第230話 上級職試験
俺とサナが試験場へ行くと、そこには既に対戦相手が待っていた。
「貴様! 遅いではないか!」
「アンタ、このアタシを待たせるとはいい度胸じゃないか」
「……まだ予定時間より早いけど?」
本当、どんだけ楽しみにしていたんだ。
「お待ちしておりましたシュート様」
近くにいたアザレアが寄ってくる。
なんかガチで疲れている気がする。
……きっと2人に振り回されたんだろうなぁ。
「なぁ。本当に俺はあの2人と戦うのか?」
「ええ。そうなります」
アザレアの話によれば、ギルマスがケフィアに俺と戦うことを自慢したら、自分も来ると言ったのが原因らしい。
んで、ギルマスが面白そうだからと許可したと。
実にふざけた話だ。
「報告が遅くなりまして申し訳ございません。わたくしも知ったのが本日の朝礼でしたので……」
その上、ケフィアは勝手に出歩く始末。
そりゃあアザレアも疲れるよなぁ。
事前にアザレアに言わなかったのは、俺に知られたくなかったからだろうな。
「まぁそれはいいんだけどさ。それよりも、あの人たちは?」
俺は2階に目を向ける。
そこには知らない人が3人と、少し離れた場所にもう一人少女がいた。
あとついでに見知った顔が2名、アズリアとガロンがいた。
「え~、彼らはこのギルドのマネジャーと、ケフィア様の同行者です。残りの2名は……なぜここにいるのでしょうか?」
まぁアズリアとガロンは無視するとして、以前聞いた話じゃ、このギルドにマネジャーが3人いるって話だったな。
んで、アザレアがその統括だったはず。
ケフィアの同行者は……あっ、もしかして彼女がソニックイーグルの持ち主かも。
しかし、今は誰かなんて問題ない。
「ギャラリーがいるなんて聞いてないけど?」
まぁこれは試験だし、サナの時と同じように観客がいてもおかしくはない。
でも、てっきり今回も無観客にしてくれると思っていた。
「今回はギルド長が直々に試験官を務めると職員に通達しておりましたから、全職員が興味津々でして……」
下手すれば職員や冒険者も含めて、全開放なるところを、アザレアがなんとか説得して、マネジャーと身内枠だけは許可することで手を打ったらしい。
「マネジャーと身内枠を許可しないと、わたくしも見学できないと言われましたので、仕方なく……」
おいおい。自分のためかよ。
……まぁ俺もサナを連れてきたし、仕方ないか。
「分かったよ。アザレアはこれでも飲んで、みんなと一緒に見学してろ」
俺は栄養ドリンクを取り出す。
「あっ、これを飲むのは久しぶりですね。ありがたく頂戴します」
栄養ドリンクの効果を知っているアザレアは喜んで受け取る。
「では、サナ様は見学ですのでこちらに……」
「はい。でもその呼び方はちょっと……」
様付けに慣れていないサナが照れながらアザレアに付いていく。
その後をバルとルースとナビ子が……
「おい、何しれっとお前まで行こうとしているんだよ」
俺はナビ子の首根っこを掴む。
「んげ!? ちょっと何すんのさ!」
「いや、お前が勝手に出ていこうとするからだろ」
「いいじゃん! どうせシュートひとりでやるつもりだったんでしょ!」
「まぁそうだけど。でも、なにも言わずに行かれると、ちょっとイラッとしちゃって」
俺がそう言うと、ナビ子が少し呆れる。
「なんて自分勝手な……まっ、いきなり相手が二人になってるし、シュートにとっちゃ大事な試合だから、気負っちゃうのは分かるけどね」
気負う?
