第30話 ゴブリンとの戦い
本日2話目の投稿です。
俺達は一斉にゴブリンに接近する。
「ゴブッ!?」
ゴブリンの1体が俺達に気づいた。
改めて正面から対峙すると……やはり怖い。
くすんだ緑色の肌、顔をしかめたくなる悪臭、暴力性しか感じさせない表情。
身長は俺の胸くらいまでしかない最弱モンスターのゴブリンのくせに、その迫力に圧倒される。
――でも逃げる訳にはいかない。
「じゃあ作戦通り各自1体ずつ頼む!!」
俺の叫びにラビットA達が分散、それぞれのゴブリンに襲い掛かる。
そして俺の目の前には1体のゴブリンが残された。
「ゴガッ!!」
ゴブリンが棍棒を振り回しながら、こちらへ襲いかかる。
俺は鉄パイプを両手で持ちそれを受け止める。
ガキンッ!?
鈍い音と共に手に衝撃が伝わる。
物凄く重い一撃だ。
これが本当に最弱のモンスターなのか?
ゴブリンがそのまま続けて何度も棍棒を振り回す。
「くっ」
俺は何とか鉄パイプで持ちこたえる。
だが、このまま受け続けていたこっちが持たない。
一撃でも食らえば骨が折れて致命傷になるだろう。
一旦体勢を立て直さないと……
俺はゴブリンが棍棒を振り上げる一瞬の隙に、左手でベレッタを持ち、ゴブリンに向かって撃つ。
「ゴガッ!?」
だが、ゴブリンに避けられてしまう。
練習では結構当たるようになってきたのだが……あれは動かない対象にしっかりと狙いを定めていたからだ。
これだけ至近距離でも、左手……しかも狙いを定めず動く標的に当てるのは困難だ。
だが、未知の攻撃に警戒したゴブリンは、一旦俺から離れる。
そこで俺は右手に持ち替え、もう一発撃つ。
「ゴガッ!」
今度はさっきよりも狙いを定めたが、ゴブリンが大きく避けたため当たらない。
ゴブリンが動かなかったら命中してたんだろうが……今の俺には避けるのを予測して撃つことはできない。
「ねぇシュート。アタイがゴブリンの気を引こうか?」
ナビ子がゴブリンの周りを飛び回って、隙をつくろうかと提案する。
「……いや、ナビ子は見ていてくれ」
ただでさえナビ子には気配察知などで頼っている。
ここでさらに戦闘までナビ子に頼ったら、今後もきっと頼りっきりになってしまう。
それに……やっぱりナビ子に危険な真似はさせたくないもんな。
「これは……今回だけは俺は一人でやらなくちゃ駄目なんだ」
俺は正面のゴブリンをベレッタで牽制しながら、戦っている仲間達をチラリと見る。
ラビットAはゴブリンリーダーの攻撃を角で上手に裁いていた。
俺は辛うじて……だったけど、随分と余裕そうだ。
キラーホーネット達は……ああ、こっちも大丈夫だな。
3匹は完全にゴブリンを翻弄していた。
ラージ・アントは攻撃を食らっていたが、堅い外皮のおかげであまりダメージは受けていないようだ。
ラビット軍団は動けないゴブリン相手に角を突き刺す。
各々自分の役目を完全に果たしている。
アイツ等のマスターとして、俺も負けていられない。
それにこれは俺の大事な初陣。
ここで逃げ出したり、ナビ子や仲間に頼ったら、今後一人で戦えなくなる気がする。
だから、せめてコイツだけは俺一人で倒さなくては……
「シュート……」
「そんなに心配そうな顔をするな。大丈夫だよ」
今の所打つ手はないけど。
だけどベレッタさえ命中すれば……最悪、ダメージ覚悟で狙いを定めれば当てることは出来るだろう。
「……分かったよ。でもシュートのモンスター達はシュートのスキルの力なんだから、それに頼るのは悪いことじゃないよ」
仲間達は俺の力……か。
でも俺はそれだけに頼りたくないから頑張るんだ。
「ねぇシュート。魔法使いは戦闘中に魔法を使うよね?」
突然ナビ子が変なことを言い出す。
「なんだ突然? 今は暢気に世間話をしている場合じゃないんだぞ」
俺はゴブリンから目を離さずに言った。
ベレッタの弾もそろそろ残り半分。
牽制で使い切っちゃ勝ち目はないから、そろそろ無駄弾は控えないと。
