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第27話 準備完了

「きゅきゅきゅ!!」


 ラビットAが残りのホーンラビットも合成しろとせっつく。

 ……もう1匹アルミラージを作って、自分を合成しろって言いたいみたいだ。

 コイツは……もう少しそのアルミラージの身体を堪能したいとは思わないのか?


 俺的には魔の素養が無くなるかもしれないから、今はラビットAをあまり合成したくないんだが……

 まぁラビットAを合成するかはともかく、アルミラージ自体を増やすことは賛成なので、残りのホーンラビットも合成することにした。


 ――――

 ツインホーンラビット

 レア度:☆☆

 固有スキル:雷の素質、脱兎

 個別スキル:帯電


 二本角の兎系モンスター。

 基本的にはホーンラビットと変わらないが、個体によっては魔法を使えるものもいる。

 ――――


 ありゃっ?

 ツインホーンラビット?

 アルミラージじゃないのか。


 固有スキルは雷の素質と脱兎。

 雷の素質ってことは、雷属性の魔法を覚えることが出来そうだ。

 まぁ……カードモンスターの時点で自力で覚えることは出来なそうだが。


 多分、野生なら成長したら覚えることが出来るんだろう。

 説明文には個体によってと書かれているが、固有スキルだから全ツインホーンラビットが使えるはず。

 ……素の能力はホーンラビットとそう変わりがないので、成長して魔法を覚える前に倒されちゃってるんだろうな。


 まぁこの子に関して言えば、俺が魔法カードを使えば習得することが出来る。

 ただ残念なことに、今は雷属性は1枚も持ってないが。

 まぁ持っていても、勿体なくて使えないけど。


 それにラビットA同様、さらに進化させると引き継ぐかどうか分からない。

 もしかしたら、雷とは全く関係ない種族へ変化するかもしれないしね。

 うん、やっぱりこの子にも魔法を覚えさせることは難しそうだ。


 個別スキルは帯電。

 このスキルはただ二本の角に帯電させることが出来るようで、角に触ろうとしたら静電気が発生した。

 そのせいで、キラービーや幻惑蝶などは触覚が狂って、ツインホーンラビットの側では上手く飛べないらしい。

 それから帯電状態の角で攻撃すれば、相手は感電するっぽい。

 魔法は使えなくても雷属性の攻撃は可能のようだ。


 それにしても……アルミラージにはならなかったな。

 ツインホーンラビットは元のスキルが大したことないので、サイレントビーのように特殊個体でもなさそうだ。

 蝶のように、今回も結果がランダムなのかな?


 とりあえずレシピを確認してみる。

 ツインホーンラビットのレシピは角2本とホーンラビット1匹のみ。


 ……んんっ?

 ってことは、ホーンラビットとホーンラビットの角だけで合成できるってこと!?

 元のホーンラビットは解体するので、角は必ず魔石と同数手に入る。

 要するに、ホーンラビットが1匹いれば、ツインホーンラビットに進化できる……と。


 随分と省エネな進化だな。

 他のモンスターも見習ってほしいものだ。


 対してアルミラージのレシピは……多くの血を吸ったホーンラビットと兎系モンスターと書いてあった。

 そういえばアルミラージの説明文に狂暴って書いてあったな。


 って!? こっちが特殊個体なのかよ!!


 ……ラビットAはついさっき大量の同族の血を浴びていた。

 それ以外にも、今いる仲間の半分はラビットAが倒している。

 うん、アルミラージになったのは完全にラビットAのせいだな。


 残ったホーンラビットは8匹。

 普段、臆病なホーンラビットが、ラビットAのようにモンスターを殺しているとは思えない。


「……ってことで、残ったホーンラビットじゃ、アルミラージはできないな」

「きゅぴぇっ!?」


 ラビットAが驚いた声で鳴く。

 アルミラージになったことで、少し鳴き声にバリエーションが増えたようだ。


 ラビットAは恨みがましい表情で俺を見る。


「そんな顔しても無駄だぞ。どうやらアルミラージになるには、たくさんのモンスターを倒さないと駄目らしいんだ。ラビットAが連れてきたホーンラビットは、他のモンスターを倒してたりしたか?」

「きゅう~ん」


 ラビットAは残念そうに首をふる。


「だろ? だったらこのホーンラビット達は全員ツインホーンラビットになってしまうが……ツインホーンラビットと合成するか?」


 おそらく、それでも進化は出来ると思う。

 ……二本角のツインアルミラージとか?

