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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第7章 カードマスター
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第296話 告白

「ではシュートさん。ご説明いただきましょうか」


 食後のお茶を飲みながらアザレアが言う。

 説明が長くなるから先に夕食にすることにしたのだが、そのお陰でアザレアも冷静になることができたようだ。


「えっと、さっき話したようにエイジとタクミは俺とサナの同郷。そしてサテラはナビ子の同僚だ」


 食事中に軽く自己紹介だけは済ませている。


「……随分と個性的な同郷で。しかもナビ子さんの同僚なのに、妖精ではないんですか?」


 アザレアが訝しむ。


「それも踏まえて全部説明する。俺がアザレアに隠していたことも全部。少し長くなるし、驚くだろうけど、最後まで聞いて欲しい」


「……分かりました」


 多分言いたいことはたくさんあるだろうが、アザレアは黙って聞く姿勢を取る。


 ――緊張する。

 アズリアにバレた時よりも、ガロンとグリムに話した時よりも、ナビ子に全てを説明した時よりも。

 アザレアに打ち明ける今この時が一番緊張していた。



 ****


 俺やサナ、エイジ達は元々この世界の人間じゃなく、運営という組織によって送られてきたこと。

 ナビ子達は運営に作られた存在であること。

 その運営がこの世界でやってきたことと、その目的。

 そして、アザレア達が観察眼を修得した原因。


 アザレアは最後まで黙って俺の話を聞いてくれた。


「――騙していて悪かった。俺がこの世界にやって来てまだ半年。英雄に育てられたってのも、妖精界ってのも全部違うんだ」

「姉さん……スキルのこと黙っていて申し訳ありません」

「ん、アザ姉。ごめん」


 俺に続いて偵察機の存在とスキルのことを隠していたアズリアとアゼリアが謝罪する。

 それに対してアズリアは、怒るでもなく、泣くわけでもなく。

 ただ何も答えず席を立つ。


「……申し訳ありません。少し頭を整理したいので、席を外します」


 そう言って、一人でリビングを出ていく。


「……ちょっと行ってくる」


 少し悩んだが、放っておけないので、俺はアザレアを追いかけることにした。


「すまないが、ナビ子もここに残っていてくれ」

「うん。頑張ってね」


 俺の言葉にナビ子は俺から離れ、アズリアの方へ行く。


「シュートさん。姉さんをよろしくおねがいします」

「ああ。分かってる」


 アズリアの言葉に俺は小さくうなずく。

 俺はリビングを出てそのまま外へ出る。


 ――さて、アザレアはどこにいるだろうか。


 庭を見渡すが、アザレアの姿はない。

 と、そこでウサギたちと遊んでいたラビットAと目が合う。

 するとラビットAがアズリアの家の方を指差す。

 どうやら家に戻ったようだ。


 俺はラビットAに手を上げ礼をし、アズリアの家へと入る。

 この家には何度か入ったことがあるので、間取りは分かる。

 俺はまっすぐアザレアの部屋へ向かう。


「アザレア……いるか?」


 アザレアの部屋をノックする。

 ……返事はないが、人のいる気配は感じる。

 鍵は……開いている。

 俺は少し迷ったが、中に入ることにした。


 アザレアは部屋の隅でうずくまっていた。

 俺は黙ってアザレアの横に座る。


「……何のようですか?」


 アザレアが顔を伏せたまま言う。

 泣いていたのか、心なしか声が震えている。


「別に。何となくここに来たくてな」


「何となくで、許可なく女性の部屋に入るのはマナー違反ですよ」


「そうだな。怒られないかとドキドキしているよ」


 いや、怒られるというよりも、アザレアの部屋にいることにドキドキしている。


 アザレアの部屋に入るのはこれが初めてだ。

 部屋にあるのはベッドと本棚と机。

 本棚には専門書の他に、アザレアの書いた研究ノート並んでいる。

 机の上にはポーションの瓶やモンスターの素材などが置かれてある。


