第29話 奇襲
本日1話目の投稿です。
「よし、じゃあズンクモ達、よろしく頼む」
ポイズンスパイダー達にはゴブリンに気づかれないように、外周を糸で囲んでもらう。
これによりゴブリン達は逃げられなくなり、万が一敵の増援が来ても時間が稼げるはずだ。
「サイレンとフェアリーは、ズンクモの準備が終わったら行動を開始してくれ」
サイレントビーとフェアリーバタフライは俺の命令で所定の位置に待機する。
ルナバタフライは日中なので今回は不参加だ。
まずはフェアリーバタフライが上空から睡眠の鱗粉を撒いて、油断しているゴブリン達を眠らせる。
戦ったばかりで疲れているなら眠ってくれるはずだ。
眠らなかったゴブリンには、サイレントビーが気づかれないようにマヒ毒を与える。
それで全ゴブリンが戦闘不能になったら楽なんだが……
****
ポイズンスパイダーが準備を終えたようなので、フェアリーバタフライがゴブリンの手の届かない上空から鱗粉をまき散らす。
探知系のゴブリンが心配だったが、どうやら気づいていないようだ。
フェアリーバタフライのように小さなモンスターは引っ掛からないのか?
いや、仮に探知に引っ掛かったとしても、この辺りには別の小さなモンスターもいるし、ワイルドディアのような大物じゃない限り、一々反応しないだけかもしれない。
そして鱗粉がゴブリンに届くと、ワイルドディアと戦っていた1体が眠りに落ちた。
「ゴブッ!?」
「ゴガガブ」
「ガブブゴブ!」
「「「ゴガハハハ!!!」」」
……何て言ってるのか全く分からん。
最後に笑い合っているので、冗談でも言ったのだろうか?
戦い疲れて眠りやがったとかでも言ってるのかな。
とりあえず、起きているゴブリンが周りを警戒する素振りは見せないので、攻撃だとは思われていないようだ。
フェアリーバタフライは鱗粉を撒いているだけで敵意はない。
だから探知ゴブリンも攻撃だと思わないんだろうな。
だが、2体目が眠りに落ちると、流石にゴブリン達の笑いがなくなる。
「ゴガガッ!! ゴブ!」
1体が叫ぶと、ゴブリン達が武器を構える。
武器と言っても全員が棍棒のような太い木の棒だが。
そして周囲を警戒し始める。
「ゴブブガ、ゴゴガ」
先ほど叫んだゴブリンが別のゴブリンに命令する。
奴がここのリーダーか。
命令を受けたゴブリンは頷くとリーダーゴブリンに背を向けて走り始める。
この場から離脱して応援を呼ぶつもりか?
敵の姿が見えない状態で、2体が眠っただけなのに応援を呼ぶこの判断力……ゴブリンリーダーは結構賢いようだ。
だが、その場を離脱する前にそのゴブリンはその場で動かなくなり……倒れ込む。
サイレントビーが逃げようとしたゴブリンを行動不能にしていた。
仮にサイレントビーが間に合わなくても、ポイズンスパイダーの糸で逃げられなかっただろうが、それがバレないのは助かる。
もしバレたのなら全員が一斉にこの場を離脱しかねないもんな。
そしてサイレントビーはそのまま一直線にゴブリンリーダーへ向かって行く。
「ゴォォォブッ!!」
そこに別のゴブリンが横からサイレントビーに棍棒を振り下ろす。
突然のことにサイレントビーはその棍棒を避けきれず叩きつけられる。
「なっ!?」
「シュート。静かに。サイレントビーは殺られても復活できるから」
思わず声が出てしまったのをナビ子に窘められる。
しかし……復活できるとしても、仲間が殺られるのは気持ちがいいものではない。
だがそれよりも俺が驚いたのは、サイレントビーは気配なくリーダーへ近づいていた。
ゴブリンには音も……姿さえ認識できなかったはず。
