第25話 ラビットAの合成
仲間たちの合成を1段階まで終え、さらなる進化を考える。
サイレントビーとフェアリーバタフライ、ルナバタフライはまだ1匹ずつなので今回はここで打ち止め。
キラーホーネットとポイズンスパイダーはもう一段階合成できると思う。
だけど、一応現段階の強さも確認したいし、とりあえずここで打ち止めしようと思うが……やっぱりちょっと気になる。
俺がそう考えていると、外からトントンと音が聞こえた。
「きゅきゅー!!」
さっき泣きながら出て行ったラビットAが角で窓を叩いていた。
「おっ意外と早かったな」
出て行って3時間くらいかな?
泣き顔でなく元気そうだから、もう機嫌が直ったのかな。
俺はラビットAを迎えるべく窓へと近づく。
「おかえりラビットA。もう機嫌は……ってどうしたんだ!?」
戻ってきたラビットAはびしょびしょに濡れていた。
まるでどこかで溺れたかのような……それくらい全身水浸しだ。
もちろん雨なんか降っていない。
「ラビットA……どこでそんなに濡れたんだ?」
少なくとも池や川がこの辺りにあるという話は聞いていない。
というか、コイツは出ていってから何してたんだ?
「きゅきゅ!」
付いて来いってことなので、俺はそのまま縁側から外へ出る。
すると……
「うわぁ……」
その光景を見た瞬間、俺はドン引きした。
そこには大量のホーンラビットの死体が積まれていた。
どのホーンラビットも胸をひと突きされている。
「もしかしてこれ……ラビットAがやったのか?」
「きゅっ!」
肯定。
どうやらラビットAがその角でこれだけの同族を仕留めてきたらしい。
そして外の水場が濡れている。
「もしかしてラビットAが濡れているのは、そこの水場で血を洗い流したからなのか?」
「きゅきゅ!」
こちらも肯定。
これだけのホーンラビットを角で攻撃していたら、返り血で全身真っ赤になっててもおかしくない。
そりゃあ血を洗い流したい気持ちも分かる。
「へぇ……血で汚さないように洗い流すなんて、アンタ本当に賢いのね」
「きゅふぅ」
ナビ子に褒められて、ドヤァと胸を張るラビットA。
賢いとかそういう問題じゃない気がするんだが……そもそもどうやって蛇口をひねったんだ?
いや、鍵のかかった窓を開けることが出来るんだ。
蛇口をひねるくらい問題ないんだろう。
「ねぇシュート。ラビットAがこんなに頑張ったんだから、合成させてあげましょうよ」
「きゅっ!」
ナビ子の言葉にラビットAが大きく頷く。
さっき泣きながら出て行ったのは拗ねたから……と思ったんだけど、それだけじゃなかったってことか。
というか、こんだけの同族を狩ってくるくらい合成したいとか……
「なんでそこまでして合成したいんだ?」
一応合成されたモンスターは記憶を保持しているようだし、合成したことを後悔してないっぽいけど、自分が変わるかもって恐怖はないのだろうか?
「バカね。そんなのシュートの力になりたいからに決まってるじゃない」
「きゅんきゅん!!」
そうだとばかりに頷くラビットA。
「いや、今でも十分に役に立ってるけど……」
これだけ仲間が増えたのはラビットAのお陰だし、その愛らしさは俺の癒しとなってくれている。
「ラビットAはね。後輩が合体で強くなるのが羨ましかったのよね? 一番最初に仲間になった先輩として、誰よりも強くならなくちゃいけないって使命感みたいなのがあるのよきっと」
「きゅぅぅ」
ナビ子がさも理解しているように話しているが……ラビットAが頭を掻いて照れてる。
……どうやら事実っぽい。
なるほど……俺はラビットAが弱くても仲間として公平に接していくつもりだったけど、ラビットAはラビットAで色々と考えていたんだな。
「分かったよ。じゃあ……ラビットAも合成して強くなろうか」
「きゅっ!」
いつもの敬礼のポーズで返事をするラビットA。
この愛らしさがどんなふうに変化するのか。
楽しみであり、不安でもあるよな。
****
ラビットAは別のホーンラビットと合成し、無事に進化した。
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アルミラージ
レア度:☆☆
固有スキル:角強化
個別スキル:危険察知、嗅覚、魔の素養
非常に狂暴な一角兎。
強化された角は大岩すらも砕く。
――――
「きゅ~!」
ラビットAは進化に満足そうに鳴く。
「いやいやいや!? ちょっと待って!?」
流石に色々とツッコミたい。
「きゅう?」
ラビットAが可愛らしく首を傾げる。
ラビットAの色は、真っ白からピンクがかった白へと変わっていた。
個人的には真っ白より可愛さポイントは上がっていると思う。
でも可愛さがアップしたのはそれだけ、可愛さ以上に迫力が増した。
まずその大きさだ。
その大きさは、同じく進化したキラーホーネットやポイズンスパイダーなどが50センチ級に対して、今のラビットAはその倍……ゆうに1メートルはある。
似たような動物で考えると、カピバラが更に一回り大きくなったくらいだろうか?
流石に俺だと無理かもしれないが、小さな子供ならその背中に乗ることだって出来るだろう。
そして以前よりも鋭く長い立派な角。
角まで含めたら、きっとゴブリンより大きいと思う。
あの角で貫かれたら……ゴブリンじゃ、ひとたまりもないだろうな。
それからスキル。
固有スキルは角強化。
一定時間、角を硬く強化できるようだ。
説明文に大岩も……って書いてあるから、下手な武器よりも硬く強力なのかもしれない。
そして個別スキルに危険察知と嗅覚……それと魔の素養。
嗅覚はラビットAが、危険察知はもう1匹のホーンラビットが所持していた。
脱兎はホーンラビットの固有スキルだったから無くなったのだろう。
というか、説明文に凶暴って書いてあって、さらにこれだけ大きくなったのに脱兎……は違う気がする。
そして一番気になるのは残った3つ目の個別スキル――魔の素養だ。
もちろんラビットAももう1匹も持っていなかったから、合成による追加スキルになるんだが……
「それが魔の素養って……」
あれだよな、魔法が使えるようになるってやつ。
「お前……魔法が使えるの?」
「きゅう?」
あっコイツ、絶対に分かってない。
仕方ない、こういう時は何でも知っているナビ子先生に聞いてみよう。




