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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第5章 天運の少女
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第209話 少女と対話

『じゃあ早速だけど、サナにやってもらいたいことがあるんだ!』


 この世界に残ることを選んだ彼女はサナと言うらしい。

 俺と同じように、ゲーム名だろうが。


 というか、この電子妖精は彼女に何をさせる気なんだ?


 俺の時は……カード化のスキルの説明を受けて、実践したよな。

 でもサナはまだ何の説明も受けてない。

 それに初心者だし……何だろう?


『え~と、私は何をすればいいのかな?』


 サナは不安そうに尋ねる。

 そりゃあ、いきなりやってもらいたいことがあると言われたらねぇ。


『あのねっ! ボクに名前を付けて欲しいんだ!』


 ……期待して損した。


『名前……貴方の名前を私が決めるの?』


『そうだよ! ボク達電子妖精の名前を付けることがプレーヤーの初仕事なんだよ!』


 ……初耳だな。


「ふふん。アタイやサテラが戻ったときに名前を自慢しまくったかんね。こっちに来たら名前がもらえると、みんな楽しみにしてんのさ」


 要するにコイツが元凶……いや、俺が元凶なのか。


『でも名前なんて急に言われても……』


 まぁ戸惑うよな。

 でも電子妖精の期待に満ちた目を見て、真剣に考え始める。

 どうやら真面目な子のようだ。


『え~っと、ルース。ルース君ってどうかな?』


『ルース!? 分かったよ。ボクは今からルースだね!』


 わーいと喜ぶ電子妖精――ルース。

 思った以上に真面目な名前だ。

 というか、サテラもそうだけど……あれっ!?

 もしかして、ナビ子って安易すぎないか?

 ヤバい。これって俺のセンスが疑われるやつじゃね?


「なぁナビ子。お前って自分の名前ってどう思う?」


「もちろんサイコーだよ! だってシュートが考えてくれたんだもん」


 ……なんか心苦しい。


「でもさ。もっとかわいい名前が良かったとか、そういうのはない?」


「えっ? 全然ないけど?」


 全く考えたこともないという感じのナビ子。

 ……まぁ本人がいいんならいいけどね。


 モニターの方はルースがこの世界について説明を始めていた。


『――じゃあ私にもスキルがあるの?』


『そうさ! サナのスキルはね。言語翻訳と天運だよ!』


 ……天運。


「なぁナビ子。天運ってどんなスキルなんだ?」


 抽選で選ばれたんだし、運って言うくらいだから、幸運の上位互換って感じなイメージだけど……今までから考えても、それだけじゃないよな。


「ちゃんとルースが説明するから黙って聞いてるの!」


 ナビ子に窘められたので、大人しく説明を待つことにする。


『天運のスキルは運が良くなるスキルなのさ!』


 ……えっ!? それだけ?


『あの~ルース君。この世界って、モンスターとかいるんだよね?』


『うん、いるよ』


『私、運動とか苦手なんだけど、この世界で生きていくのに、運が良くなるだけで、どうにかなるのかな~?』


『うん。どうにもならないね!』


 ……おいおい。


『えええ~!? じゃあ私はどうすればいいの?』


『大丈夫だよ。他の人は一人ぼっちでスタートするんだけど、サナは運がいいからね。なんと助っ人がいるんだ』


『助っ人?』


『うん。サナと同じプレーヤーで、もう何ヶ月も前からこの世界で暮らしているんだ。彼にこの世界で養ってもらおうよ』


『なぁんだ。じゃあ安心だね』


 サナはホッと安堵する。

 ……それって俺のことだよな。


「ナビ子。アイツら追い出してもいいか?」


「駄目だよ! せめて彼女だけでも生きていけられるようにするまではね」


 ……どんな罰ゲームだよ。

 もしかして、これが前回運営のルールに逆らった罰なのか?


 まぁ嘆いても仕方がない。

 一旦彼女に会ってちゃんと話をすることにした。



 ****


「え、え~と。初めまして。鳴海紗奈(なるみさな)っていいます」


 サナがやや緊張しながら挨拶をする。

 鳴海紗奈……本名とゲーム名が同じなんだ。


「初めまして。俺の名前は石動拓真。ただ、こっちの世界ではシュートって名乗ってるから、シュートって呼んでくれ」


 本名を名乗るなんて久しぶりすぎて、自分でもちょっと新鮮な気持ちになる。


「アンタのことはサナって呼んでもいいか?」


 これで呼び捨てにすんじゃねーよとか言われたらどうしよう。


「分かりました。私は……じゃあ、シュート君って呼びますね」


 ……くん。


「駄目ですか?」


「いや、駄目じゃないけど……くん付けなんて久しぶりすぎて、ちょっと驚いただけだ」


 まさかアラサーにもなって今更くん付けされるとは……って今は16才だから仕方ないか。


「でも~シュートくんって私よりも年下ですよね?」


「……それは今の年齢か? それとも元の年齢か?」


 グローリークエストのキャラマイクは性別や種族は変えれても、年齢は一律共通だったはずだ。

 だから、今の年齢は同い年。

 元の年齢は……さすがに年上じゃないだろう。


「あっそうでした。どう見ても高校生くらいにしか見えませんでしたから……今の見た目と本当の年齢は違うんでしたね」


「一応、俺の元の年齢は20後半だったんだけど……」


 女性に年齢を聞くのはNGだよな。


「あっ、じゃあシュートさんって呼んだ方がいいですよね」


 どうやら予想通り年下だったようだ。


「いや、別に今は同い年だし、元の年齢は気にしなくていいよ。サナが呼びやすいように呼んでくれ」


 考えてみたら皆さん付けしてるけど、そもそも俺みたい見た目にさん付けがおかしいんだもんな。


「分かりました、ではシュート君で」


 お互い自己紹介も済んだので本題に入る。


「どうやら俺はサナのサポートをするようになったみたいなんだけど……」


「は、はい。よろしくお願いします」


「ただ、俺にも自分の生活もあるし、いつまでも面倒はみれない。だからサナがこの世界に慣れるまで……とりあえず1ヶ月だけ面倒を見るってことでどうだ?」


「……それって、1ヶ月でこの世界で1人で生活できるようになれということでしょうか?」


「1ヶ月あれば十分だろ」


「私……運しか取り柄がないみたいなんですけど、大丈夫でしょうか?」


「うん、生きていくだけなら、ぜんぜん大丈夫だと思うよ」


 別にモンスターと戦えってわけじゃない。

 この街で普通に生活する分には、運がいいだけでも十分に生活できるはずだ。


「分かりました。それでいいので、1ヶ月の間、よろしくお願いします」


 これでサナとの契約は成立した。

 あとはアザレア達の説得だな。

 言い訳……どうしよう?

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