俺は平常なつもりだったけど……確かに言われてみれば少し気負っていたのかも。
「アタイもアザレアも……シュートが格好いい姿が見たいだけだから、勝ち負けなんか気にしないで、精一杯頑張ればいいよ!」
ナビ子はそれだけ言ってアザレア達を追い掛ける。
……よし、頑張ろう。
****
「一応ルールを説明する。貴様の対戦相手は俺とケフィア。貴様は一人だが、試合が始まったらモンスターを召喚して構わない」
今回は総合的な実力を調べるために、あらかじめの召喚すら駄目らしい。
まぁ今回は最初から仲間を使う予定はないけど。
しかし、普通のサマナーなら、戦いながら召喚ってシビアすぎるだろ。
「試験の合否は勝敗に関係はない。だが、力を隠したままわざと負けるようでは、絶対に上級職にはなれんぞ」
「それじゃ甘いよ。いいかい! 手を抜いたら冒険者剥奪も考えるからね!」
このふたり……マジで俺の能力を暴きにかかっているな。
「別に手を抜くつもりはありませんよ」
格好いいところを見せるんだからな。
「ならいい。では互いに準備ができたら開始する」
ギルマスとケフィアが武器や防具の準備を始める。
さて、俺も準備しないと。
モンスターの召喚は駄目だけど、武器の召喚はいいんだよな?
駄目っていったら、ギルマス達の武器も取り上げてやる。
俺はブラストガンを召喚する。
両手持ちだと自由が効かない。
ラビットファイアはいつでも召喚できるように、カードを袖に忍ばせ待機させる。
次に、両腕にガロン作の特別製のデッキケースを装着。
見た目は腕を守る籠手のようになっており、パッと見ではデッキケースだとは思われない。
更にこのデッキケース、手前にあるボタンを押すと、希望したカードが飛び出してくる仕組みになっている。
魔法発動は、タイミングが命だから、迅速に取り出せるのはありがたい。
今回は左が攻撃魔法で、右が回復及び補助魔法を入れてある。
ただし、枚数は10枚程度しか入らないが。
まぁ試験だけなら、それで十分だろう。
もちろんカードはこれだけじゃない。
腰にあるポシェットにはラビットファイアの弾や、他の武器や道具が入っている。
近接戦になったら、銃よりもナイフとかの方が使いやすいからな。
まぁそっちはほとんど素人だから、近接戦になった時点で敗けだけど。
肩には全魔法が1枚ずつ入ったカードショルダーを装着している。
可能なら、使用するときは複製を使って使用したい。
まぁ戦闘中にそんな余裕はないだろうけどね。
それから最終手段として、内ポケットに各種図鑑と咄嗟に召喚できるモンスターカードが入っている。
このモンスターカードは主力カードではなく、一芸に秀でたカードたち。
俺が初戦闘で、ゴブリンを倒したときのように、カード使いとしての戦い方をする為のカードだ。
これも今回は使うことはないだろう。
カードの確認は十分として、あとは……
「強化魔法って使っていいの?」
身体能力強化は基本だよな。
「開始前の魔法は禁止だ。使いたければ始まってからにしろ」
魔法は駄目と。
せめてプロテクションくらいは使いたかったなぁ。
よし、補助魔法は手に持って、開始早々使うことにしよう。
「おい、まだ準備は終わらんのか?」
既に準備を終えているギルマスとケフィア。
プレートアーマーに大剣とまさに重戦士って感じのギルマス。
そして、軽装のまま弓だけ装備したケフィア。
こっちは完全なサポーターって感じだ。
ただ、あの弓はただの弓じゃないってことは分かる。
そういえば、ケフィアは弓でワイバーンを撃ち落としたことがあるんだっけ?
……まさか、その弓じゃないだろうな?
ギルマスの大剣も、鑑定しなくてもヤバい代物だということが分かる。
「……試験なら、怪我をさせないために、普通は刃を潰した武器を使うんじゃないの?」
「馬鹿が。そんなんで実力が分かるはずないだろう」
いや、馬鹿は間違いなくギルマスだ。
あんなんで斬られたら真っ二つだぞ。
ケフィアの方も、一発でも食らうと絶対に致命傷になる。
「くくくっ、簡単に死ぬんじゃねぇぞ」
なんか……試験と称して、俺を殺すつもりじゃないよな?
ったく、ガチ過ぎんだろ。




