第202話 帰還と報告
「……名残惜しいが仕方あるまい。我は帰るとする」
何が名残惜しいだ。
散々暴れまわってもう十分満足しただろうに。
本来なら一晩で帰る予定のはずだったが、いいではないかの一点張りで、結局4日も滞在した。
しかも、気配でモンスターに逃げられるので、隠匿系のスキルを使え、自分の知らない火属性の魔法を全て教えろとうるさかった。
……まぁ教えたけどね。
お陰で時間が無くなったので、慌ててライラネートまで戻ってきた。
「ガロンはライラネートに来たことはあるのか?」
「儂も若い頃は国中を冒険しておったからの。何度か来たことはある。ただ、その時は東エリアじゃったがな」
道中でガロンの若い頃についても話を聞いたのだが、ガロンは元冒険者だったらしい。
職業ケミストで中堅冒険者。
冒険者の職業に鍛冶師の職業はなかったので、一番近いケミストにしたそうだ。
まぁあそこのダンジョンで10年間生き続けていたんだがら、中堅冒険者と言われても驚きはしない。
当時はパーティーを組んで帝国内を冒険し回っていたとのこと。
帝都にも行ったし、魔導列車にも乗ったことがあるらしい。
パーティーを解散した後、ブルーム山に籠もって鍛冶師を続けていたと。
解散理由は濁していたので、詳しい話は聞かなかった。
中堅冒険者は3年に1回、冒険者支援ギルドで更新しないといけないが、10年山に籠もっていたガロンがそんなことをしているはずもなく、既に冒険者資格は剥奪済み。
山で倒したモンスターの素材を売れば、更新なんて簡単にクリアできてたんだろうけどね。
たまに山を降りても、作った武器を売って、素材と酒を買うだけ。
だけど、鍛冶ギルドに登録もせず、冒険者との個人契約などもない。
更に何処に住んでいるかも不明だったため、名匠として名前だけが売れていたらしい。
俺達が最初にガロンの小屋に侵入した時に、ガロンは強盗だと思っていたが、ついに居場所がバレたのかと思っていたようだ。
ガロンはもう冒険者に執着してないから必要ないだろうけど、アザレアに言ったら冒険者に復帰できそうだよな。
「――西エリアは初めて来るんじゃが、随分と街並みは変わったのう」
街に入るとガロンが物珍しげにあたりを見回す。
俺は10年前のライラネートを知らないけど、大きく変わったことは間違いないだろう。
何故なら数年前にファーレン商会ができたから。
ファーレン商会は間違いなくこの街の発展に大きく貢献している。
「うう……やっぱりブルームよりも人が多くてちょっと酔いそう」
ナビ子の方はいつもの人が多くて情報過多で処理落ちになるってやつだろう。
不審人物や怪しいものを見逃さないように、気配察知をフル稼働させる必要があるからな。
慣れるまで少し時間がかかるだろう。
「う~ん。先に家に帰るか、ギルドに行くか……ファーレン商会に行くのもいいかも」
家に帰っても、アザレアもアズリアも仕事中でいないだろう。
戻ってきたことをギルドに報告に行く必要はあるが……ガロンにファーレン商会を案内するのも面白そうだ。
「先にファーレン商会でアズリアに会っちゃうと、絶対にアザレアが拗ねるよ」
……その光景がハッキリと目に浮かぶ。
冒険者はその街に入ったら真っ先にギルドに寄って、滞在の旨を伝える義務があるとかなんとか言いそうだ。
「うん。とりあえずギルドに行こうか」
後で色々言われるよりは絶対にいい。
ガロンには商店街でブラブラしてもらうことにして、俺は冒険者ギルドへ向かった。
そして、ギルドに入ると……
「シュート様。おかえりなさいませ」
受付嬢の真似事をしているアザレアが満面の笑みで待っていた。
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「よう。愛されてるじゃねーか」
俺の顔を見てギルマスがニヤリと笑う。
「……なんのことだ?」
「いやな。門から貴様が帰ってきたと報告があってな。それを聞いたコイツは、俺との打ち合わせ中だと言うのに飛び出していきやがった」
「ちょっと!! わざわざ言わないでください!!」
ギルマスの言葉にアザレアが真っ赤になる。
どうやら相変わらずポーカーフェイスのデメリットは発動しまくりのようだ。
でも……そっか。
また門番から俺が帰ってきたことを聞いていたのか。
だから俺が入ってきたのにアザレアは驚かなかったのか。
って、じゃあ俺が真っ直ぐギルドへ行かなかったら……本当に最初にギルドへ寄って良かった。
