第215話 ナビ子のお土産
サナとルースの家や銃を取りに行く。
その方向で話が進んだんだが、ひとつだけ問題があった。
「そういえば、アタイは正確な場所は知らないんだった」
いや、もうアホかと。
ってなわけで、後日ルースに場所を聞いて取りに行くことにした。
「じゃあ最後に恒例のお土産だね。今回は迷惑をかけたから、いつもより多めだよ」
ナビ子が拳銃以外のお土産を出す。
このお土産が毎回楽しみなんだよなぁ。
まずは定番の酒とニンジン。
酒の量がいつもより多い。
「ガロンやグリムが増えたからな。酒が多いのは助かる」
それにアザレアとアズリアも結構飲むし。
やはりこっちの世界でもビールの生産を急がないとな。
「次はこれだね」
ナビ子が複数のカードを並べる。
・手作りビールの作り方
・手作り果実酒のかんたんレシピ
・おすすめカクテル50選
・ゼロから始める酒蔵経営
・最強!ボディソープ厳選
・最新!シャンプー&トリートメント
・美肌になるための最強の美肌法
・目指せ美肌!美容のための成分図鑑
・理想のボディを得るための筋肉体操
・正しいペットの飼い方
「……なんだこれは?」
「なにって……本だよ。前に欲しいって言ってたじゃん」
確かに作り方の本があったら、こっちでも量産できるから欲しいと言ったが……なんか違くない?
「俺は手作りビールじゃなくて、専門的なビールが飲みたいんだが?」
「あのね。専門的なお酒の作り方なんか、一般的に売ってるわけないでしょ」
……まぁ確かにそうかも。
「それに規模が違うだけで、作り方は殆ど変わらないよ。ここから試行錯誤しながら作っていかないとね」
う~ん。
ナビ子の言ってることは正しいとは思うけど、気の長い話だな。
やっぱりしばらくはお土産に頼る必要がありそうだ。
「果実酒とかカクテルはレシピ代わりにもなるから、合成でも作れるようになるよ」
ふむ。それはありがたいな。
「ボディソープとかシャンプーはどうなんだ? 日本の商品の紹介本を持ってきても仕方ないんじゃないのか?」
厳選とか最強とか言われても……ねぇ。
「こういう本には商品に入っている成分とかもしっかり書いてあるんだよ。だからレシピ代わりにもなるし、作るとしても役に立つと思うよ」
あ~そういう使い方をするのか。
ってことは、美肌の成分図鑑ってのもコスメ関係ってことなのかな。
「美容や美肌系はアザレア達へのお土産か?」
ナビ子がアザレア達にもお土産があるって言ってた。
まぁ2人には必要ないかと思うが。
でも、やり方は売り物になりそうだ。
「ううん。だって彼女たちは日本語が読めないから、違うよ。本は全部シュートへのお土産」
そういやそうだった。
って、じゃあこの本の翻訳は全部俺がするのか。
確かに翻訳すると言った覚えはあるが……かなり厳しくない?
あっそうだ! サナの文字の練習にでもさせようかな。
でも……イラストどうしよう。
「最後のペットの飼い方って……」
コイツ、カードモンスターをペット扱いにしているのか?
というか、カードに戻すだけだから、別に必要ないと思うけど。
「ほら、今回の旅でモンスターがいっぱい増えたじゃない。だから、お世話の参考にならないかな~って。ほら、ここを触っちゃ駄目とか、ここは気持ち良い場所とかあるじゃない」
あ~触り方とかか。
確かに今回仲間になったモンスターにはモフモフなモンスターとかもいるから、触れ合いたいもんな。
うん。そう考えると、必要な本かもしれない。
……まぁ動物とモンスターじゃ全然違うかもしれないが。
「んで、アザレア達へのお土産って?」
「ふふ~ん。知りたい?」
なんか随分ともったいぶる。
そんなに自信があるのだろうか?
「じゃじゃーん。2人へのお土産は……これだよ!!」
****
「これが……お土産?」
「ナビ子さん。これは乗り物でしょうか?」
翌日。
朝食を終えた後に、庭でナビ子がお土産のお披露目をする。
貰った2人は興味深そうに。
お土産を貰えなかったガロンは若干不服そうだったが、それでも目の前の物に興味津々のようだ。
「シュート君。これってただの自転車ですよね?」
そしてこれがなにか知っているサナが答える。
サナの言う通り、ナビ子のお土産は自転車だった。
まぁ自転車といっても、2人のは後輪が2つの大人用三輪車なのだが。
まぁ自転車に乗ったことがないから、いきなり二輪はハードルが高いと思ったんだろう。
だから、俺用にって準備されたものは二輪車だった。
「こっちでは馬車や人力車、リアカーはあっても、自転車はないんだ」
俺は小声でサナに答える。
以前、俺はナビ子に自動車がほしいと言った時はガチギレされたけど、人力の自転車はアリだったようだ。
「ほら、毎日歩いて出勤って大変じゃん。だから少しでも楽できるようにって思ってね」
ナビ子なりの気遣いだったようだが……誰も乗っていない自転車に乗るのは目立って仕方ないと思うけど。
2人もどうしていいのか分からず戸惑う。
「あの、シュートさんとサナさんはこの乗り物をご存知なのですか?」
アザレアがこっちに振ってきた。
さっきのサナの言葉も聞こえていただろうし、正直に答える。
「まぁ一応」
「私もよく通勤や通学でお世話になってましたから……」
あっこら、今のサナの見た目で通勤は違和感あるだろ。
こういう失言が、この世界に慣れてないってよく分かる。
ただ、2人はそれに対して特に何も思わなかったようだ。
「じゃあサナ。ちょっと乗ってみせてよ」
「ええ。別にいいですけど……シュート君の自転車の方でいいですか?」
まぁ三輪車よりは二輪車のほうがいいよな。
俺はサナに自転車を貸すと、サナはスッと乗って庭を一周する。
その様子を見ていたアザレアとアズリアは素直に驚く。
「すごい……」
「歩くよりもずっと速く移動できるのですね」
「どうだ? ざっと歩きの3倍程度のスピードが出る。馬車や人力車と違って小回りも効くし、慣れるとすごく便利な乗り物だと思う」
「ええ。確かに便利そうですが……」
「ガロンさん! これ、量産できそうですか?」
まだ戸惑いのアザレアと、商売人の顔になったアズリア。
ガロンは三輪車を触りながら構造を確認する。
「ふむ。足を回して車輪が動くと。原理としては簡単じゃから作れんことはないが……この車輪、これは何でできておるんじゃ?」
そっか、馬車の車輪は木材や石材、鉄が利用されていて、ゴムタイヤはない。
う~ん。簡単に教えて良いものなのか。
「では、ファーレン商会で色々と試してみましょう。ガロンさんも出席していただけますか?」
「うむ。儂も興味あるからの」
俺が悩んでいると、聞き出せないと思ったのか、アズリアはガロンを連れてさっさと出勤する。
……三輪車は使わずに。
「ではわたくしも……ナビ子さん。ありがとうございます」
そう言ってアザレアも出勤する。
もちろん三輪車は使わない。
「ぶー。なんで2人とも使わないのさ」
ナビ子はむくれるが……いや、流石に難易度が高すぎるだろ。
「いや、いきなり実践は怖いだろ。休みの時にでも練習して、少しずつ乗っていくつもりだろ」
……まぁそれでも出勤で使うかは知らないけどな。
ファーレン商会が量産体制に入って、ありふれたら……使うかもしれないな。




