第292話 魔族姿の理由
「二人とも。出発の準備はできた?」
サナとの通話を終えた俺は、エイジとタクミの元へ戻った。
だが、そこには出発の準備なんて全くしていない、いつもどおりの二人。
「準備と言っても……なぁ」
「うん。シュートさんのカード化があれば、何の準備も要らないしね」
どうやら俺頼りで何もするつもりがなかったらしい、
まぁ確かに二人の家をそのままカードにすればいいだけだから、準備もなにもないか。
「本当、カード化って、反則級の便利さだよな」
「そうだよね。本当、チートだよね」
お前らにだけは言われたくないけどな!
でも……昔ナビ子がカード化スキルは貰えるスキルの中で一番当たりだと言っていたが、確かに便利さだけは二人よりも上か。
「それで? 向こうはどうだったんだ?」
「ああ。明日には日本に戻るって」
俺はさっきルースと話した内容を二人に伝えた。
「ひとまずルースがいない間に、サナをこっち側に引き入れたいんだが……本当に、この人数を飛ばせるのか?」
現状、俺達はまだエイジのスタート地点にいる。
ここからライラネートまではグリフォンで飛ばしたとしても数日は掛かる。
明日ライラネートに到着するんだったら、最低でも既に帝国内にはいなくてはならない。
だから数日前に出発しようとしたが、エイジに止められた。
高速での移動は、魔道具の誤作動を起こす可能性があるらしい。
だから移動はテレポートを使うことになった。
今この場にはサテラとラビットAという二人のテレポート使いがいる。
ラビットAよりも前からテレポートを取得しているサテラは、この人数でもまとめて長距離のテレポートが可能らしい。
ただ、流石のサテラも座標登録していない場所には転移できない。
そこで、まずは登録済みのブルームまで転移する。
そこからはラビットAの出番だ。
この半月、ラビットAはサテラにテレポートのコツをずっと習ってきた。
お陰で、1キロしかテレポートできなかったのが、今では長距離のテレポートも可能になっているようだ。
流石にここからブルームやライラネートまでは無理だが、ブルームからライラネートまでの距離なら任せろと言っていた。
……激しく不安だが。
「心配すんなって。それより俺達が二人のテレポートを信じなくてどうするよ」
まぁ確かにそうだけど。
サテラはともかくラビットAはなぁ。
まぁ信じるしかないけど。
「ここを出発したら後戻りはできなくなるが……タクミもいいか?」
タクミが目覚めたのは、あれから3日後だった。
幸い、強制操作の後遺症もなく意識もハッキリしていたし、自分で体を動かすことも可能だった。
だが、封印中のことは全く覚えていないとのこと。
だから俺はタクミの身体に起こったこと。
そして、アイビーが何をしたか。
包み隠さず説明した。
説明を聞いたタクミは『そっか』とだけ呟き、一人になりたいと言ったのでその日はそっとしておくことにした。
そして、次の日。
タクミは吹っ切れたのか、晴れやかな表情を浮かべた。
そして、改めて現状を説明。
エイジの紹介から運営の目的。
全ての説明を終えた後、タクミは俺達に向かって『僕にも協力させてくれないかな?』と言った。
全てを知ったタクミを一人で放置させることはできない。
なので、手伝ってくれるなら助かる。
人手は全然足りてないからね。
「うん。僕だって役に立つために頑張ってきたんだよ」
タクミは自分ができるのは戦いだけだと言って、この半月、グリムやホブA達と模擬戦を繰り返していた。
ちなみに、ラビットAはテレポートの練習でサテラとマンツーマンだったので、その模擬戦を羨ましそうに見ていた。
「見ててよ。運営の刺客が来ても追い返すから」
そう張り切るタクミだが……正直、タクミが何を考えているのか。
俺にはタクミの真意が分からない。
俺達と同じように運営からこの世界を守ろうと思っているのか。
それとも……表向き協力して、実は俺達に捕まっているアイビーを助けようと、こちらの隙きを窺っているのか。
タクミはあれから一回もアイビーのことを一切口にしない。
それが余計に気になっていた。
まぁアイビーに関しては箱ごとカードにして保管しているから、取られる心配はない。
タクミが何を考えていようと目を離さなければ問題ないだろう。
「んで、タクミはやっぱりその姿のままでいいのか? 見た目を変えるだけなら、すぐに済むぞ」
エイジがタクミに確認する。
エイジの改造スキルは、サテラを電子魔族に変えたように、外見を変えられる。
つまりタクミの嫌がっていた世紀末姿も普通の姿に変更できるらしい。
だが、タクミは首を振る。
「今はいいよ。多分この姿じゃないと戦えないと思うから」
改造して慣れない体になることで、弱くなることを恐れているようだ。
それに、タクミの装備しているバトルジャケットは、見た目も関係ある。
効果を最大限生かすためには今の姿のほうがいいだろう。
「そっか。じゃあこの件が片付いて、変わりたくなったらいつでも言いな。見た目だけじゃなく、種族や性別まで、どんな風にでも変えてやれるからよ」
……種族や性別までとか。
う~ん。ものすごいこと言ってるな。
「うん。じゃあ変えたくなったらお願いするよ」
……その時はどんなお願いになるんだろう?
ちょっと楽しみだな。
「というか、俺はエイジが自分を改造してたってことにビックリしたぞ」
今のエイジの魔族姿は自分で改造した姿らしい。
「……俺は出会ってすぐにそのツッコミがあると思っていたんだがな」
エイジが若干呆れている。
それもそのはず。
よくよく考えてみたら、グローリークエストのキャラメイクにエルフやドワーフはあっても、魔族はなかった。
だから、魔族姿ってのがそもそもおかしいと突っ込まないと駄目だったようだ。
「いやぁ最初に会った時はへぇとしか思わなかったんだ」
人間じゃないという驚きは多少あったが、世紀末ほどのインパクトじゃなかったもんな。
「言っておくが、姿だけじゃなく、能力も魔族なんだぞ。体内に魔石を待っているし、空も飛べる。魔法だって使えるんだ」
マジかよ。
空を飛べるってのはちょっと羨ましいかも。
「でも、何でそんな姿にしたんだ?」
「元々のキャラメイクが気に入らなかったのもあるが、一番の理由はサテラだな」
サテラを電子妖精から電子魔族へ改造したんだから、自分も魔族になって責任を負う。
エイジは少し恥ずかしそうに言った。
「エイジはサテラを大切にしているんだな」
「当たり前だろ。サテラは俺の大事なパートナーだ。だから……同じになりたかった」
「へぇ……ちょっとサテラが羨ましいかも」
それまで黙って聞いていたナビ子がボソッと呟く。
「ねぇシュート。アタイたちも相棒なんだからさ。ちょっと電子妖精に改造されてみない?」
「何でだよ!?」
それを言うならナビ子が人間になる方だよね?
何で俺が電子妖精になるんだよ。
「ははっ。シュート。お望みなら電子妖精に改造することもできるぞ」
エイジまで……。
「勘弁してくれ」
俺は人間のままがいいんだよ。




