第279話 改造プレーヤーの家
察知系スキルを封じられた俺達は慎重に森の中を歩き始める。
「気配が分からないと、すっごく不安だよね」
確かに。
気配が分からないってのは、ブルームのダンジョンでも経験したが、今回は妨害系スキルまで封じられている。
防御が手薄になると、ここまで心細くなるのか。
というより、前回の俺はスキルを封じられていないけど、今回は俺のスキルも封じられているから、余計に心細く感じるのかもしれない。
本当、今までどれだけスキルに頼りきっていたかハッキリ分かるな。
ってことで、少しでも不安を解消するために、俺はカードモンスターを召喚する。
まずはビーパラディン達、ビー三騎士。
それから3匹のカーバンクル。
残りは星3以下の蜂と蟻と蜘蛛。
ここから三組に分かれ、周囲を探索してもらおう。
「魔石と素材は回収すること。それから冒険者に出会ったら逃げること。魔道具や怪しいものを見つけたらすぐに報告すること」
仲間達は、毎度のことなので、言わなくても分かっている。
だから仲間達に……というより、タクミに聞かせるために言った。
ウチのモンスターは人を襲いませんってことを印象付けないとね。
俺の命令後、ビーパラディン達はそれぞれ散っていく。
「シュートさんって、どれくらいモンスターを持っているんですか?」
「大体300種類ってところかな」
図鑑登録だけなら、もう少し多いけど、マジックバニーや3リス、アラクネなど、合成で使用して、今は持っていないモンスターもいるから現在だとこんなもんだ。
マジックバニーは難しいけど、アラクネなど条件がないのは、補充しときたいな。
「300!? すごく多いんだね」
この驚きようから、タクミの想像よりも遥かに多かったようだ。
「ひとつの地域に50種類はいるから、こんなもんだろ。タクミの住んでいた山にもそれくらいいただろ?」
流石に50は盛りすぎだけど、最低でも30はいるだろう。
俺はそれに合成があるからな。
「そういわれれば、確かに50種類くらいいたかも」
タクミが思い出しながら言う。
その50種類のうち、少しでもいいから魔石を保管していて欲しかった。
タクミは絶対強者のスキルのために、魔石を吸収する必要がある。
ただ、それは1種類につき、1個でいい。
だから余った魔石があれば……と思って、空の移動中に聞いたんだが、残りのモンスターは、解体せずに全部放置していたらしい。
放置している死体は数日で魔素に還元されるので、腐って困る心配はない。
俺からすると、非常に勿体ない話ではあるが、タクミ曰く、自分は料理をしないから、解体する必要がなかったとのこと。
素材に関しても、合成や錬金スキルがないため必要がない。
そして、山での生活ではお金が必要ないから、換金の必要ない。
とはいえ、いずれ山を下りることを考えたら、解体すべきだったろうに。
俺がそう言ったら、タクミは恥ずかしそうに、解体が怖いと言った。
……まぁ気持ちは分からないでもない。
俺だって最初はすごく嫌だったが、ナビ子のスパルタのお陰で、なんとか解体を続けることができた。
まぁ今は分解で楽に済ませてしまうけど。
タクミも解体くらいできるようにならないとなぁ。
「タクミもこれからのことを考えておけよ」
今回の件が終わったら、タクミとは別れることになる。
サナの時もそうだが、俺は他のプレーヤーのお守りをするつもりはない。
ちゃんと独り立ちしないとな。
だが、タクミの場合は、山賊騒ぎがあるから、元の場所にも帰れない。
そして、旅をしようにも、カード化スキルがあるわけでもないから、家を持ち歩くこともできない。
どこかで定住するのか、それとも家を捨て、冒険者になって旅をするのか。
少なくとも、解体くらいはできるようにならないと、この世界で生き抜くのは厳しいと思う。
「そうだね。考えてみるよ」
あまりその事を触れられたくないのか、タクミはそれっきり黙ってしまう。
それから俺もナビ子も特に会話をすることなく、黙って歩くこと数時間。
ビー騎士達が頑張ってくれたのか、モンスターに遭遇することなく、目的の場所までたどり着くことができた。
俺の視界にあるのは、見慣れた一軒家。
もしかしたら改造して、城やダンジョンのようになっているのではないかと期待したんだが……残念なようなホッとしたような。
でも、油断してはいけない。
家の中に罠がないと決まったわけではないのだから。
「ラビットA。やっぱり第六感と千里眼は使えないか?」
「きゅうう……全然だめー」
やっぱり駄目か。
というか、家の中に原因があるだろうから、一番使えない場所に決まっている。
「……こうしていても仕方がない。危険かもしれないが、中に入るか」
俺が近づいて扉を開けようとすると、ナビ子が止める。
「ちょっと待って。危険だから、先頭はラビットAの方がいいよ」
「きゅぴぇ!?」
突然振られて驚くラビットA。
そりゃあ危険かもしれないから先頭に行けと言われたら驚くよな。
ただ、それも一瞬だけ。すぐに分かったと前に出る。
いつもなら嫌だと駄々をこねそうだが……それだけ危険かもしれないってことか。
「いいのかラビットA」
「きゅい! まかせて!」
自信満々に胸を張る。
うん、かわいい。
ラビットAは扉に近づき、開けようとして思いとどまる。
そして、その場でなにやら考え込む。
もしかして、罠でも見つけたのか?
俺がそう思って尋ねようとすると、それより先にラビットAがこちらを振り向いて一言。
「ピンポン、おす?」
……ったく。
一体何を考えているのやら。
どうせ押したところで返事が返ってくるはずないだろうに。
むしろ相手が家の中にいたら、気づかれて逃げられるぞ。
いや、いたとしたら、既に気づかれていると思うけど。
「……押さない」
下手なことはしないに限る。
俺がそう言うと、ラビットAは残念そうにする。
……押したかったのか?
ラビットAが諦めてドアノブを回すと……普通に開いた。
どうやら鍵は掛かってなかったようだ。
中を覗いてみる。
うん、俺やサナ、タクミの間取りと全く同じだ。
見た限りだと、罠もありそうにない。
まぁあったとしても、こんなパッと見で分かるような罠は仕掛けないか。
というか……この家、綺麗すぎないか?
空き家だとすれば、換気がされてないはずだから、カビ臭い淀んだ空気になっているはず。
だけど、この家は全くそんなことない。
というか、廊下には埃が全く溜まっていない。
これじゃあまるで、カード化から解放したばかりのような、新築そのもの。
もしかして、この家にまだ住んでいる?
「いつまでもそんなところに居ないで入ってきたらどう?」
その声は家の奥――リビングの方から聞こえてきた。
忘れもしない。少し前にダンジョンで聞いた女性の声と同じ。
――間違いない。サテラだ。
まさか家を放棄せずにいるとは。
……どうしよう?




