第283話 20メートルの攻防
こちらに非常に不利な条件で、タクミと戦わなければならない。
「ナビ子とサテラは少し下がってろ。ただしアイビーの見える範囲でな」
ナビ子とサテラは戦いの邪魔にならないように離れてもらうが、何もしていないことをアピールしてもらうため、アイビーの視界からは出ない。
「貴方には死んでもらうと困りますから、死にそうになったら動きます」
俺を仲間にするために、俺に死んでもらっては困ると。
……サテラが本気になれば、強化されたタクミもアイビーも倒すことはできるだろう。
サテラが参入する前に、終わらせないと。
「シュート……アイビーを助けて。でも、でも……無理はしないで。無理してシュートが死んじゃったらアタイ……」
この期に及んでも、アイビーを助けてと。
本当にナビ子は……。
「分かっている。任せろ」
それだけ言って、俺はカード呼出で、ラビットファイアとブラストガンを召喚する。
「ラビットA。俺がタクミを食い止めるから、ラビットAは魔法を考えてくれ」
「まほう?」
「ああ。アイビーの強制操作からタクミを助ける魔法だ」
現状、アイビーが強制操作のスキルを解除することはない。
だから、アイビーに頼らずにタクミの強制操作を解除する必要がある。
意識を封じ込めて操るってことは、洗脳や呪いの類いに似ている。
それならキュアやリフレッシュ等の状態異常回復や解呪系の魔法でどうにかなると思う。
問題は強制操作のレア度。
運営の最終手段なら、星5レベルの魔法じゃないと無理だと思う。
そして、今の俺は星5の解呪魔法を持っていない。
というか、存在するかどうかも分からない。
合成を試す時間もないんだったら……新しく作るしかない。
「タクミを助けるには絶対に必要なことだ。頼めるか?」
「……5分で作る」
ラビットAはそう言ってその場に座り込み考え始める。
なんとも頼もしい仲間だな。
俺はラビットAが魔法を完成させる5分間、タクミを全力で食い止めればいいだけだ。
「そろそろいい?」
アイビーがこちらへ向かって声をかける。
「こっちの準備を待っててくれるなんて、随分親切だな」
「どんな作戦を考えたか知らないけど、その作戦が全部無駄だと分かって絶望する方が見ていて楽しいでしょ」
「……前言撤回。親切じゃなくて悪趣味だぞ」
「ふふっ、その減らず口がいつまで続くか楽しみだわ。さぁバルガス! 行きなさい!」
現時点でタクミとの距離はおよそ20メートル。
模擬戦の時から考えると、絶対領域の範囲は約5メートル。
少し広く見積もって……5分間、タクミを10メートル以内に近づけなければ、こちらの勝ちだ!
俺はブラストガンで衝撃波を撃つ。
命中補正がなくなっても、衝撃波なら直撃する必要はない。
タクミはシェルブレードを起動させてその場で踏みとどまる。
いくら盾で防ごうが、吹き飛ばされないようにするには踏みとどまらざるを得ない。
俺はブラストガンを連射して、タクミをその場に釘付けにさせる。
「その程度の攻撃じゃ、バルガスに傷一つ負わせられないわよ」
傷を付けることが目的じゃないからな。
しかし、ブラストガンでの足止めは、1発5秒が限界。
俺はブラストガンの弾を撃ち尽くす前に、次の手に取りかかる。
次にカード呼出で召喚したのはアルラウネ。
「解放」
召喚されたアルラウネは、植物操作のスキルでタクミの足に植物の蔓を絡ませる。
足を封じてしまえば、近づくことはできない。
今のうちに俺はブラストガンをクールタイム短縮で弾をチャージする。
クールタイム短縮は後1回。
「アルラウネ。このまま全身を蔦で覆うことはできるか?」
足だけじゃなく、全身をぐるぐる巻きにして、身動きとれなくできれば………。
「バルガスを動けなくして済まそうなんて、そんな甘いことさせるわけないでしょ!」
アイビーがそう叫ぶと、タクミの手から炎が飛び出る。
「まさか……ファイア!?」
今のは間違いなくファイアの魔法だ。
しかし、タクミの絶対強者のレベルでは、まだ魔法は使えないはず。
「……タクミの絶対強者のスキルはいつ上がったんだ?」
俺と行動をしてからは1回も戦っていないはず。
「強制操作には所持スキルを強制的にレベルを上げることができるの。生命力と引き換えにね」
「生命力と引き換えだと!?」
「そう。さっきアチキは絶対強者のスキルをMAXにしたから……バルガスの寿命は半分くらいになってるはずよ」
寿命が半分だと……なんてことを。
「分かった? 絶対強者がMAXになったということは、アンタに並んだってこと。もうアンタが本気になってもバルガスには勝てないわよ!」
ファイアで植物を燃やして自由になったタクミ。
威力が制御できなくて、足が火傷している。
もし、意識があったら、痛くて動けないだろうが……今のタクミは全く気にすることない。
「アルラウネ。時間が稼げればいいから引き続き頼む」
俺はブラストガンを撃ちながら言う。
……現時点でまだ1分位しか経ってない。
このままだとブラストガンの弾はすぐに無くなる。
アルラウネの植物もさっきみたいな不意打ちじゃないとちっとも足留めにならなそう。
タクミはブラストガンの衝撃を踏ん張りながら一歩ずつこちらへ向かってくる。
あと15メートル。
……仕方ない。
俺は次の仲間を召喚する。
オルトロス、ケルベロス、グリフォンの3体だ。
機動力に優れた3体で、タクミを牽制する。
そして、主力のディータとメーブも召喚。
2人には魔法でサポートをしてもらう。
オルトロスがタクミに飛びかかるが、絶対領域の範囲に入ると突然減速。
シェルブーレドで一刀両断される。
「あははっ、どう? アンタの大好きな仲間が死んじゃったよ。でも、生き返るから別にいいよね?」
……この間の意趣返しのつもりか。
くそっ。しかし、オルトロス程のモンスターをあんなに簡単に倒すなんて……やはり近づかれたら俺の敗けだ。
仲間には申し訳ないが、こうなったら総力戦だ。
俺はタクミをこれ以上近づかせない為にも、主力モンスターを総動員することにした。




