第245話 つがい石
「そうだ。送受信装置ってどんなものか分かる?」
テレポートの方向性が決まったので、次は通信機の方を相談する。
さっきの話だと、テレポートは場所をイメージするってことだったけど、通信機は道具だからイメージできない。
だから代わりに送受信装置が必要なのだろう。
まぁいきなり送受信装置なんて言われても困るだろうけど。
そう思っていたが、アザレアには心当たりがあったようだ。
「そうですね。装置とは違いますが、つがい石はどうでしょう」
「つがい石?」
「つがいって、夫婦とかのつがい?」
「きゅがい?」
アザレアの言葉に俺達は首を捻る。
「つがい石とは魔道具です。元々は1つの石ですが、2つに割ることができ、どれだけ離れても、片割れの場所を把握することができます」
「へぇ。魔道具なんだ」
石とか言うから天然の結晶辺りをイメージしたけど、ちゃんとした魔道具なんだ。
「これを通信機の中に入れれば、送受信装置の代わりになるかと」
合成でつがい石を通信機に組み込めば、互いの通信機の座標が分かるってことか。
「でも、これってギルドの通信機のように、他の通信機とは繋がれないよな」
つがい石が入っている通信機しか座標がわからないから、電話というよりトランシーバーに近いかも知れない。
「確かに他の通信機とは連絡が取れないでしょうが……別に他の通信機と通じる必要はないのでは?」
ふむ。
確かに自分たちの分だけ通じればいい。
むしろ下手に通じる方が面倒まである。
「でも、つがい石なんて魔道具持ってないぞ」
魔道具ってことは、モンスター倒しても手に入らない。
「つがい石ならファーレン商会でも普通に売っていますよ」
「マジで!?」
まさか普通に売ってるとは思わなかった。
「というか、つがい石なんて何に使うの?」
普通に売るってことは、別の用途があるはず。
「そうですね。冒険者はそれぞれ持っていれば、はぐれた場合に互いのいる場所が分かります」
つがい石は方位磁石のような性質も持っているそうで、片割れの方角が分かるそうだ。
そして、つがい石を手に持った状態で気配察知系のスキルを使うと、方角だけじゃなく、ある程度の距離も分かるらしい。
「それから転送魔法にも使えます」
転送魔法もテレポートと同じくイメージした場所に物を送るのだが、イメージできない場合、つがい石の片割れをセットに転送魔法を使うと、その片割れのもとに届くのだそうだ。
「シュートさんの手紙が送られた時も、つがい石とセットになって送られてきました」
ギルドにはそれぞれのギルドに対応したつがい石が、常に3セットは管理されているらしい。
1セットだと一方通行で返却できなくなるので、返却する場合も考えて多めに準備されているとのこと。
だから、ギルマスやケフィアは送受信装置と聞いてあまり驚かなかったんだな。
「ってことは、送受信装置を買いに行けば、すぐにでも作れそうだな」
「では、ご迷惑をお掛けしましたし、アズにもお詫びしないといけませんから、わたくしが買ってまいります」
それならとアザレアに頼むことにして、俺はガロンの工房へ向かった。
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「なぁガロン。通信機を作りたいんだけど、こんな形の模型を作れる?」
俺は電話の子機の図面をみせる。
別に黒電話型にこだわる必要はない。
というか、嵩張らないようにできるならそっちの方がいい。
本当は携帯電話くらい小さくなる方が望ましいんだけどね。
そして、ガロンが作った模型とつがい石を合成させれば、簡易送受信装置が作れると睨んでいる。
「お主はまた唐突に変なことを言い出しおって……」
そう言いながらガロンは図面を受け取る。
「ふむ。儂も通信機は見たことあるが、これは随分と斬新な形じゃな。もしかして、お主が元いた世界の通信機か?」
ガロンは俺がこの世界出身じゃないことを知っているから、ピンときたようだ。
「その通りだけど……それは他の人には絶対に言ったら駄目だぞ」
特にアザレアの前ではな。
「分かっておるわ。まぁ模型じゃからすぐに作れる。ちょっと待っとれ」
ガロンは木を削って子機の模型を作る。
やはり手先が器用な人が近くにいるとありがたいな。
「ほれ、こんな感じでどうじゃ?」
俺はガロンから模型を受け取る。
……木だから少し重いな。
かといって、鉄で作ったほうがもっと重い。
プラスチックのようなものを手に入れるのが今後の課題だな。
「じゃあすまないが、これを後10個ほど作ってくれるか」
「10個じゃと!? 何でそんなに作る必要があるんじゃ?」
「いや、だってガロンもいるだろ?」
俺と山、アザレア、アズリア、サナ、そしてガロン。
それぞれしか繋がらないから、俺は5個持つ必要があるが、何かあった場合に連絡が取れる手段があったほうがいい。
「そういうことなら仕方あるまい」
自分の通信機も手に入ると知ったガロンは張り切って模型を完成させていった。
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「というわけで完成したのがこちら」
夕食時、全員が揃った段階で俺は完成したばかりの通信機を取り出す。
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ペア通信機【魔道具】レア度:☆☆☆☆
離れた場所と会話ができる魔道具。
対となる通信機と繋がることで、会話ができる。
子機型だが、電波ではなく魔力を消費する。
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ギルドで見た通信機とは違い、数字はない。
そして、互いにペアとなっている通信機としか繋がらない。
その分レア度も5から4に減っている。
まぁこれで十分通じるから問題はない。
「この通信機に魔力を込めると、対となる通信機が音を出して繋がるんだ」
「この大きさですと、持ち歩きもできて便利ですね」
「確かに便利ですが、ペアとしか繋がらないのは残念ではありますね」
「そうなんだよ。俺なんて5個も持つことになるから大変でさ」
「でもシュートさんはカードにすればいいだけではありませんか」
「それがさ。カードにしていると音が鳴らなくて……」
実際に試してみたが、カード状態では音が鳴らない。
だから、常に子機状態じゃないと気づかない。
「それからサイレントモードにもならないから、音が鳴ってほしくない場所ではちょっと困ったことになるんだ」
「……会議中に手元に置けないですね」
「といいますか、街中で音を出されては困りますので、持ち歩き自体できませんよ」
う~ん。
どうしても携帯感覚では使えないってことか。
「ということで、5セット作るのは諦めた」
実際に俺が合成で作ったのは2セットだけ。
「とりあえず、山とここに常設分の2セット。それで十分だよな」
俺も2個ならカードにせずに持ち歩いても我慢できる。
「儂は何のために5セット分も作ったんじゃ?」
「残りはギルドの通信機みたいなのが作れるならってことで。ちゃんとした素材が見つかればすぐに作れるさ」
まぁ全員で調べれば素材の情報なんてすぐに集まるだろう。
それに、ナビ子が日本に戻れば、またお土産で役に立つものを仕入れてきてくれるはず。
とりあえず今は暫定的にでも通信機が手に入っただけで十分。
これで心置きなくライラネートを離れて牧場づくりに取りかかれる。




