第232話 試験終了
セイレーンでその場を脱出した後、2人から離れた俺は、土蜘蛛とフォレストドラゴンを召喚する。
自動車くらいの土蜘蛛と、体高3メートル、体長10メートルくらいのフォレストドラゴン。
体育館くらいある試験場が、一気に狭く感じる。
「おいおいおい。なんだあの馬鹿デカい蜘蛛は! ジャイアントスパイダーか?」
「馬鹿だね! ジャイアントスパイダーでもあれの半分くらいだよ。あれが何かは分からないけど、比べ物にならないくらいの大物だよ。それから、更に巨大なもう一体、あれはフォレストドラゴンだね」
「この間の報告にあったやつか。アイツ、こんなとんでもないモンスターを倒してやがったのか。ゴブリンの集団を軽くあしらうわけだ」
「モンスターを召喚しろとは言ったが、いきなり大物過ぎやしないかい? まったく……とんでもない男だね」
突然の大型モンスターに、流石の2人も戸惑いを隠せない。
「オマケに……アイツを持ち上げているのはハーピーか?」
「いや、腕があるから違うね。ありゃセイレーンだよ」
「セイレーンだと!? くそっ、ハーピーよりもヤバいじゃねーか!」
本当は、魔族を持っていることは知られたくなかったけど、あの場を離脱するにはセイレーンが一番相応しかった。
他の飛行モンスターは、俺が乗る手間がある。
まぁかぎ爪に無理やりってのもあるが、それだと痛いし、どうしても大形の鳥になる。
その点、セイレーンは俺と同じくらいの大きさで、抱えて飛ぶことができる利点がある。
「さぁ、まずはこの2体からだ。思う存分楽しんでくれ。あっ、もちろん俺も攻撃させてもらうから、この2体にだけに集中しないように」
俺はさっきのお返しとばかりに笑いながら言う。
気分はまさに勇者を迎え撃つ魔王って感じ。
あれっ? 俺の方が悪役なのか?
……まぁいいか。
「くそがぁ! おい、全力でいくぞ」
「ああ。あのくそ生意気な小僧の鼻っ柱を折ってやらないと気が済まないよ」
こうしてギルマスとケフィアは、フォレストドラゴンと土蜘蛛に特攻していった。
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「おい貴様。いい加減降ろしたらどうだ?」
「そうだよ。アタシはのぼせてきちまったよ」
「だから、負けましたって素直に言えば、降ろしてあげますって」
俺がそう言うと、2人は口をつぐむ。
嫌でも負けたって言いたくないようだ。
当然のことだが、2人は土蜘蛛とフォレストドラゴンに負けた。
ただ、楽勝とはいかず、かなり苦戦してしまったけど。
なにせ2人はフォレストドラゴンを倒してしまったんだから。
まぁここは森じゃないから、フォレストドラゴンの再生能力は封じられ、能力も半減していたが。
それでも、俺と土蜘蛛も相手にしながら倒したんだから、ベテラン冒険者の真骨頂を見せてもらった。
最終的にはそこで体力や魔力を使い果たして、土蜘蛛にやられてしまったけど。
まぁそんなベテラン冒険者も、現在は土蜘蛛の糸で顔以外をぐるぐる巻きにされ、天井から逆さ吊りにしているんだけど。
「ほらほら、2人ともギルマスなんだからさ。往生際が悪いのはどうかと思うよ」
「ぐぬぬ……貴様、後で覚えておけよ」
「アンタ……本当にいい性格してるね」
「あっ、そんなこと言うんだ。じゃあもう少しそのままでいてもらおうかな」
俺は2人に背を向ける。
「えっ!? お、おい!」
「ちょ、ちょっとお待ち!」
慌てる2人を無視して俺はその場から退散。
2階で観戦していたアザレア達の元へ飛んでいく。
「おーい。勝ったぞ~」
俺がそう言いながら近づくと、待っていたのは冷ややかな視線。
「シュートさいてー」
「きゅート、きゅいてー」
「シュート様……はぁ」
「シュートさん、大人げないです」
「フォレストドラゴン……可哀想」
「ないわー。ホンマにないわー」
心底呆れ返っている面々。
あれっ? 思っていた反応と違うぞ。
「なっ、何でだよ!? 俺は一生懸命戦って、勝っただろ」
「飛行モンスターはたくさんいるのに、あえてセイレーンを選ぶなんてシュートさいてー」
「きゅート、きゅいてー」
「鼻の下を伸ばして……本当に穢らわしい」
「シュートさん。モンスターを従えている姿は完全に悪役でしたよ」
「フォレストドラゴン……可哀想」
「なんちゅうか、モンスターが強すぎて、小者にしか見えん」
……散々な言われようである。
しかも、ひとり全く知らない人にツッコまれているし。
マネジャーの一人のようだけど、小者て。
「せやけど、ギルド長をぶっ飛ばしたんはスカッとしたな。ポーション作ることしか才能ないんやと思っとったけど、中々やるやん」
「……正直わたくしもギルド長のあの姿を見ると晴れやかな気分になります」
さっきの女性とアザレアだけでなく、残りのマネジャーも頷いている。
……色々と日頃から溜まってるんだろうな。
「アタイはおじちゃんの方はどうでもいいけど、あの人が逆さ吊りになってるのを見ると、ざまぁって思うよね」
「きゅしし」
ナビ子はケフィアを毛嫌いしてるからだろうが、ラビットAは分からんな。
そもそも、何でラビットAが観戦していたかも不明だし。
「じゃあさ、全員でギルマス達の近くで……宴会でもしない?」
「おっ、兄ちゃん話が分かるやん。もちろん兄ちゃんの奢りなんやろ?」
……この人、さっきから馴れ馴れしいし、しかもがめつい。
ポーションのことも知ってたし、この人が管理マネジャーに違いない。
「じゃあ……俺が合格したら奢るってことで。だから、合格するようにギルマス達を説得してくれ」
……これって不正扱いになるのかな?
いや、違うよね。
「よし、そんならウチらに任しとき。バッチリ説得したる。なぁに、ちゃんとギルド長をぶっ飛ばしとるんやから、安心しい」
どうでもいいけど、この管理マネジャー、話し方が独特だよな。
色んな方言が混じってそうだけど……翻訳で方言て。
うん、気にしたら負けだな。
別に反対意見もなかったので、俺もセイレーンから降りて、一緒に1階へ降りることにした。
と、そこにアズリアが俺に近づいて耳打ちする。
「ああ言っていましたけど、シュートさんの戦っている姿を、顔を真っ赤にして見ておられましたよ。……もちろん私もですが」
それだけ言って離れていく。
……頑張った甲斐があったかな?
ちなみに、宴会を始めると、ギルマス達はすぐに敗けを認めた。
目の前で宴会をされるのが、負けを認めるよりも嫌だったらしい。
結局そのままギルマスも加わり、しばらくの間宴会を続けた。




