第233話 コレクターという職業
宴会が終わると試験の結果は明日と言われ、解散となった。
基本職とは違い、上級職はしっかりと吟味する必要があるらしい。
正直、酒が入っているのに吟味もないだろうけど。
なので、俺達は一旦家に帰って、サナの合格祝いと称した二次会を行った。
そして次の日。
アザレアに案内されてギルマスの部屋までやって来た。
待っていたのはギルマスとケフィア。
やっぱりケフィアもいるんだな。
「来たな。では試験の結果を発表する」
ケフィアは座ったまま動かず、ギルマスだけが俺の前に来る。
「あ~、非常に不本意ではあるが、貴様を合格とする」
ギルマスが苦虫を噛み潰したように言う。
言葉通り、非常に不本意そうだ。
「不本意って……ギルマスなんだから、負けたからって私情を挟んじゃ駄目でしょ」
まぁ負けた上に、逆さ吊りにされたら不本意なのは分かるけどさ。
「馬鹿が! 別に私情だけで不本意な訳ではないわ!」
めっちゃ怒られた。
私情じゃないと?
「じゃあなんで不本意なんだよ」
「簡単だ。貴様の性根が上級職に相応しくない」
「なんだ。やっぱり私情じゃないか」
性根とか……絶対に逆さ吊りを根に持っているだけじゃないか。
「違うと言ってるだろうが! 最後まで聞け。そもそも上級職とは冒険者の目標であり、憧れでもある」
まぁどんな冒険者もそこを目指すだろうから、それは分かる。
「だから、上級職になる冒険者は、他の冒険者の見本となる人物が相応しい。つまり、普段から依頼を受け、緊急依頼では率先して冒険者を率いるような人物だな」
「じゃあ俺じゃ無理じゃん!」
依頼なんか全然受けてないし、緊急依頼を抜け駆けして、独り占めにしてるんだぞ。
見本どころか反面教師にしかならない。
「だから不本意だと言ってるだろうが。その上、自覚があるのが更にたちが悪い」
自覚がなかったら正すことも可能だが、自覚があるのは確信犯だからな。
「でもさ。だったらせめて性根じゃなくて素行って言ってくれよ」
素行って言われたら、私情とは思わなかったぞ。
「似たようなものだろう?」
……確かにそうだけどさ。
「でも……じゃあ何で上級職になれたの?」
もしかして、管理マネジャーのシュナが本当に頑張ってくれたとか?
しかしそれだと本当に素行が悪すぎだろ。
「それだが、まず大前提として、上級職には強さが求められる。レベル30だからと言って、強いとは限らないからな」
冒険者のシステムで、レベルが上がる度に経験値が取得しにくくはなるけど……ゼロにはならない。
だから毎日ホーンラビットだけ倒し続けて、弱いままレベル30になることもあるかもしれない。
そういった人は上級職になれないと。
まぁ俺はギルマスに勝ったし、この条件はクリアしていると。
「まぁモンスターに頼らない、貴様個人だと少し物足らんがな」
ほっとけ。
確かにモンスターがいたから勝てたのは事実だけどさ。
ん? でも、そもそも個人でギルマスを2人同時に相手にできる人間っているのか?
「そうだよ。考えたらギルマス2人同時相手だったんだぞ。もし1人ずつ相手にしていたら、モンスターなしでも勝てたかもしれないじゃないか!」
ってことは俺単体でもギルマス並みの強さじゃない?
「ほぅ? ではやってみるか?」
「……いや、やらないけど」
だって絶対めんどくさいに決まっている。
「だがまぁ貴様個人も思ったよりやるとは思ったぞ。……まぁ俺よりは劣るがな」
褒めたかと思ったらこれだ。
あくまでも俺より強いことにしたいらしい。
「そして、貴様が合格した決定的なことがある」
現時点で素行の悪さでマイナス。
戦闘能力でプラスで打ち消し。
決定的なことって……あと何があるんだろ?
「ハッキリ言わせてもらうと、コレクターに魅力がない」
「はぁ!? ふざけんなよ!!」
俺はギルマスの胸ぐらを掴む。
言っていいことと悪いことがあるだろ。
「おっ、おい。落ち着け、話を最後まで聞くんだ」
おっと。いかんいかん。
ちょっと熱くなりすぎてしまったようだ。
俺はパッと手を離す。
奥でケフィアが少しビビってるし。
しかも何故かアザレアとナビ子まで俺から一歩離れているし。
……そんなに迫力あったのかな?
