第227話 サナの試験
街を案内しろとうるさいケフィアをなんとか説得して、ギルドまで戻ってきた。
ギルドに入ると、待っていたのは不機嫌なアザレア。
「ケフィア様! いきなり居なくなって、どこに行かれていたのですか?」
この剣幕。
どうやらケフィアは勝手に抜け出してきただけだったようだ。
「なんだい。ちょっと散歩していただけじゃないか」
「散歩って……勝手に外に出てはなりませんと申し上げたではありませんか。それに打ち合わせの予定時間が過ぎております」
「どうせ大した打ち合わせじゃないんだろ? 気にするこたぁないよ」
「とにかくギルド長がお待ちです。早く行かれてください」
「やれやれ。あんな男、いくらでも待たせておけばいいんだよ」
だが、そう言いながらもちゃんと向かうようだ。
「いいかい。アンタが試験でアタシらに負けたら、その時はデートすんだよ」
いつの間にそんな話になったし。
というか、そんな話をここでしたら……ほら、アザレアが俺を睨む。
「シュート様。試験前に随分と余裕がおありなんですね」
「……そう見えるか?」
正直、余裕なんてこれっぽっちもないぞ。
「詳しくは後で伺います」
そう言ってアザレアはケフィアを連れてギルマスの元へ向かった。
……はぁ。逃げ出したい。
「……もういない?」
鞄の中からナビ子の頭だけ飛び出す。
「ああ。いないから安心して出てこい」
「あ~窮屈だった」
俺の言葉にナビ子が鞄から出てくる。
「お前……ひとりだけ逃げてズルいぞ」
「まぁまぁ。もう終わったことだし。それよりサナはどうだったかな?」
あからさまに話を逸らしやがった。
けど……本当、サナはどうだったんだろ?
時間的には、もう学科試験は終わっていてもおかしくない。
「あの……シュートさん」
と、そこにアザレアが不在になったので、ひとり受付に残っていた……そうそう、ミーナだ。
ミーナが俺に声をかける。
「あの、シュートさんはケフィアさんとお知り合いなのですか?」
そっか。
俺がブルームで依頼を受けたことは一部の人しか知らないもんな。
「ああ。先月、あっちの方のギルドで少しお世話になってな」
「そうなんですね。だからわざわざ……」
「やっぱり他のギルマスが試験官って珍しいの?」
「そりゃあもう! ギルド長が試験官をするだけでも珍しいのに、よそのギルド長までいらっしゃるんですから。職員の間では、これはもうただ事じゃないって、朝からもちきりですよ」
……職員の中だけなのがせめてもの救いか。
「あんまり冒険者には広めないでね」
「あっ、それはギルド長からしっかり言われてますから。だから本当はケフィア様もうろついたらいけなかったんですが……」
あの人……とんでもないな。
「ですが、ケフィア様のことを知っておられる冒険者はほとんどおりませんから」
まぁあの人の容姿でギルマスだとは思わないだろう。
「それに冒険者の方々は、それどころではないみたいですし」
「ん? 何かあったの?」
そういえば、さっきのアザレアとケフィアのやり取りもあまり注目を浴びていない。
なんか、パーティー間で色々と打ち合わせをしているように見える。
大型依頼でもあったのかな?
「実は今日の冒険者試験にケットシーとブラウニーを連れた女の子がいたんですよ!」
「…………そうなんだ」
俺といると目立つからって、別々に行動したけど、やっぱり無意味だったようだ。
まぁ俺が無名の時でもナビ子だけで目立っていたしなぁ。
ケットシーとブラウニーじゃ目立って当然か。
「そのことってギルマスは知ってるの?」
「いえ、ギルド長はシュートさんとの試験に集中していますから、ご存じないかと」
ただ目立たせたくなかった目的は、今日一日ギルマスに気付かれないようにするため。
俺と知り合いってバレた時点で、俺の時みたいに試験の難易度を上げられそう。
だから、今日だけギルマスに気づかれなかったら、目的は果たしたことになる。
「あんな珍しいモンスターを連れているんです。合格は確実でしょう。既にいくつかのパーティーが、彼女をスカウトする方向に動いているようです」
あ~、それは困るなぁ。
サナは強引な勧誘とか苦手だろうから、絶対に混乱するに決まっている。
よし、試験が終わったら、すぐに帰らせよう。
「ちなみにその子の試験がどうなったか分かる?」
「まだ降りてきていませんから、筆記が終わってないと思いますが……もう終わっていてもおかしくない時間ですね」
「ねぇ。2階に上がってもいいかな?」
筆記試験をやっている2階は基本的に関係者以外立入禁止。
まぁ俺はよく呼び出されて入っているけど。
でも、流石に勝手に入ることはできない。
「えっ? いや、流石にシュートさんでも勝手に通すわけには……」
ミーナが戸惑う。
まぁそうなるよな。
「実はその子、俺の知り合いなんだ。ケットシーも俺が貸したモンスターでさ。だから……な」
俺がそういうと、ミーナが色々と悟ったような表情を浮かべる。
「そうですよね。シュートさんみたいに、最初から出鱈目な人っているはずないですよね」
それって俺に対して失礼じゃないか?
「う~ん。シュートさんなら、怒られないでしょうし……分かりました。とりあえず2階にご案内します」
ミーナが話の分かる人で良かった。
俺はミーナの案内で2階へと向かった。
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「あっシュートさん」
試験が行われている隣にやってくると、そこにはバルとルースと戯れているサナがいた。
サナの言葉にミーナが本当に知り合いなんだと隣で呟いている。
「なんだ。試験は終わっていたのか」
「ついさっき終わりました。何度も見直していたら時間がかかってしまって」
どうやらサナは途中で抜け出さず、最後まで受けていたみたいだ。
「もちろん合格したんだよな?」
「はい。名前の書き忘れもなかったですし、解答欄のずれもありませんでしたから」
その言い方……昔はしてたってことね。
まぁ考えてみたら筆記は二択。
天運スキルを持っているサナなら、勘でも全問正解しそうだ。
「この後、実技試験なんですが、試験官のモンスターと戦うらしいんです。初めての戦いなので、少し不安です」
一応ここ数日、庭のモンスター達と練習はしていたみたいだけど、初の実践だもんなぁ。
「シュートさん。この後の試験、観戦も可能らしいんですけど、見ていてくれます?」
「ああ、もちろんだ」
合流した時点でそのつもりだった。
「うう。私も見たいけど、もう戻らないと」
そういえばミーナを忘れていた。
多分アザレアも戻ってないだろうし、あんまり受付を空にしたままじゃ駄目だろうからな。
しかし、ミーナが居なくなると俺がここに滞在できなくなる。
どうせ実技は外の倉庫が試験場になるのでサナも一緒に外に出ることにした。
……ただ他の冒険者に見つかりたくないから、サナには黙って偽装スキルを使ったけどね。