なのに何故あのゴブリンはサイレントビーを見付けられたのか。
偶々棍棒を振り回したとは考えにくい。
だとしたら……
「アイツが探知系のスキルの持ち主か?」
そしてサイレントビーの消音と隠密のスキルより、ゴブリンの探知系のスキルの方がレベルが高いことを意味する。
サイレントビーの方がスキルレベルが高ければ、探知系スキルを持っていても気づかれないだろうからな。
とりあえずリーダーと探知系のゴブリンは分かった。
「ナビ子。あの2体は他のゴブリンと分けておくから、覚えていてくれ」
「オッケー!」
俺には全員同じゴブリンにしか見えないが、気配察知とAIの能力を使えばナビ子には区別が付くらしい。
俺とナビ子が話している間に、フェアリーバタフライも見つかって倒されてしまった。
たまたまリーダーと探知ゴブリン以外のゴブリンが上空を見上げた際に、フェアリーバタフライを見つけ、さらに別のゴブリンが石を投げて命中させたらしい。
フェアリーバタフライは姿を隠しているわけじゃないので、上空さえ見れば見つかるし、攻撃だって出来る。
ただ、空を飛んでいる小さな相手に命中させるなんて……あのゴブリンはもしかして命中補正持ちか?
メイン武器がベレッタの俺としては、命中補正のスキルも欲しい……一応あのゴブリンもキープかな。
結局フェアリーバタフライが行動不能にしたゴブリンは3体。
サイレントビーが1匹……計4体が戦闘不能となっている。
動いているのは残り4体。
「リーダーゴブリンはラビットAが、残り2体のゴブリンをそれぞれが相手してくれ」
「きゅっ!」
ラビットAが小さく返事する。
大きな声で鳴いたら気づかれちゃうもんな。
3体のゴブリンはラビットAと、キラーホーネット3匹、ラージ・アントが相手をする。
戦闘不能になっている4体のゴブリンは、起きないうちにポイズンスパイダーによって捕縛……そしてホーンラビットにトドメをささせる。
クイーンビー率いるキラービー軍団は、そして状況が悪いチームのサポートへ回る。
そして残り1体は……
「ねぇ本当にシュートも出撃するの?」
俺が相手をしようと思っていた。
「ああ。仲間たちにばっかり任せっきりも悪いだろ?」
おそらく、以前ゴブリンを見た直後だったら、こんなこと言わずにラビットA達に全部任せていただろう。
だけど俺だってこっちにきて10日以上経つ。
筋トレもやったし、スキルはないけど、ベレッタも命中率は上がってる。
それに……みんなと数日一緒に過ごした。
俺だけ安全な場所で高みの見物なんて出来ない。
「でも……他の子は死んでも明日になったら元気だけど、シュートが怪我したら大変だよ?」
「きゅぅぅ」
ナビ子とラビットAが心配そうに俺を見る。
「まぁ怪我くらいならミドルポーションがあるし……死にそうになったら、キラービーやズンクモ達が助けてくれるさ。だから……俺も戦うよ」
それでも心配そうなナビ子とラビットA。
「あっアタイもついて行くかんね!!」
「きゅきゅっ!」
いや、ナビ子はともかくラビットAはダメだろ。
「ラビットAはさっさとリーダーを倒して……その後で俺が苦戦していたら助けてくれよな」
「きゅっ!」
俺がやさしく撫でるとラビットAが嬉しそうに鳴く。
そして鉄パイプとベレッタを取り出し準備する。
「鉄パイプは嫌じゃなかったの?」
ナビ子が意地悪そうに言う。
「鉈よりリーチが長いから、こっちの方がいいだろ」
刃はないけど、槍並みのリーチがあるからこっちの方が使いやすい。
……格好は悪いけどな。
だけど今は恰好よりも勝つことが優先。
俺達はゴブリンへと攻撃を開始した。