「そんなに待ち遠しかったんだ」
俺は茶化しながら言う。
「んなっ!? わたくしはただシュート様が冒険者の義務を守るか確認するためにですね!?」
嘘だとハッキリと看破スキルが発動している。
アザレア……ちょっと見ない間に誤魔化し方まで下手になったな。
「というか、何で俺が街に入るとギルドに報告があるんだよ」
前回はゴブリンキングの件で容疑がかかっていたから仕方がないけど、今回は違う。
「貴様は特別待遇だからな。嬉しかろう」
全然嬉しくねーよ。
「そういえば、街には2人で入ったと聞いたが……女か?」
「本当ですか!?」
ギルマスの言葉にアザレアが敏感に反応する。
どうやらアザレアが飛び出した後に、ギルマスだけガロンの話を聞いたらしい。
「向こうで知り合ったドワーフの男で、俺と専属契約を結んでくれた鍛冶師だよ。……どうせケフィアさんから聞いて知ってたでしょ?」
先に報告しておくって言ってたからな。
ガロンのことも聞いていたはず。
というか、ギルマスは門番から男だって聞いてるだろうに。
アザレアをからかいたかっただけだな。
アザレアは安心したようにホッと胸をなでおろす。
「随分と大活躍だったそうじゃないか。まさか調査だけでなく、異変そのものを解決してくるとはな。まさか本当にドラゴンに会ってくるととは思わなかったぞ」
「まぁ色々と偶然が重なったってのもあるんだけど。ドラゴンに会えたのも、モンスターに襲われていたコボルトを助けただけだし」
「その話も聞いているが、俺はそれを聞いて頭が痛くなったぞ。何故テイマーでもないのにモンスターを助けるのかと。しかも、貴様はモンスターを殺して召喚するサマナーなんだぞ」
ギルマスが心底呆れたって顔をする。
「まぁ現場で色々あったんだよ」
まぁ俺だってティータが止めなかったら間違いなく殺していただろう。
「魔族が絡んでいるってのは本当か?」
ギルマスの表情が呆れたから真剣なものになる。
やはり魔族ってのが大事なんだろう。
「ドラゴンから聞いた話なんですけどね。俺が行った時点ではその魔族はいなかったので、真偽の程はなんとも」
いつものように、嘘じゃないギリギリ範囲で答える。
俺も誤魔化しが上手くなったもんだ。
「その魔族は死んでないんだろ? また現れる可能性は?」
「ドラゴンと散々やりあって逃げたって話なので、ドラゴンが生きているうちは、あそこにはもう現れないかと」
「数千年生きたドラゴンと会話か……非常に羨ましい話だ」
やっぱりギルマスも元冒険者。ドラゴンにロマンを感じるらしい。
「さて、では貴様への報酬だが……金と現物支給、どちらがいい?」
まさかの選択式!?
「……現物支給で」
正直金は問題ないからレアなアイテムが貰えるならそっちの方がいい。
「しかし現物支給となると、タダとはいかんぞ」
「それっておかしくない!?」
報酬だよね?
「まぁ聞け。金だと金貨10枚だが、現物支給だとそれ以上の価値がある。それを特別に格安で売ってやる権利をやろう」
なるほど。それなら……
「金額は炎竜石2個と魔水晶2個な」
「金じゃねーし!!」
売るんなら現金だろうが。
そもそも俺は魔水晶のことは説明したけど、炎竜石のことは一言も話していない。
「ドラゴンの棲むダンジョンにはそのドラゴンの属性の石が採れるという。どうせ貴様のことだ。たっぷり持ち帰ってきているんだろ。それに魔水晶もまだ持っているはずだ」
くそっ。全てお見通しか。
「それでも炎竜石2個と魔水晶2個は高くない? そんなに良い代物なのか?」
金貨10枚どころか白金貨が必要になるぞ。
俺がそう言うと、ギルマスは青く輝く鉱石を持ってきた。
「水中にあるダンジョンで見つかった水竜石だ。これひとつで白金貨2枚はする」
「よし、炎竜石と魔水晶が2個ずつだな」
俺は即決する。
水竜石1個が炎竜石2個と魔水晶2個ではこっちが損をするような気がするが、未所持の鉱石なら図鑑も埋まるし決して損ではない。
「でも本当にいいのか?」
「炎竜石も魔水晶も、水竜石と同じくらい貴重だ。なら、数が多い方がこちらとしてもいい」
どの石も採掘できるダンジョンの場所は判明している。
だけど、それを持ち帰ることができるのは、上級冒険者くらい。
同じくらい市場には出回らないから、それなら4個の方がギルドにとってはお得ってことだ。
金額だけなら俺の方が損だけど……それでも俺としては大満足だった。




