第242話 通信の魔道具
「へぇ。アザレアってそんなに仕事できるんだ」
あれからしばらくの間、ギルマスからアザレアの仕事っぷりを聞いていた。
アザレアの仕事は書類整理。
3人のマネジャーから毎日報告書が届くので、それを分別。
重要なのはギルマスへ、そうでないものはアザレアが決をとるらしい。
それだけ聞くと、仕分けして判を押すだけなので、大したこと無いように思えるが、書類1枚1枚に不備がないか確認して、不備があれば再提出をさせる必要がある。
それが非常に大変な作業らしい。
正式な書類なので、誤字脱字はご法度。
もちろん計算も同様だ。
この世界にはPCがないので、計算なども全て手動。
計算機はあるけど、間違いも非常に多いらしい。
それに、依頼の書類などは、しっかりと確認しないと、中には詐欺まがいの依頼も存在するらしい。
普通の人なら1枚確認するだけで、数分掛かるし、確認しても見逃しをするが、アザレアはそれをミスなく一瞬で終わらせる。
ギルマスの話だと、観察眼のスキルを使うと、間違いの箇所が簡単に見つかるらしい。
てっきり鑑定スキルだけかと思っていたのに、そんな能力もあるなんて知らなかった。
「はぁ。アザレアってかなり優秀だったんだな」
俺も最初は優秀だと思っていたはずなんだけどなぁ。
中身があれだと知って、いつの間にか残念さだけが残っていた。
「ああ。もちろん観察眼だけではなく、アザレア個人の能力がずば抜けている。替えが効かない人材だ。もちろん本人には口が裂けても言えないがな」
いくら観察眼で間違いを見つけても、内容を理解できないと、間違いを正せない。
宝の持ち腐れにならずに、ちゃんと使いこなしている時点でアザレアは優秀ってことだ。
ギルマスはいつもアザレアをからかっている印象しかなかったが、めちゃくちゃ評価してたんだ。
なんかこんだけ評価されていると俺まで嬉しくなる。
「それより貴様は本当にアザレアが休むことだけを伝えに来たのか?」
それだけじゃないよな? と含んだ表情を浮かべるギルマス。
ちょっと長話しすぎたようだ。
「うん、実はお願いがあって」
「俺は依頼を受けていけと言うつもりで言ったんだが?」
どうやらギルマスの意に反した言葉だったらしい。
「まぁいい。そのお願いとは何だ?」
「遠い場所にいる人と話ができる魔道具が欲しいんだけど、1セットくれない?」
「やるか馬鹿もん!!」
まぁそうなるよな。
「そもそもあれは各ギルドでひとつしかない。渡せるものではないわ!」
このギルドにも1個しかないようだ。
じゃあ頂戴って言っても無理だな。
「じゃあさ、せめて触るだけ。それだけならいい?」
「……触ってどうするんだ?」
「そりゃあカード化でカードにするんだよ」
「それを聞いて触らせると思うか?」
「別に盗ったりしないって。実はこの間は説明しなかったけど、カードにすると鑑定の効果もあるんだ。それも観察眼よりも優秀な」
「ほぅ」
「鑑定の能力まであるのかい」
俺がそう言うと、ギルマスとケフィアが興味を持った。
「もちろん一回カードにしても、その後カード契約を破棄すれば元通りになるんだ。だから一回だけカードにしたいんだけど……駄目?」
俺の言葉にギルマスが考え込む。
鑑定の結果には興味があるが、カードにさせるのは……ってことだろう。
「ちなみにアザレアは鑑定してないの?」
「鑑定をしたことはあるが、通信の魔道具ということ以外分からなかった」
あっ、一応鑑定はできたのか。
じゃあ俺がカードにしても同じか……でも、属性武器のように、途中までしか分からなかったパターンかも。
まぁそれはどっちでもいい。
とりあえず俺としてはレシピが分かればいいんだから。
「じゃあ、俺の鑑定結果も教えるからさ。なっ、いいでしょ?」
「うむ。しかしだな……」
「あーもう。煮え切らない男だね。よし、じゃあアタシのを貸してあげるから、アタシにだけ結果を教えな!」
渋っていたギルマスに業を煮やしたケフィアが答える。
俺としてはカードにできるならどっちでもいい。
「分かった分かった。許可するから……俺にも結果を教えろ」
流石に仲間外れは嫌だったのか、ギルマスが半ば自棄になりながら許可する。
「ったく。お前は魔道具を持ってきていないだろうが!」
「別にブルームに来ればいいだけのことじゃないか」
どうやらギルマスが許可してくれなかったら、俺はもう一度ブルームに行かなければならなかったようだ。
流石にそれは勘弁願いたいので、ギルマスの魔道具を借りることにした。
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「ほら、これが通信の魔道具だ」
ギルマスが持ってきたのを見て俺は驚いた。
何故ならそれを子供の頃、祖父の家で見たことがあったからだ。
「いいか。この魔道具は誰とでも会話ができるわけではない。これとまったく同じ魔道具を持ったものとしか、会話をすることができる」
ああ……そうだろうな。
「使い方は、まず受話器を取り、かけたい魔道具の番号を回す。このダイヤルの数字に指をかけ、回転させるんだ。番号は魔道具毎に違うからな。間違えて別の番号を回したり、回しが足らなかったら、別の魔道具に繋がるから気をつけるんだ」
そう。
ディスプレイもないから、ばーちゃんがよく隣の番号と間違えてた。
「……カードにしてみていい?」
「ちゃんと返せよ」
俺は通信の魔道具に触る。
「変化」
俺がそう唱えると、一瞬でカードになる。
「ほほう。チェンジか。結晶化とは違うんだな」
結晶化は違う掛け声なんだ、
少し気になるけど、今はそんなことに気を取られるわけにはいかない。
俺はカードを図鑑に入れて説明文を読む。
――――
通信機(0632)【魔道具】レア度:☆☆☆☆☆
離れた場所と会話ができる魔道具。
他の通信機と繋がることで、会話ができる。
黒電話型だが、電波ではなく魔力を消費する。
――――
まさかこの世界で、昔懐かしの黒電話にお目にかかることになるとは。
……どういうこと?




