第235話 犯人
「これが貴様の新しい冒険者カードだ」
戻ってきたギルマスから冒険者カードを受け取る。
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名前:シュート
職業:コレクター
レベル:33
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うん。ちゃんと職業がコレクターになっている。
そしてスキルの方はと。
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カード化:レベル10
言語翻訳:レベル7
魔力妨害:レベル5
スキル妨害:レベル7
命中補正:レベル10
隠蔽:レベル5
偽装:レベル5
看破:レベル6
統率:レベル8
静寂:レベル2
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うん、スキルの方は昨日までと変わらないな。
「おい、俺はスキルの内容よりも、スキルの数に驚いたぞ」
やっぱりガッツリ確認されてしまったか。
「ちょっと、アタシにも見せなよ」
一人俺のスキルを知らないケフィアが俺のカードを覗き込む。
どうせ今ここで隠しても、後でギルマスから聞くだけだからと、そのまま見せることにした。
「ふ~ん。カード化ね。確かに結晶よりも嵩張らなそうだね」
「結晶化と違うところは、封じ込めるんじゃなくて、それ自体をカードにすることですかね。それから強制的にカードにはできません。それ以外は……直接触れないとカードにできない所は結晶化と変わらないですね」
「サマナー能力はどうなっているんだ?」
「ちょっと説明が難しいんですが、簡単に言うと、魔石のカードだけはモンスターのカードに変換できるんです。一度モンスターカードにすれば、魔石に戻すことはできませんが、モンスターは何度でも召喚が可能になります」
「だから魔石は絶対に手離さんと言うわけか」
「まぁそれ以外にも理由はありますが、概ねそんな感じです。あっ、言っておきますが、これ以上は秘密ですよ」
流石に合成などについては説明するつもりはない。
「まて、それではあの馬鹿デカい蜘蛛やセイレーンを持っていた理由が分からんぞ」
「アンタがブルームで百種以上のモンスターを倒したことは聞いているが……まさか報告にあった魔族がセイレーンじゃないだろうね」
「土蜘蛛もセイレーンもブルームで倒したわけじゃありませんよ。まっ、その辺りは企業秘密で。だけど1つだけ言えることは、魔石を手に入れるのは倒すことだけじゃありませんから」
「そういえば、シュート様のお祖父様はあの英雄バランでしたね。各地で様々なモンスターを倒していても、おかしくはないですね」
おおっアザレア、ナイスフォローだ!
しかもちゃんと憶測なので嘘でもない。
「なるほど。英雄バランの遺産というわけか。……他にも厄介なモンスターを持っていそうだな」
「あの魔法を放つ武器もかね」
よし、いい感じに勘違いしてくれた。
「俺からはこれ以上はなんとも。でも、別に悪用しませんから安心してください。俺の目的はあくまでも色んなカードを集めることだけですから」
「だからコレクターかい。まったく、隠す気があるんだかないんだか」
ほっとけ。
「いいか、一応これで貴様も上級職の仲間入りだ。これからはもう少しギルドに貢献してもらうぞ」
既にポーションとか、色々な面で貢献しているとは思うけど……まぁ今まで通り適当にしよう。
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「なぁ、アザレアは結晶化のスキルのことを知っていたか?」
ギルドからの帰り道に、気になったのでアザレアに聞いてみた。
「いえ、わたくしも初めて聞きました」
そっか、アザレアも知らなかったか。
まぁ知っていたらカード化を聞いた時にピンときているだろうからな。
「ナビ子は?」
一応ナビ子にも聞いてみる。
「う~ん、アタイも知らないよ」
……ナビ子も知らないのか?
ちょっと予想外だったな。
「じゃあ、ギルマスの冒険者パーティーで、ルーンファイターって人のことは?」
「ルーンファイターのことは存じてます。マジックファイターの上位職で、剣と魔法と巧みに操ると……その方が結晶化のスキルを?」
「ああ、どうやらそうらしい。銃と剣で違いはあるけど、昨日の俺と似たような戦い方をしていたらしい」
「はぇぇ。そんな人がいたんだ。ちょっと会ってみたいね」
ナビ子が俺と同じことを言う。
「残念ながら、その人はスキルを失ったらしいんだ」
俺はさっきケフィアに聞いた話をアザレアとナビ子に伝えた。
「スキル消失事件のことはわたくしも知っております。といいますか、当時はわたくしも疑われましたから」
「えっ!? どういうこと?」
「わたくしの観察眼ですが、生まれながらに所持していたわけではないことは、以前お話しましたよね?」
「……ああ、アザレアの研究愛で神が与え給うたんだよな?」
アズリアから真実を聞いているが、そのことをアザレアは知らない。
だから、どこまでアザレアと話したか定かではないが、確かこんな感じだったと思う。
「もう、あんな冗談は忘れてください」
アザレアが照れたように言う。
良かった。どうやら合っていたようだ。
「その観察眼なのですが、この街とは別の街なのですが、わたくしが観察眼を得る前に、観察眼のスキルを失った方がいたのです」
「だから疑われたってことか?」
「別に犯人として疑われたわけではありません。わたくしはその街には行ったことがありませんし、当時はすでに仕事をしていましたので、アリバイとしては十分でした。そもそも、スキル消失事件は何年も前から行われていたこと。年齢的にもわたくしが犯人なのはありえませんでした」
「スキル消失事件は一時期だけって聞いたけど……何年も前から?」
「そうですね。ギルド長が冒険者を引退したのが10年前で、5年ほど前を最後に被害の報告はありません。ですので、今は被害がないことを考えると、一時期という表現は間違っていないかと。そもそも、貴重なスキルを持っている人なんて多くはないですから。被害も年に数件くらいではないでしょうか」
5年を一時期って言うのは長い気が……まぁダークエルフの寿命から考えると一時期なのかもしれないな。
「わたくしの場合は、観察眼を得た時期が消失した時期と似ていましたので、どうやってスキルを手に入れたのか、しつこく聞かれました」
犯人からスキルを手に入れたとか、怪しいものを手に入れなかったかとか、そんなことを聞かれたらしい。
「もちろん身に覚えは全くありませんので、そのことを正直に伝えました。当時は……その、家のこともあり、それ以上追求されることはありませんでした」
アザレアが言葉を濁す。
貴族の家の出身だから、下手なことはされなかったってことか。
「ただ、実はわたくしだけでなく、アズの鑑識眼とアゼの……あっ、アゼのスキルに関してはお話しておりませんでしたね。実はアゼもわたくしやアズと似たようなスキルを持っております」
そうだった。
確かレア度の話の時に、神眼スキルの話題が出て、その時に答えなかった所でアザレアは止まってるんだ。
「……そうなんだ。いや、何となく反応で分かっていたけどね。スキルの詳細は聞かないほうがいい?」
「そうですね。勝手に話すのはアゼに悪いですから」
ごめん。
実はすでに知っているんだ。と、心の中で謝罪する。
「それで、アズとアゼも同時期に神眼スキルを習得しているのです。偶然と考えるには……もしかして、本当に消失事件と関係があるかもと疑ったこともあります。もちろん、身に覚えがないことは事実です。ですが……」
やっぱりアザレアも色々と考えていたんだな。
もしかして、スキルを研究しているのも、それが理由の一つかもしれない。
「あっ、アズとアゼには、スキル消失事件のことも、わたくしが疑われたことも、何一つ言っておりませんので、このことは2人には内密にお願いできますか?」
「……分かったよ」
「うん、アタイも言わないよ」
真実を知っている俺としては心苦しいが。
でも、これでハッキリしたな。
スキル消失事件の犯人は……運営だ。




