第213話 ナビ子の報告
無事にサナがアザレアとアズリアに引き取られていった。
「ふぅ。ようやく落ち着いたな」
ナビ子と2人になって、ようやく一息つく。
本当に今日は朝からドタバタだった。
「色々あったもんねぇ」
ナビ子がしみじみと言う。
……その原因を作った張本人が何を言ってるんだ。
「ナビ子があんな奴ら連れてくるから」
「だってさ~。やっぱり頼まれたらさ、見捨てられないじゃない」
まぁそうだけどさ。
「それより、天運って本当に運がよくなるだけなのか?」
俺の知っているプレーヤーのスキルはカード化に改造。
それに、偵察機が持っていた、プレーヤーのスキル候補だった観察眼、鑑識眼、解析眼の3眼。
どれもチートと呼ぶにふさわしいスキルだ。
なのに、運がいいだけの天運がそこに並ぶか?
「当然、運がいいだけのはずないじゃん」
やっぱり。
「でもね。シュートにも以前言ったように、スキルの効果は自力で覚えていかなくちゃ駄目だから、教えられないんだよ」
あ~そういうことか。
俺も毎回レベルが上ってから教わってたもんな。
「本人に教えなきゃいいんだろ。俺には教えてくれるよな?」
「え~でも……」
ナビ子が渋る。
やっぱり口止めされているんだろうな。
「ナビ子は運営の規則に逆らえるようになるんだろ? こういった簡単なことから練習するべきじゃない?」
「あっそうだね」
……チョロいな。
というか、そんなんで運営の規則を破ることができるのか?
だとしたら、単純に気の持ちようなんじゃね?
「えっとね。天運のスキルはね。運がいいだけじゃなく、所持スキルレベルが上がりやすくなるの。分かりやすくいうと、スキルの取得経験値アップだね」
あ~なるほど。
ってことは、俺が色々とスキルを覚えさせれば、マスターするのも早いと。
「それからね。レベルが上がると天運ルーレットや天運サイコロ、天運チャレンジとやれることが増えていくの」
……ギャンブルかな?
「それはどんな効果なんだ?」
「それは……やっぱゴメン。これ以上は言えないや」
「えええっ!? 何でだよ!」
めちゃくちゃ気になるじゃないか。
「なんか……頭の中で言っちゃ駄目だって言われている気がしてね。嫌なの」
……それが禁則を破る信号かもしれない。
ラビットAの契約魔法みたいな感じだろうな。
「じゃあ、とりあえず今はいいや」
非常に気になるけど、無理をしてナビ子が壊れても困る。
「ごめんね」
「いいって。じゃあサナとルースのことは置いといて、今回の報告を聞かせてくれよ」
サナのことよりこっちの方が本命だ。
サテラや運営の対応のこと。
日本でのことが聞きたくてたまらなかった。
「う~んとね。どこから説明したもんか」
多分、語ることがたくさんあるんだろう。
「とりあえず、この間のことについて運営から注意はなかったのか?」
「うん。お咎めはなし。悪いのはサテラ側で、シュートは何も悪くないって」
そうなんだ。
それは良かったけど……なんだか腑に落ちない。
「それじゃあサテラが黙ってないんじゃないのか?」
両方悪くないならともかく、一方的にサテラが悪いとなったら文句が出そうだ。
「それがね……サテラ、戻ってこなかったの」
ナビ子が言いにくそうに言う。
「戻ってこなかったって……日本に? そんなことできるのか?」
だったらナビ子も帰らなくても……いや、お土産は欲しいから帰ってもらいたいんだけど。
でも、1ヶ月って正直短すぎるんだよなぁ。
「ううん。普通はそんなことできないよ! 一旦ナビゲーター機能をオンにしたら、旅のしおりの中にいても、強制送還されるんだから」
電子妖精の役割は、プレーヤーのサポート及び運営への報告。
プレーヤーがナビゲーター機能をオンにしなかったら、その役割が果たせないからいつまでも旅のしおりに入っていることになるが、一度オンにすると自由に旅のしおりから出入りできるようになる。
ナビ子も俺が寝ている間によく出入りしているみたいだ。
そして、運営への報告は最優先。
そのため、旅のしおりに籠っていたとしても、強制送還されるらしい。
もちろん、どうしても手が離せない場合があるだろうから、その際は運営へ報告すれば帰還を遅らせることができる。
例えば前回の時に、ナビ子が魔水晶を取りに行った時だ。
あんな状態で日本に帰られたら非常に困る。
その場合は、全体会議ではなく、個人報告になるらしい。
「今回、サテラは運営に連絡もしないし、強制送還も無効化されたんだって」
強制送還を無効化って……運営に逆らえるってレベルじゃなくて、明らかに運営よりも強い力を持っているってことじゃないか?
「それで運営はどうするつもりだ?」
「んっとね。ほら、サテラって改造されちゃったじゃない。だから、もしかしたら不具合で帰れなかったり、連絡がつかないだけの可能性があるから、少し様子を見るんだって」
俺がサテラに会った時、彼女はルールを破ることに関して気にした様子はなかった。
ただあの時はご主人であるプレーヤーに話していないから、退いただけ。
だから、帰れないじゃなくて帰らないだと思う。
「そして……次も連絡がつかないまま不参加なら、処分されることになりそう」
処分……か。
俺たちにはこの世界で自由に生活しろと言っているが、やっぱり運営の意向に背くと簡単に処分とか言うんだな。
「でも処分ってできるのか? サテラは強制送還できないんなら、もう完全に運営の支配から逃れてるんじゃないのか?」
それとも運営がこっちの世界にやってきて直接処分するのか?
……それができたら俺はここに居ないよなぁ。
「うん。だからね……多分アタイ達がやることになると思う」
「はぁっ!? ……それって俺たちにサテラと改造プレーヤーを殺せって言ってるのか?」
処分ってことはそういうことだよな。
俺はモンスターは殺しても、まだ人は殺したことはない。
ただ一応何があるか分からない世界だし、殺すかもしれないと覚悟は決めていた。
だけど……これは何か違うと思う。
「ナビ子はそれでいいと思うのか?」
「いいわけないよ! だって……この間は敵対しちゃったけど、同じ電子妖精の仲間だったんだもん。殺し合いとかしたくないよ」
ナビ子が悲痛な叫びを上げる。
「じゃあなんで……やっぱり運営には逆らえなかったのか?」
「ううん。そうじゃないの。これはアタイが志願したことなの」
「どういうことだ?」
話が矛盾してるぞ。
「だって……アタイ達がやらなかったら、他の人がサテラを殺しちゃうもん」
「人にやられるのが嫌だから自分がやると?」
「そうじゃなくって!! 殺すんじゃなくて、説得するの。サテラが悪いことしていたらお仕置きして、ちゃんと改心させるの。そして、運営にもサテラを処分させないの!」
「……それはかなり難しいことだと思うぞ」
「難しくてもやるもん。アタイはもう流されないって、ちゃんと自分で考えて行動するって決めたんだ」
……ナビ子らしいな。
でも、ナビ子が選んだ道は茨の道だと思う。
「分かった。その時がきたら俺も協力するよ」
だから俺はナビ子と一緒にその道を歩こうと決めた。