「きっ、貴様がどのような思いを込めてコレクターを選んだかは知らん。だが、他の冒険者の立場で考えてみてくれ。コレクターという職業を聞いてどう思う? なりたいと思うか?」
俺を怒らせないようか、ギルマスが言葉を選んで発言した。
ふむ。コレクターになりたいか……か。
たとえばギルマスのグランドファイター。
これはファイターがなりたい上級職の上位らしい。
そしてケフィアのアーバレストは、アーチャーがなりたい職業1位。
他にもアークメイジやハイプリースト等が人気の上位職らしい。
仮に俺がこれらの職業や、それに近しい職業を選んだら、素行の悪さで合格できなかった。
じゃあコレクターは?
……一体どんな職業に需要があるのだろうか。
うん、誰も憧れない。
なら、多少素行が悪くても、他の冒険者の見本にならなくても問題ない。
そういうことらしい。
「つまり、貴様を見習いたいと思うやつはおらんというわけだ」
……なんかすごく腹立つが、下手に尊敬されたりしても困るし、上級職になれるのなら何でもいいや。
「納得したようだな。では貴様の冒険者カードをこっちへ寄越せ」
「……何で?」
「何故そこで疑問に思うのだ!? 貴様の冒険者カードを更新するからに決まっているだろうが!」
「いや、それは分かるけど……アザレアじゃ駄目なの?」
アザレアじゃないと、スキルがバレるじゃないか。
「基本職とは違い、上級職の登録は原則として試験官が勤めている」
え~マジか。どうしよう。
今更辞めると言っても聞いてくれないだろうし。
「スキルを見ないなら渡すけど?」
「……配慮はするが、絶対に見ないとは言い切れないな」
うわっ!? これ、絶対に見るやつだ。
むしろ、スキルを確認するために合格にしたんじゃないのかと疑いたくなる。
「心配しなくても、アンタのスキルを言いふらしたりはしないよ」
……なんでケフィアが答えるんですかねぇ。
この人も見る気満々じゃねーか!
「そもそもだ。すでに貴様のスキルはギルドに登録済みだ。確認しようとすれば、いつでもできる」
「……普通は見れないんじゃないの?」
「まぁな。だが、俺はギルマスだぞ。ギルマス権限でどうとでもなる」
コイツ……堂々と不正すると言いやがった。
だがまぁ今までそれをしなかったんだから、口ではそう言っても勝手には見ないと思う。
「それに、心配せんでも貴様が隠したがっているスキルは、ある程度、検討がついている」
いやいや、アザレアの鑑識眼ですら見破れなかったのに、ギルマスとケフィアの鑑定能力で分かるはずがない。
「じゃあどんなスキルを言ってみてよ」
「昔、知り合いに結晶化というスキルを使える冒険者がいた。そのスキルは、自らが作り出した結晶の中に、様々な物を封じ込めるというスキルだった」
「アタシらは最初、収納スキルの劣化だと思ってたんだけどさ。それがとんでもないスキルだったんだよ」
結晶化だと?
「一体どんなスキルだったんだ?」
「そのスキルは物だけじゃなく、何だって結晶に吸い込めた。魔法や……モンスターなんかもな」
「そして、その結晶があれば、魔法が使えない人間でも魔法を放つことができる。ただ、その時の掛け声が魔法じゃなくてね。リリースって言ってたのさ。おや? そういえば、アンタも昨日の試合でリリースって叫んでなかったかい?」
……白々しい。
でもそうか。
考えたらギルマスの前で解放って言ったのは初めてだった。
それでピンときたんだな。
う~ん。
声を出したのは失敗だったな。
だけど、声を発した方が、早く正確に発動できる。
ああいった切羽詰まった状況になると、どうしても声を出してしまうが……やはり声を発さない練習をするべきだった。
「じゃあ俺がその結晶化のスキルを持っていると?」
「いや、結晶化にはモンスターを封じることはできるが、それは生きているモンスターだけ。死体を結晶に入れても生き返るわけではない。テイマーの真似はできても、サマナーの真似はできない」
「アンタはフォレストドラゴンを召喚したからね。フォレストドラゴンの魔石はアタシも確認しているから、生きていたのを誤魔化してないことは分かっているよ」
フォレストドラゴンがもう1体……あんな大物がもう1体は考えないよな。
「それに貴様は結晶を持ち歩いていないからな」
そっか、結晶って意外と嵩張るもんな。
「しかし、結晶化に似たスキルであることは間違いない」
「そこで、昨日コイツと話し合ったんだがね。おそらくアンタの能力は、結晶よりも、もっと小さいものに物や魔法を封じるスキル。そして、サマナーのように、魔石からでもモンスターを召喚できる。しかも、何度も召喚できるから、使い捨てではなく、リサイクルのような能力も備わっているんじゃないかい?」
少ない情報でここまで推測できるのか。
……なら、これ以上隠しても仕方ないかな。
俺は諦めて冒険者カードを渡すことにした。




