第268話 不思議なカード
突然手に入ったカード。
これはどういうことなんだ?
「へぇ。それがシュートさんの能力ですか」
俺が手に取ったカードを見てタクミが言う。
俺がカード化スキルを持っていることはアイビーから聞いているだろうから、驚きはないようだ。
というか、俺の方が驚いているぞ。
俺はカードを隅々まで確認してみる。
うん、残念ながら本物ではないようだ。
本物にはイラストの右にカードの状態が分かるメーターが付いているが、これには付いていない。
次に考えたのがブランクカード。
だが、ブランクカードはモノクロになるが、これはカラー。
タクミが装備しているジャケットを触らずにカードにしたわけではなさそうだ。
というか、流石に触らずに人の物までカードにできるようになったらチートどころの騒ぎではない。
今度は図鑑に入れて確かめてみることにした。
さっきの登録もちゃんとできているか確認しないとだしね。
俺はアクセサリー図鑑を開いて確認する。
――――
バトルジャケット【防具】レア度:なし
異界の防具。
――――
うん。
ちゃんと登録されている。
運営からの贈り物だから、レア度なしの異界シリーズか。
しかし、異界の防具ってのはどうよ。
コスプレ以外にこんな服装をした人が日本にいたら怖すぎるぞ。
まぁ説明文にツッコミを入れても仕方がない。
今度はここに手に入れたカードを入れてみる。
――――
バトルジャケット【防具】レア度:なし
異界で作られた防具。
装備することで、戦闘系スキルの効果を数倍に引き上げることができる。
倍率はスキルの熟練度や着こなしかたによって変動する。
――――
お、おお……図鑑の説明文が増えた。
これ、多分所持した時と同じ説明文だよな。
ってことは、やっぱりカードを手に入れ……た訳ではなさそう。
さっき入れたカードは図鑑の中で消滅したようで、どこにも見当たらなかった。
さっきのは、未所持の説明文を所持の説明文に変更するカード?
もしかして、登録のパワーアップがこれなのか?
でも、じゃあ何で昨日のラビットAの時には出てこなかったんだ?
……いや、モンスターカードが所持しているスキルは、自動的にスキル図鑑にも登録される。
だから、正式に登録を試したのは今が初めてか。
だったら登録のパワーアップは、図鑑にレア度と簡単な説明文が載るだけじゃなく、更にカードが浮かび上がって、それを図鑑に入れると詳細な説明文に変化する?
凄くパワーアップしているけど、なんかまどろっこしいな。
どうせなら、最初から詳細な文にしろと言いたい。
これだとただの二度手間……もしかして!?
「あの……どうしたんですか?」
閃いた所でタクミに話し掛けられる。
少し不安そうだ。……顔は厳ついけど。
そうだな。
タクミからしたら、鑑定の話をして俺がカードと本を取り出して、ずっと黙っているんだもんな。
不安にもなるよな。
「すまんすまん。俺の方で鑑定してみたんだけど、その服はバトルジャケットと言って、戦闘系スキルの効果を上げることができるらしい。スキルや着こなしかたによって効果がアップするらしいぞ」
俺は鑑定結果を正直に話す。
タクミの場合、完璧に着こなしているから、最高倍率で効果を発揮しているかもな。
じゃないと、この山全てが範囲とか、出鱈目すぎる。
「だから、着ないと能力が下がるんじゃなくて、着たら能力アップが正解だな」
「それって結局同じ意味だよね」
「まぁ効果だけ考えたらそうだが、意識は変えた方がいい」
ジャケットを着た状態は、あくまでもパワーアップした状態で、本当の実力じゃないことを認識すること。
そして、本当の実力ちゃんと知ること。
まぁ俺が偉そうに言うことじゃないけどね。
そんなことより俺はさっきのことが気になって仕方がない。
早く話を終わらせないと。
「まぁタクミの事情は把握した。ちなみに俺達がここに来た理由は知っているよな?」
俺がそういうとタクミが表情が曇る。
「運営に逆らって違反したプレーヤーを処刑するって……本当なの?」
一応ちゃんと知っているみたいだが……処刑って。
殺意高すぎだろ。
「別に処刑じゃなくて、本当に運営に逆らっているのか確認に行くだけだぞ」
「本当に逆らっていたら?」
「その場合は説得する。もし説得に応じなかった場合は……生死を問わず連れ帰れと言われている」
「それってやっぱり殺し合いになるだけじゃ……」
タクミも改造プレーヤーが運営に逆らっていて、説得も聞かないと思っているようだ。
……アイビーはともかく、タクミには話してもいいか。
「実はこれはアイビーには絶対に言って欲しくないんだが、俺達がこの指令を引き受けた本当の理由は相手を殺したくないからだ」
俺達以外がこの指令を受けたら、絶対に最初から殺し合いになる。
でも、俺達……いや、ウチのナビ子は最後まで説得を諦めるつもりはない。
そのことをタクミに説明した。
「シュートさんの電子妖精は優しいんだね」
「まあな。自慢の相棒だよ」
本人には絶対に言えないけどな。
「それで、タクミはどうする? 俺達についてくるか? それとも、このままここに残るか?」
「……残ってもいいの?」
残ってもいいと言うか、残って欲しいと言うか。
「正直なところ、一緒に行くとアイビーがうるさそうだからな。できれば俺達だけで行きたい」
というわけで、正直に言ってみた。
「でも、僕達にも運営からの指示が出ているんでしょ? 逆らったら今度は僕達が同じ目に遭うんじゃ?」
どうやらナビ子の予想通り、アイビーに脅されているみたいだ。
「それはアイビーが勝手に言っているだけだから心配しなくてもいい。仮に運営から何か言われたとしても、ウチのナビ子が何とかする。だから残っても安心していい」
まぁその場合はアイビーがうるさいだろうけど。
残るならそれくらいは我慢してほしい。
「ついて行ってもいいんだよね?」
「もちろんいいさ。ただ、その場合はちゃんとアイビーを制御しろよ」
俺は絶対に面倒を見ないぞ。
タクミはどうするか悩んでいるみたいだ。
う~ん。
俺たちの都合を考えると、残っててほしいけど、タクミのこれからのことを考えると……。
「参考になるか分からないが、タクミは山賊として賞金首になっているぞ。そして、この近くにある街で一番強いベテラン冒険者の集団が近日中にここにやってくる予定だ」
まぁジャケットを着たタクミなら、それでも勝てるだろうけど。
「それから……この世界は面白いぞ。山に籠っているだけじゃ勿体ないと思うけどな」
悩んだ末にタクミは俺達と一緒に山を下りることを選んだ。




