第263話 絶対強者
次の日、合成を終えた俺はトロイ山へ向かうことにした。
「ねぇねぇシュート。歩いていくの?」
ナビ子の問いに頷く。
「ああ、グリフォンもユニコーンもあまり見せたくないからな」
相手がどういう人物か分かるまでは、手の内を見せたくない。
「それなのに、ラビットAは普通に連れてくのね。戦力的には一番隠さないといけないんじゃない?」
俺の隣にはラビットAがいつもの魔法少女姿。
が、少し成長したことにより、魔法少女姿も限界に近づいている。
これ、自力で成長するんだったら、新しい服を用意しないとな。
「ごえーするの!」
ふんすっと息巻いている。
うん、かわいい。
「ナビ子の言う通り、ラビットAは俺の最高戦力だけど、見た目はこれだし、不可侵スキルで能力を見破れないだろうから、護衛としてピッタリなんだよ」
元々持っていたスキル妨害以上の性能なんだから、観察眼でも見破れないんじゃないか?
それに、この格好の少女がくっそ強いとは誰も思わないはず。
それから第六感と千里眼のスキルの使い勝手を知りたい。
アントープの冒険者が狩りや採取に訪れる山だ。
ゆっくり歩きながら、モンスターや珍しい植物を見つけていきたい。
「まっ、今日中に会えればいいんじゃない?」
そんな軽い気持ちで俺は出発した。
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「きゅ、シュート。この山おかしー!」
山に入ってしばらくすると、ラビットAがそう言った。
うんうん。
きゅートって呼ぼうとしたのを必死で堪えたって感じだが、ちゃんとシュートって呼んでくれた。
なんだかすごく嬉しい。
「シュート。ちゃんと名前を呼ばれたことに感激している場合じゃないよ」
「うっ、確かにそうだな。ラビットA。おかしいって何がおかしいんだ?」
俺が見たたころ、普通の森って感じだけど。
いや、それなりに歩いて、まだモンスターに出会っていないのは、おかしいっちゃあおかしいか。
「モンスターみんな怖がってる」
モンスターが怖がっている?
「アタイの気配察知でも、モンスターは隠れて動こうとしないの」
「なぁ。怖がっている原因ってなんだと思う?」
「シュート。分かってて聞いてるでしょ」
まぁねぇ。
でも、あんまり考えたくないじゃん。
だけど、ナビ子の返事でハッキリした。
この異変は連勝プレーヤーの仕業で間違いないってことだ。
「これが連勝プレーヤーの【絶対強者】のスキルか」
昨日の内にナビ子に聞いたが、連勝プレーヤーが貰ったスキルは絶対強者というらしい。
絶対強者は剣術や槍術など、全武術系をまとめたスキルだ。
実践が素人のプレーヤーでも、すぐにある程度の武術を使えるようになる。
まぁそれでも達人の域に達するには、かなりの努力は必要だろうが。
そして、レベルが上がると、様々な戦闘系能力を覚える。
例えば、防御魔法やスキルを無効化するブレイク系能力。
そして、ケガをしてもすぐに治る自己治癒促進の強化版スキルに、自身に妨害スキルが効かないラビットAの不可侵のような能力。
さらに戦闘時に自分の能力アップと、相手の能力ダウンや威圧系の効果。
もちろん魔法だって使えるようになるらしい。
まさに、戦闘に特化したスキルって感じだ。
そして、絶対強者の一番の特徴が、勝者の覇気という能力。
モンスター限定……というか、魔石らしいのだが、魔石を絶対強者のスキルで破壊すると、その魔石の種族が登録される。
登録された種族のモンスターには、威圧系の上位スキルである覇気が発動し、相手の戦意を喪失させる。
つまり、登録さえしてしまえば、その種族は連勝プレーヤーに絶対に勝てなくなる。
「この山のモンスターは全種類登録されて、全てのモンスターが怯えているって考えた方がよさそうだね」
まぁ4ヶ月くらい山に籠もっていたら、山のモンスターくらいコンプしてもおかしくない。
「しかし、だったらモンスターは逃げればいいんじゃないか?」
別にモンスターだからって、ずっと同じ場所にいなくちゃ駄目ってことはない。
実際、ブルームでは山からモンスターが下りてきていたしな。
まぁあれは別の原因だったけど……でも、原因が分かる前は、強力なモンスターから逃げ出したかもって考察をケフィアとした。
まさにその考察どおりの状況だと思う。
でも、アントープの街でで山のモンスターが下りてきたって話は聞いてない。
ってことは、モンスターは逃げていないってことだ。
「う~ん。ここのモンスターは逃げないんじゃなくて、逃げられないんじゃないかな。ほら、威圧を受けたことがあるシュートなら分かるんじゃない?」
うっ、また思い出したくないことを。
確かに覚えがあるけど、あんまり触れられたくないんだが。
俺は、ゴブリンジェネラルの威圧に、動けなくなり、その場でへたりこんだことがある。
その時は逃げることなんかできないと思って、死を覚悟したっけ。
幸い、ナビ子キックでなんとか呪縛から逃れて、返り討ちにできたが……なるほど。
ここのモンスターはあんな状態なのか。
「絶対強者……マジでヤバいスキルだな」
1回でも勝つと、種族全体で勝てないとか、もう敵なしじゃないか。
しかも効果範囲が山ひとつ分とかめちゃくちゃ広いし。
「でもまぁ俺たちにはそんなにヤバくないか?」
勝者の覇気は魔石を使う。
人間には魔石がないから、俺には効かない。
それに、ラビットAやティータのような種族がこの山にいるはずないから、ラビットA達にも関係ない。
強いてあげるなら、この山に生息していそうなモンスターだけ召喚しないようにすればいいかな。
「言っとくけど、勝者の覇気が効かないだけで、普通に戦った場合の能力ダウンとかはあるんだからね」
「まぁそうだけど……それくらいならラビットAの敵じゃないって。なっ、ラビットA」
「きゅい! らくしょー!」
ラビットAが自信たっぷりに言う。
「何ふざけたこと言ってんのよ!! そんな変なのに負けるわけないじゃない!!」
そこに突然、森の奥から大きな声が聞こえた。
声がする方を確認すると……見えてきたのは金色の妖精。
「げげっ、アイビー!? アンタ、何でここに?」
やはり彼女がアイビーのようだ。
見た目はナビ子と殆ど変わらない。
が、ナビ子は金色ではなく緑色。
う~ん。色が違うだけでも随分と印象が変わるもんだな。
ぶっちゃけ、金色ってだけで、向こうの方がナビ子よりも気品がある気がする。
というか、ナビ子に気品が無さすぎるだけなんだが。
こっちから会いに来たんだから、『げげっ』はないだろ。
「何でって、ようやく来たみたいだから、このアチキ自ら迎えに来てやったんじゃない」
アチキ……一気に気品がなくなった。
ったく、もっとティータのような気品溢れる電子妖精はいないのかねぇ。
「そっ、そうなんだ。迎えに来てくれてありがとね」
ナビ子が慌てて取り繕うが……アイビーには通じなかったようだ。
「それなのに、弱いだの楽勝だのげげっだの……アンタ達、アチキ達を舐めてんの?」
弱いとか一言も言ってないけど……まぁニュアンス的には似たようなものか。
どうやらアイビーはかなりお怒りの様子。
さて、どうしたものか。




