第253話 マスター
「シュート! ただいま!」
いつものようにナビ子が日本から帰ってくる。
前回は少し特殊だったが、このやり取りも何度目だろうか。
だが、今回も今までと違う。
何故なら、今回は俺がナビ子の帰還をいつも以上に待ち望んでいたからだ。
「ナビ子おおおお! おかえりいいいい!!」
俺は嬉しさのあまり、ナビ子に抱きつく。
「ひゃっ!? ちょ、ちょっとシュート。テンション高いよ。どったの?」
「どったの? じゃないよ!! 帰ってくるのが遅いからずっと待ってたんだよ!」
それはもう、まるで恋する乙女のように。
うん。我ながら気持ち悪いが、それだけ待ち望んでいた。
「んぎゅ!? 分かったから離して! じゃないと、潰れるから! 中身がでちゃうから!」
「あっ、ごめん」
俺は慌ててナビ子を離す。
どうやら興奮して力が入りすぎてしまったようだ。
「もぅ。帰ってきて早々、見せられない姿になるところだったじゃないのさ!」
いや、多分その場合は死体じゃなくて、しおりの中に戻るだけだと思うぞ。
まぁ今回は俺が全面的に悪いので素直に謝った。
「んで? 遅いって言ってたけど、アタイはちゃんといつも通りの日程で帰ってきたじゃない」
確かにナビ子の不在期間はいつもと同じ3日。
だけど、俺にはその期間がいつも以上にもどかしかった。
「ナビ子がいない間、めちゃくちゃ大変なことがあったんだよ!」
ナビ子不在の初日はアズリアと密会。
今回は羽目を外して遊んでいないから、何事もなかった。
次の日はミランダばあさんや、属性武器、ポーションなどライラネートでの月課。
ミランダばあさんと世間話をしたり、ファーレン商会で武器を壊したソニアにサナが引っ越したことを愚痴られたり、ギルドで管理マネジャーに絡まれたりしたが、概ね問題ない1日だった。
そして、昨日。
とんでもないことが起こった。
「言っとくけど、アタイは今回ドッキリなんて仕掛けてないよ?」
前回のサナの件はドッキリって自覚があったんだな。
「心配しなくても、別にナビ子が何かしたとかではないから」
いや、でもある意味ドッキリだな。
なにせ予想外すぎたから。
「なんだろ。すごく気になるよ。早く教えて」
ナビ子がワクワクしているのが目に見えてわかる。
「う~ん。どうしよっかな~」
「どうしてここで勿体ぶるのよおおお! アタイに話したくて待ってたんでしょうが!」
俺が勿体ぶると、ナビ子がキレた。
「いやぁ、話すと長くなるし、ナビ子の報告も気になるからさ」
「……アタイの方も長くなるから、先に話してよ」
まぁ確かに今回のナビ子の話は長そうだしな。
仕方がない。俺から説明するか。
「昨日のことなんだけど、ひたすら複数枚合成の使い込みをしていたんだ」
改造プレーヤーと互角になるにはカード化スキルをマスターして、全能力の底上げをする必要がある。
そして、マスターするには、複数枚合成の使い込みが千回必要。
一応モンスターの合成やら魔道具の作成やらで複数枚合成はやってきたけど、使い込みは全然足りない。
そこで、ブランクカード生成で魔法を増やして、魔法だけで複数枚合成を行う。
その準備だけは暇な時にやってきたので、昨日は使い込みだけを集中して一気に終わらせた。
「あっ、ちゃんとマスターしたからテンションが高かったんだ」
「ああ、ちゃんとマスターはしたんだ。マスターは」
ひたすら使い込みをしていると、手伝いをしていたラビットAやティータが急に力が増したと言い始めた。
それで無事にカード化スキルのマスターしたことが分かった。
「そこで一応念の為、冒険者カードを確認したんだ」
冒険者カードではレベルが書いてあるだけで、マスターしたかは分からないのは分かっている。
それでも……と思って確認してみた。
「うん。実際に見てもらった方が早いな」
俺はナビ子に冒険者カードを見せる。
――――
カードマスター:レベル1
言語翻訳:レベル7
魔力妨害:レベル5
スキル妨害:レベル7
命中補正:レベル10
隠蔽:レベル5
偽装:レベル5
看破:レベル6
統率:レベル8
静寂:レベル2
――――
これを見た時の俺の心境をナビ子は分かってくれただろうか?