 もしくは全く別の個体とか……少なくとも弱くなることはないだろう。

 でもアルミラージは特殊個体のようだから、アルミラージ同士の合成の方が、さらに強そうな進化になりそうな気がする。

 今ツインホーンラビットと合成すると、元の通常進化のレーンに戻るかもしれない。


「きゅうん」


 ラビットAも首をふる。

 やはり本人もアルミラージ同士で合体する方がいいみたいだ。


 ラビットAは渋々諦めたようなので、俺はツインホーンラビットを2匹追加で合成した。

 もちろん合成はホーンラビットの角で。

 なので現時点で兎モンスターはアルミラージとツインホーンラビットが3匹。

 そしてホーンラビットが6匹となる。


 このままツインホーンラビット同士で合成したらどうなるだろう?

 角が3本になるのかな?

 倍の4本になったりして。

 それともまた別の進化を遂げるのか。


 気になるが、これ以上の合成はしなかった。

 なぜなら……合成すれば、きっとまたラビットAが拗ねるだろう。

 本当にめんどくさいやつだよ。

 まぁそこが可愛いところでもあるんだが。


 なので、キラーホーネットやポイズンスパイダーなど、2回目になるモンスターの合成は、新たなアルミラージができるまで保留にすることにした。



 ****


「きゅきゅっきゅきゅ! きゅー!!」

「「「きゅきゅー!!」」」


 ラビットAの号令でホーンラビットが一斉に敵に襲い掛かる。


 キラービーの群れは応戦しようとするが、その動きが非常に鈍い。

 ツインホーンラビットが動き回っているからだ。

 やはり角から発せられる静電気で上手く飛べないようだ。


 フラフラと墜ちてきたところをホーンラビット達が次々と倒していく。


「……あんなウサギの集団に襲われたくないよな」


 俺は遠くからその光景を眺めて嘆息する。


 モンスターの合成をしてから数日。

 モンスターを多く倒せばアルミラージになると言うことで、ラビットAは残った6匹のホーンラビットを育成していた。

 この6匹を育て上げ、後日新たにホーンラビットを捕らえ、6匹のアルミラージを作ろうという魂胆らしい。


 今はキラービーの巣に襲い掛かっている。

 この巣は、ウチのキラーホーネット達が元々棲んでいた巣だ。

 ってことで、その親であるクイーンビーを手に入れがてら、ホーンラビットの討伐数カウントを稼いでいた。

 やっぱり女王蜂であるクイーンビーは、どうしても手に入れたいモンスターの1匹だ。


 巣を守っているキラービー達は100を超えていたようだが、その殆どをラビット軍団が倒していた。

 これだけ倒せばアルミラージになれるかな?

