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第31話 アンブロシアの枝

本日1話目の投稿です。

 ゴブリン戦を終えて家にたどり着くと、緊張から解き放たれたせいか、一気に疲れが押し寄せてくる。


 本当は手に入れた戦利品の確認をしたかったのだが、全部明日に回して今日はこのまま休むことにした。


 シャワーを浴びてベッドで横になると昼間の光景が頭をよぎる。


 棍棒で襲い掛かってくるゴブリン。

 一歩間違えれば大怪我だった。

 今も手には棍棒を鉄パイプで受けた衝撃が残っている気がする。

 その日俺は疲れているにも拘らず、中々眠りにつくことができなかった。



 ****


「あっシュート、おはよう。もう元気みたいね」


 目が覚めると『旅のしおり』からナビ子が飛び出す。


「ああ、もう大丈夫だ」


 中々眠れなかったけど。

 眠ってしまえば悪夢は見ないし、起きたときにはスッキリしていた。

 もしかして……例のごとくナビ子が何かしてくれたのかもしれない。

 だがナビ子からそのことを言わないので俺からも何も言わない。


「今日は昨日の戦利品の確認?」


「そうだな。といってもゴブリンとアンブロシアしかないが」


 新しいスキルとモンスターカード。

 それからアンブロシアの合成。

 下手したら今日中にレベル3に行くんじゃなかろうか?


「まずはアンブロシアだな」


 俺はカードを確認する。


 ――――

 アンブロシアの結果枝【植物】レア度:☆☆☆☆


 アンブロシアの結果枝。

 100年以上魔力をため込んだその枝の先には魔力の実がなる。

 ――――


 お……おお、初の星4。


 結果枝の先にはアンブロシアの果実が3個なっている。

 俺のカード化の能力は、果実だけでは再生しないけど、枝に実がなっている状態なら実の再生は可能だ。


 つまり、アンブロシアの果実でカード登録すれば消費アイテムで使い切り。

 今回のように枝ごとカードに登録すれば、果実が無くなると破損扱いとなり再生が可能。

 要するにこのカードにある3つの果実は毎日収穫が可能ということだ。


 これで俺は半永久的にアンブロシアを手に入れられるし、あそこのアンブロシアを占領する必要もなくなる。

 あそこのアンブロシアは野生のモンスターにも貴重な果実だからな。

 俺が占領する訳にはいかない。


「いやぁあの時馬鹿な質問して本当に良かったよ」


 確かこの世界に来た初日だったっけ。

 俺はナビ子に飲んでいたビールが再生しないか質問した。

 その時にナビ子から、カードのジャンルが【食材】や一部の消費アイテムなら再生しないが、それ以外のジャンルなら再生が可能と聞いた。

 あの時ビールのことを聞かなかったら、このことは今でも知らなかったと思う。


「シュートってさ、こういう裏技と言うか……ズルいことを閃くよね」


 俺がそう言うとナビ子が少し呆れたように言う。


「ズルいって言うか……普通に思いつくだろ?」


「これを普通って言うからズルいって言うんだよ」


 酷いことを言う。

 俺はただ栽培方法が分からないアンブロシアを定期的に手に入れたいと思っただけなのに……

 ちなみにこの方法はあの場で咄嗟に思いついた。


 試しに昨日あの場で結果枝をカード化して、果実を収穫すると、カードの破損ゲージが減っていた。

 そして一晩経つと実際に再生していた。

 再生した果実をカード化したら、以前カードにしたアンブロシアの果実と全く変わらなかったため、実験は成功ってことだ。


 そして……この実験が成功ってことは、他の実も同じことが可能ってことになる。

 たとえばチコ、リコ、クコの3つの実。

 もしこの3つ実が量産できれば、魔力や身体能力が飛躍的に上昇する。

 近日中に3リスに案内してもらって、3つの実も枝ごと回収することにしよう。


「それにしても……アンブロシアが実るのに100年掛かるのな」


 桃栗3年、柿8年とは聞くが……アンブロシアは100年ってことだな。

 アンブロシアの果実の説明文には栽培方法が確立されてないと書いてあったが……これって栽培方法が分からないんじゃなくて、単純に100年待てなかっただけじゃないのかな?

 木は成長すれども一向に実がならないんじゃ、育て方が分からないってなるに違いない。

 というか、その前に寿命が尽きちゃう。


「もし仮に100年で実るって分かっても、人間みたいに寿命が短いと育てる気はないだろうね」


「まぁ広める気もないけどな」


 100年後なんて言っても、確かめようがないんだから、ガセ扱いされるだけに決まっている。

 まぁ人間よりも長寿の種族……エルフとかなら必要な情報かも知れないが。

 エルフか……ちょっと会ってみたいよなぁ。



 気を取り直して俺は次のカードを取り出す。


「それで? そっちはどうするの?」


「う~ん、こっちはしばらく眠らせることになるのかな?」


 ――――

 アンブロシアの枝【植物】レア度:☆☆☆☆


 アンブロシアの枝。

 非常に高い魔力を有しているため、あらゆる素材として重宝される。

 ――――


 果実がなっていない太めの枝も何枚かカードにしてきた。

 これを合成の素材にすれば、きっと強力な武器が作れるだろう。

 だけど……優秀すぎる。

 現時点で俺のカード化スキルの合成結果は星3まで。

 そして残念ながらこの枝は星4。


「別に星4の素材が使えない訳じゃないよ。まぁ結果は失敗か、星3以下になるけど」


 ナビ子はそう説明したが、そんなの勿体なくて使えるわけがない。

 そういうわけで、アンブロシアの枝に関してはしばらくの間眠ってもらうことになった。

 俺があの枝を合成できるようになるのはいつになることやら。


「アンブロシアに関してはこれくらいか」


 次はゴブリンのカードを取り出す。


 ――――

 ゴブリンの死体【素材】レア度:☆


 ゴブリンの死体。

 上質の素材になるかどうかは貴方次第。

 ――――


 現在倒したゴブリン8体がこの状態だ。


「じゃあまずゴブリンの解体からだね!」


「……やっぱりそうだよなぁ」


 楽しい楽しい合成の前に、憂鬱な解体作業が待っていた。

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