「ねぇシュート。アタイ、すっごく気になることがあるんだけど」
どうやら俺の気持ちを分かってくれたみたいだ。
「言ってみろ」
「カードマスターってなんなのよおおお!!」
ナビ子の絶叫が部屋中に響き渡った。
****
「――つまり、ナビ子も知らないと?」
あの後、どういうことか問い詰めてきたナビ子をなだめて落ち着かせた。
というか、どういうことか知りたいのは俺の方だってのに。
「うん。まさかカード化スキルに上位スキルがあるなんて知らなかったよ」
下位スキルが上位スキルに変化することはあるらしい。
身近なところでは、サナの読心術がシンパシーに変化していた。
ただし、その条件は分からない。
スキルをマスターするのが最低条件のようだが、どうやらそれだけではないらしい。
何故なら俺の命中補正はマスターしても、上位スキルの必中になっていないからだ。
「運営も知らないと思うか?」
「知ってたら、アタイに言わないはずないから、確実に知らないよ」
まぁそうだよな。
それは何となく予想していた。
ただし、それだと非常に困ったことになる。
「ってことはさ。カードマスターのスキルで何ができるか分からないってこと?」
「あっ……そうなるね」
やっぱりそうかぁ。
今まではナビ子がカード化の能力を説明してくれていたから、使い込みができてレベルが上がっていた。
しかし、頼みのナビ子にも全く分からないとなると、どんな能力があるのかも、どうやってレベルを上げていいのかも分からない。
「今までの能力は全部使えるの?」
「ああ、それは問題ない」
カード化スキル自体は無くなっていたから、もしかして、またレベルを上げないと使えない? ってことになったら一大事だと思って、真っ先に確かめた。
結果として変化、解放、返還、解除の基本はもちろんのこと、合成やレシピ合成、複数枚合成も大丈夫だった。
他にも分解、ブランクカード生成、複製、クールタイム短縮もちゃんとできた。
「あっ、ひとつだけ。修復だけど、1回じゃなくて、2回できた」
1日に1回だけクールタイムを無視してカードを回復できる修復。
それが1回使用しても、連続でもう1回使用できた。
「もしかして、それがカードマスターのレベル1の能力なのかな?」
それだとカードマスターの能力がショボすぎるんだけど。
「多分それはカード化スキルの使い込みの能力アップだと思うよ」
だよねぇ。良かった。
「全能力アップの効果は分かるのか?」
「ごめん。それも具体的には分からないんだ。でもね、他のスキルの傾向から、ある程度の予想は立っているんだ」
モンスターカードのバフ。
合成時の能力アップ。
クールタイムの時間短縮。
分解が上級素材へと変化。
アナライズ効果の範囲上昇。
「これにシュートが確認した修復の回数だね。クールタイムの時間は確認した?」
「いや、それは確認してない」
元々半日で全損が回復。
カード全損がないと、比べようがない。
「一応分かっているのはモンスターカードの能力アップだけだな」
他は使えることは確認しているが、能力アップしたかの確認はしていない。
「本当ならじっくり吟味したいところだけど……その時間はありそう?」
俺がナビ子に聞くとナビ子が首を振る。
「今回の会議でもサテラは来なかったの。だから、アタイ達に改造プレーヤーの捕縛任務が与えられたの」
どうやら予想通りの展開になったようだ。
「じゃあ今度はナビ子の話を聞かせてくれ」