 討伐数では問題なさそうだけど……少なくともレシピにあった血を吸ったという表現には合わない気がする。

 やっぱり同族か……少なくとも血を流すモンスターじゃないと厳しい気がする。


 そして、ホーンラビット達がキラービーを相手にしている間に、キラーホーネットがクイーンを仕留めた。


 ――――

 クイーンビー

 レア度:☆☆

 固有スキル:女王の威厳、女王の号令

 個別スキル:感覚共有


 キラービーの頂点に君臨する女王。

 自分の子であるキラービーは女王には絶対に逆らえない。

 ――――


 固有スキルが女王の威厳と女王の号令。

 モンスター専用スキルではないが、女性にしか使えないスキルらしい。


 女王の威厳が自分の子、もしくは自分の部下が絶対服従になるスキル。

 このスキルがある限り裏切られる心配はない。

 まぁレジスト出来るスキルがあれば別らしいが……


 女王の号令は命じるれば、その命令を遂行中、部下の能力が上昇するスキル。

 攻撃しろと命じるだけで部下は強くなるんだから、軍隊を率いるのに向いているスキルだ。


 俺の仲間になったキラービーやキラーホーネットは、このクイーンビーの子だったが、俺のカードになったことにより、固有スキルの女王の威厳が無効化された。

 それにキラービーよりも上位種のキラーホーネット。

 クイーンビーといっても、所詮はキラービーがひとまわり大きくなった程度のモンスター。

 体格差が5倍近くあるキラーホーネットの相手ではなかった。


 個別スキルの感覚共有は対象の五感を共有できるスキル。

 対象が見ている景色や会話を確認することが出来る。

 偵察にはピッタリの能力だと思うが……結構なデメリットも多い。


 まずこのスキルは相手が許可しないと共有できない。

 だから敵の感覚を共有して情報を引き出すような真似は出来ない。


 そしてこのスキルは持っている方が一方的に共有するだけ。

 仮に俺がクイーンビーと共有しても、クイーンビーが感じるだけで、俺には何の恩恵もない。

 それに痛覚も共有するから、共有者が怪我などしたらこっちまで痛みを感じる。


 それでも偵察や見張りなどの役には立つ。

 今後、クイーンビーにはキラービーを指揮してもらい、キラービー軍団として活躍してもらう。


 そして上位種のキラーホーネットとサイレントビーに関しては、個々で働いてもらうことにしよう。


 そしてラビット軍団、キラービー軍団に次ぐ第三の勢力がスパイダー軍団とバタフライ軍団。

 両軍団とも攻撃力は劣るが、糸や鱗粉による搦手で相手の動きを封じる。


 先日、ワイルドボアというイノシシのモンスターがポイズンスパイダーの罠に引っ掛かって動けなくなっていた。


 ――――

 ワイルドボア

 レア度:☆

 固有スキル:猪突猛進

 個別スキル:凶暴化


 イノシシ系の下級モンスター。

 動物のイノシシがモンスター化した存在。

 通常のイノシシと殆ど変わらない。

 ――――


 もし動き回っていたら、倒すのに多少苦労しただろう。

 本当、いい仕事をしてくれたと思う。

 

 ちなみにワイルドボアは、ラビットAが一撃で仕留めた。

 ……イノシシよりも凶暴なウサギか。

 ラビットAは何処に向かっているんだろう?


 今回のワイルドボアに限らず、名前にワイルドが付いたモンスターは、元は動物だという話だ。

 主に野生の動物に起こることだが、体内に魔石が生成されてモンスター化するらしい。

 魔素濃度が濃い場所や、魔力のあるものを口にするとモンスター化しやすいそうだ。

 この山で言うと……アンブロシアやホーンラビット等を食べるとモンスター化するのかな?


 固有スキルは猪突猛進。

 直進の距離に応じて体当たりの威力が高くなる。

 途中で曲がれば威力は戻るらしい。

 平坦では避けられやすいし、森のような場所では障害物があるから走れない。

 正直あまり使い勝手の良くないスキルのようだ。


 そして個別スキルの凶暴化。

 動物からモンスター化する際に必ず覚えるスキルらしいので、ほぼワイルド系の固有スキルと言っていいだろう。

 スキルの能力は、一時的に自我を失う代わりに能力が上昇する。

 よくあるバーサク状態ってやつだ。


 ラビットAよりは負けるが、単騎で考えると進化モンスターと同じくらいの力はある。


 攻撃のラビットとキラービー軍団に、サポートのスパイダーとバタフライ軍団。

 そしてラージ・アントにワイルドボアの単体でもそれなりに強いモンスター。


「シュート。そろそろ十分に戦力が整ったんじゃない?」


 ナビ子の問いかけに俺は頷く。


「ああ、そうだな」


 合成を始めて数日。

 明日この軍団でゴブリンに挑もうと思う。

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