第256話 国境を越えて
「アズリアのやつ……ここぞとばかりに俺を使いやがって」
アズリアが準備した配達品は巨大なコンテナ。
もし馬車で運ぼうとしたら、小分けにして……おそらく最低でも5台は必要な量だろう。
移動に1ヶ月掛かるとして、経費がとんでもないことになりそうだ。
とことん俺を有効活用したいらしい。
「これ、絶対に関所で時間が掛かるやつだろ」
何が円滑に通れるだ。
絶対に中身の確認に時間が掛かる上に、関税やらのやり取りも必要になってくるに違いない。
「まっ、これでちゃんと関所を通れるならいいじゃない。それにちゃんと報酬も貰ったんだしさ」
「まあな」
当然だが、報酬はアズリアの体ではない。
「まっ、シュートはアズリアを一晩自由にできた方が良かったかもしれないけどさ」
ナビ子がジト目を向ける。
「なに言ってるんだよ。それなんかよりも遥かに素晴らしい報酬じゃないか!」
「……それ、アズリアに言ったらめっちゃ怒ると思うよ」
俺が本心から言っているのを感じ取ったのか、ナビ子が呆れたように言う。
「いや、アズリアの体に魅力がないというわけではなくてだな。ただ単純にコレクターとしてこっちの報酬が良かったかなぁと」
「なに必死に言い訳してるのさ。やっぱりシュートさいてー」
コイツ……。
しかし、アズリアは本当に素晴らしいものを報酬にくれた。
その報酬とはワイルドホースの魔石なのだ。
しかも、それだけではない。
ワイルドホースの魔石はユニコーンだと目立ちすぎるからと、報酬を先渡ししてくれただけ。
ちゃんと届けた成功報酬は、ワイルド系の魔石詰め合わせセットだ。
アズリアは、ファーレン商会が所有している家畜や、提携を結んでいる業者から、モンスター化した際の魔石を、俺のためにかき集めてくれていたらしい。
いや、俺のためにというか、俺を使うためにが正解だろうが。
さらに素晴らしいのが、この配達は冒険者支援ギルドからの正式な依頼であること。
俺とアズリアの私的な依頼ではなく、ギルドを介することによって、公的なものとみなされ、関所も通りやすいのではないかという話だ。
確かに、一応ファーレン商会からの依頼書があったとしても、いるのは俺一人。
荷物や書類ごと俺が強奪したと疑われる可能性がある。
でも、冒険者ギルドだと、関所でも依頼と受けた人物の照会が可能らしいので、そういう点では非常に助かる。
それに、ちゃんと冒険者してますってアピールにもなる。
これでギルマスに文句を言われることもなくなるはず。
「魔石が手に入って、ギルドの依頼達成にもなるなら、配達なんていくらでもするって話だよな」
この間、アズリアからファーレン商会の専属配達員にならないかと言われたが、本気で考えてもいいかもしれない。
「アズリアもシュートの報酬は安上がりでいいって喜んでいたしね」
「それは言わんでよろしい」
確かに現金じゃなくて安いワイルド系の魔石でいいんだから事実だけどさ。
でも、それだと俺自身が安っぽい男に聞こえるじゃないか。
まぁ配達員になるとか、そんな話は全部終わってからだな。
****
俺達はまず国境付近までグリフォンで移動した。
距離的にはブルームよりも更に遠いので、移動だけで2日かかった。
近くまで来たら馬車に切り替える。
早速貰ったばかりのワイルドホースを召喚する。
「……この子には悪いけど、やっぱりユニコって格好いいよね」
おいおい。
本当に失礼だぞ。
「言っておくが、ユニコだって最初は同じだからな。コイツだって合成したら格好よくなるさ」
だから早くこいつも合成してあげたい。
ただ、目立たないためにってことで、先渡ししてもらったんだ。
合成して目立たせるわけにはいかない。
そのワイルドホース馬車に揺られること半日。
ようやく関所までやってきた。
「あんまり人は多くないな」
もっと並んでいるかと思ったが、並んでいるのは商人ばかり。
仕入れをして自国に帰るのか、はたまた他国に売りに行くのかは判断つかない。
どの馬車も、護衛として冒険者を雇っているみたいだ。
そして、反対側。
関所を抜けてこちら側に流れてきている人も、商人の馬車とその護衛の冒険者って感じだ。
「こっちでは観光って習慣はないからね。行商人か冒険者か移住希望の人だけだよ」
ああ、
通常の旅行者はいないのか。
考えたら当たり前だよな。
「貴族とかも旅行に行かないのか?」
「貴族って自国の貴族だから、他国に行ったら一般人だよ」
あ~そりゃ国から外にはでないよな。
「まぁ仕事で他国に行くことはあるかもしれないけど、それだと仰々しく移動するだろうしね」
一般人に並んでってのは考えにくいか。
検問もパスで、専用入口か別ルートでもあるかもしれないな。
……それこそ飛行ルートとかかも。
「……アタイ達、目立ってるね」
「……そうだな」
どんなに目立たないようにって準備しても、ワイルドホースはモンスターには違いない。
ユニコーンほどじゃないだろうが、十分に目立っていた。
しかも、そこにいるのは妖精と冒険者の格好した俺1人。
おそらくテイマーだと思われているようだから、モンスターを見かけて混乱するようなことはなさそうだが、並んでいる中で、俺の周囲だけ他よりも間隔が空いている。
――どうか絡まれませんように。
そう思いながら、俺は順番を待つことにした。




