかも知れません」
そう言いながら、アザレアはアズリアの胸を揉み始める。
……羨ましい。
「!? もしかしてシュートがアザレアを振ったのは胸がないから!?」
「もしかしてシュートさんが好きなのは姉さんではなく私!?」
コイツら……。
「ほらほら、いつまでもふざけてないで、そろそろ終われ」
ったく。今は他にも人がいるんだぞと。
俺達をそれなりに知っているガロンとサナでさえ置いてきぼり。
妹のアゼリアなんて、姉二人の行動に目を丸くして驚いている。
エイジとタクミなんて、どう対応していいか分からず困惑している。
「むぅ。やはり振った女なんかどうでもいいってことですか?」
うわぁ。うぜぇ。
全て吐き出してスッキリしたとしても、これはちょっとはっちゃけ過ぎたろ。
「なぁお前らっていつもこうなのか?」
エイジが呆れたように言う。
俺はそれに苦笑いを浮かべることしかできなかった。
****
ようやく落ち着いた俺達は会議を再開する。
さっきは俺たちの正体と、運営の目的までしか説明してなかったからな。
これからが本番。
「じゃあこれからどうやって運営の目的を阻止するかを説明する」
俺たちが今からやることは大きく分けて2つ。
・偵察機の修理。
・日本とこの世界を結んでいる道を破壊する方法。
「偵察機の修理はエイジに任せる」
「ああ。さっき見た感じだと、修理はできそうだ」
それはよかった。
「ガロンはエイジのサポートに回ってくれ」
「それは構わんが……儂で役に立つのか?」
「改造には大量の魔鉱石を使います。鉱石の取り扱いに長けた方にサポートして頂けると、助かります」
そう言ってエイジはガロンに頭を下げる。
俺の合成とは違い、改造は素材があるだけでは駄目。
素材を必要なサイズ、形に加工することが必要となる。
エイジ曰く、その素材準備に一番時間がかかるのだそうだ。
元々魔武器職人のガロンなら魔鉱石の扱いもお手の物。
時間短縮に大いに役に立ってくれるだろう。
「おお! そういうことなら儂に任せるがよい」
ガロンも納得してくれたようで、喜んで引き受けてくれる。
「修理に必要な材料があれば、遠慮なく言ってくれ。こちらで準備する」
素材を集めるのはアザレアとアズリアの役目だ。
冒険者支援ギルドと商人のコネを駆使してかき集める。
「この際、金に関しては気にしないでいい。ケチって手に入らなかったり、粗悪品で代用だけはしないでくれ」
「シュートさん。わたくしを誰だと思っているのですか。観察眼があれば粗悪品なんて用意するわけありません」
「そうですよ。ケチらずにバンバン使わせていただきます。そして、シュートさんを借金まみれにして、一生私の手足となって……」
不穏なことをつぶやき始めるアズリア。
……早まったかな。
まぁ流石に借金地獄になるようなことはないだろう。
それよりも、二人にも手に入らないような素材が必要な場合が一番困る。
その場合は俺のカード化で合成するか、素材を仕入れに行かなければならないだろう。
まぁ流石にグリムのもう片方の翼とか無茶なことは言わないはず。
あっでも、グリムの魔力や鱗くらいなら分けてもらえるかな。
「修理が完了したら、アゼリアの解析眼で偵察機を一気に調べる。……可能か?」
元々偵察機を研究し続けていたアゼリア。、
だが、壊れているから解析できない部分が多くて進まなかった。
だから、修理して元通りになれば、解析も容易になるはず。
「ん。直っていれば余裕」
「解析するのは道に関して。壊すヒントを見つけてくれ」
「ん。任せて」
ヒントを手に入れたら、次は俺とエイジで壊すための魔道具なりスキルや魔法なりの制作に入る。
そして、完成したら最終段階。
偵察機を日本に飛ばして、道を絶つ。
「これを1ヶ月後。次の定例会までに終わらせないといけない」
それ以上は運営にバレてしまうから。
もちろん、それまでの間でも運営にバレる可能性は高い。
そこでサナの協力が必要になる。
「サナはルースから、今回の定例会の情報を聞き出してくれ。それから、くれぐれもルースにバレないように」
すでにサナは俺達に協力してくれることを約束してくれた。
二度と日本に帰れなくなることも了承済みで。
「ルース君は仲間はずれですか? ルース君も話せば協力してくれると思うんですけど……」
「もちろんルースにも協力をお願いするさ。でも、それはこっちの準備が完了してからになる」
俺達がルースに接触すれば、ルースもナビ子同様、スキル無効化空間に入れる必要がある。
もし、こちらの準備が完了していない状態で、ルースにまで連絡が付かないようになったら……間違いなく疑われてしまう。
それだけは回避しなくてはならない。
「分かりました」
サナも納得してくれたので、サナには明日牧場に帰ってもらい、ルースが牧場に帰還するようにお願いした。
「最後にタクミは全体のサポート。大変そうな場所を手伝ってやってくれ」
正直、戦闘に特化したタクミにお願いすることは現状ない。
なので、申し訳ないが、雑用とか力仕事とかそういったことを頼むことになる。
「それはいいけど……シュートさん。エイジさん。僕の最後のお願いを聞いてもらえないかな?」
最後の。
タクミはハッキリとそう言った。