「いいから聞くの! 剣士は剣を……魔法使いは魔法を使って敵を倒すの。じゃあカード使いはどうやって敵を倒すの?」
「……カードを使ってって言いたいのか? ならちゃんと使ってるじゃないか」
鉄パイプやベレッタだってカードにしてたのを使っている。
それにラビットA達だって……
「ううん。シュートのは戦闘中じゃなくて、前もって解放しているだけ。それだと収納スキルと使い方が一緒。カード使いの戦い方じゃないよ」
そう言われれば、確かに戦闘でカード化のスキルは使用していない。
じゃあカード使いの戦いってのは……
「なら今ここで魔法でも使えってことか?」
「それもいいけど……シュートは勿体なくて使えないでしょ。じゃなくて……シュートにはラビットAやホーネット以外にも仲間がいるよね? 今回は戦力にならないってカードのままの……アタイもそうだけど、あの子達もきっと役に立ちたいと思ってるよ。ラビットA達のように任せる戦い方じゃなく、あの子達をうまく使って戦うのが真のカード使いじゃないかな?」
……そっか。
仲間達が頑張っているから俺も……と思ったけど、だからといって、別に一人で戦う必要はないんだ。
今はカードにしているアイツ等の力を引き出すのがカード使いの戦い方……
「よし!」
俺はゴブリンに正面から向き直る。
「解放」
俺は2枚のカード――スモールワームとアーストードを呼び出した。
2匹は俺の指示を待たずに地中へと潜る。
……理由はわからないが、どうやら2匹は既に俺の意図を理解しているらしい。
――よし!
俺は一呼吸おいてからゴブリンに突っ込む。
そして鉄パイプでゴブリンに襲いかかる。
型も何もあったもんじゃない。
ただ適当に振り回すだけだ。
「ゴガハハ!」
ゴブリンはそれを余裕をもって受け止める。
そして反撃の棍棒を振りかぶる。
――今だ!
「解放」
俺は新たに1枚のカードを解放する。
現れたのはスモッグリザード。
スモッグリザードはゴブリンに向かって煙を吐く。
なんの威力もない、タバコの煙を吹き掛けたような黒い煙だ。
「ゴガッ!?」
だが、突然のことに反応できないゴブリンは顔に直接煙を受け、むせ返る。
そして次の瞬間、むせ返っていたゴブリンが急に体勢を崩す。
足元を見ると、ゴブリンの右足が地面に嵌っていた。
ワームがゴブリンの足場の土を食って穴をあけたのだ。
むせ返っていたゴブリンは、穴が空いても逃げることができずに、結果片足だけ落とし穴に落ちたような体勢になった。
もちろんゴブリンは急いで抜け出そうとするが……その足は動かない。
何故ならアーストードの舌が、ゴブリンの埋もれた足に巻き付いて、固定していたからだ。
「これがカード使いの戦い方……だ」
そう言って俺は動けなくなったゴブリンに、残りの弾全てを命中させた。
……ゴブリンが絶命したのを確認して、俺はホッと息を吐く。
「ふぅ~何とかなった」
「お疲れ~初めてにしてはよく頑張ったと思うよ」
ナビ子のねぎらいが素直にうれしい。
「ありがとう。ナビ子のアドバイスのお陰だよ」
あの言葉がなかったら、今でも一人で戦い続けて、下手したら負けていたかもしれない。
そして俺にカード使いの戦い方を教えてくれた。
「どういたしまして。でも……ここはまだ戦場だから、あまり気を抜かないでね」
そうだった。
まだ戦ってる仲間が……って、気がつけば全員すでに勝負がついていた。
どうやら俺待ちだったようだ。
「きゅきゅ!」
ラビットAが近づいて来るが、いつものように抱き付いてこない。
自分がゴブリンの返り血に染まっていたからだろう。
本当に賢い子だ。
俺はそんなラビットAを優しく撫でる。
「ラビットA……よくやったな」
「きゅう~ん」
ラビットAは嬉しそうに鳴く。
うん、大きくなってもかわいい。
他の仲間たちも確認する。
うん、全員無事のようだ。
「みんな。お疲れ」
俺は仲間たちにねぎらいの言葉を掛けた後、増援が来る前にゴブリンの死体とアンブロシアを回収して帰還した。