 それからクローゼットとドレッサー。

 ドレッサーがあるから何とか女性の部屋になっているが、それがなければ簡素な研究室って感じだ。

 ……あれっ? そこまでドキドキする必要ないかもしれない。


 幸いアザレアの方も出て行けと怒る様子もない。


「……ショックでした」


 代わりにアザレアがポツリと呟く。


「妹たちがこんな秘密を抱えていたことも知らずに、観察眼のスキルを手に入れたことに浮かれていただけ。これじゃあ姉失格ですね」


 アザレアは自嘲気味に笑う。


「これはアズリアが言っていたことなんだが、自分たち姉妹を養うために、アザレアが全てを犠牲にしてきたと。だから、これ以上迷惑をかけずに普通に生活して幸せになってほしいと。そう言ってたぞ」


「アズがそんなことを……馬鹿ですね。わたくしは何も犠牲になんてしていませんよ。そもそも妹なんですから、姉にいくらでも迷惑をかけてもいいのです。いえ、妹に頼られて迷惑だなんて思う姉なんているものですか」


 だから教えてほしかったと。

 いや、たとえ教えてくれなかったとしても、気づかなかった自分は姉失格だと。

 アザレアはそう言った。


 でも、それはアザレアにも言えること。


「アザレアだって、スキル消失事件の時に、二人に心配させたくないからって、自分が疑われていたことを隠していただろ。そのことをアズリアはまだ知らないぞ。多分知ったらアズリアは悲しむと思うぞ」


「それは!? だってわたくしは姉ですし」


「姉妹ってさ。姉とか妹とか関係なく、互いに助け合うものなんじゃないか?」


 俺の言葉に顔を伏せていたアザレアの視線が俺を見る。


「アザレアも、アズリアとアゼリアも全員優しすぎるんだよ。互いが互いに迷惑をかけないようにってな。でもさ、アザレアも言ったように迷惑なんて思わないんだよ。姉妹なんだからさ」


 妹を守るじゃない。姉に迷惑を掛けるじゃない。

 互いで協力し合えばいいだけなんだ。


「だからさ。アザレアもアズリアに本音を言って、これから協力し合えばいいじゃないか」


「……そうですね」


 ようやくアザレアが顔を上げる。

 ……大丈夫かな。


「さっ、みんなも心配しているし、戻ろうか」


 俺は立ち上がろうとして……アザレアに腕を掴まれる。


「まだ話は半分しか終わっていません」


 そう言ってもう一度座るようにと促す。

 仕方がないから俺はもう一度座る。


「アズとアゼの話もショックでしたが……シュートさんのこともショックだったんですよ」


 ……ですよね。


「シュートさんが別の世界の人だと言われて驚きました」


「まぁ信じられる話じゃないし、ピンとこないのは分かるけど」


「ですが、今まで色々な非常識を見てきましたから、シックリした部分もありました」


 ……本当は、目立たないように普通を心がけたかったんだけどね。

 アザレアと出会ってから無理だと分かって、開き直った部分も若干ある。


「わたくしが一番ショックだったのは、わたくしだけがそのことを知らなかったことです」


「それに関しては申し訳ないって思うけど……本当は誰にも言うつもりはなかったんだ」


 アズリアは向こうから言ってきたから仕方なくだし。

 ガロンに関しては、サテラが暴露しちゃったからどうしようもなかっただけだ。


「それでも、わたくしだけ仲間はずれなのはショックです。協力者として認められていないんじゃないかって」


「そんなことはない。俺はアザレアを協力者にして本当に良かったと思っている。だから……怖かった」


 本当のことを話して嫌われたくなかった。


 アザレアはコンと頭を俺の方に傾ける。


「この身体も……本当のシュートさんの身体ではないのですね」


「本当の俺はこんなにいい男じゃないしな」


 アザレアより年上の、腹が気になり始めた30手前のオッサンだ。


「ふふっ。どおりで年下と話しているように思えないわけですね」


 アザレアが俺から頭を離し、少し移動して正面を向き合う。


「シュートさん。わたくし、シュートさんのことが好きです」


 アザレアは真剣な表情でハッキリと言った。

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