第199話 新たな協力者
快気祝いという名のただの宴会が始まった。
いつもはグリムの世話をしているコボルト達も、今回だけは無礼講。
俺の召喚モンスター達と楽しくやっているみたいだ。
ちなみにカーバンクルとティータ、それからラビットAとドラゴニュート、ケリュネイアは今回の作戦に大いに貢献したということで、グリムから礼として宝物庫から好きなものを持ち出していいと言われていた。
まぁカードモンスターが気に入るものがあるか不明だが……一応、武器とか宝石もあるようで、嬉しそうに宝物庫へ向かっていった。
ちなみに俺も好きなのを持っていっていいと言われていたのだが……後回しにした。
代わりにナビ子に頼んで、宝物庫にあるものを全部カードにしてもらう。
もちろん別に全部貰うわけではない。
ガロンの小屋でやったように、登録して解除するだけだ。
これをしていれば、説明文も全て図鑑に登録されるから、とりあえず図鑑埋めするにはちょうどよかった。
そして俺はガロンとグリムと3人だけでゆっくりと飲んでいた。
「前回はシュートの酒を飲ませてもらったからな。今回は我の酒を飲んでもらおう」
グリンも酒好きなのは知っていたが、酒を持っているのは驚きだった。
……人間に飲めるのだろうか?
ちょっとカードにしてみようか。
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火竜酒【飲料】レア度:☆☆☆☆
火竜の魔力で熟成された高級酒。
飲めば一時的に火属性の恩恵を受ける。
別途、火竜酒という銘柄の偽物に注意。
――――
まさかの星4。
まぁ火竜の魔力で熟成となれば、レア度が高くても不思議ではない。
まったく同じ名前の酒もあるようだが、そっちは普通の酒のようだな。
……このダンジョンで熟成させていたら、このお酒になるのかな?
とりあえず、俺は一口飲んっ!?
「がはっ!? ……何だこれ。めちゃくちゃ度数高くないか?」
ほんのちょっとしか飲んでないのに、喉が焼けるように痛い。
これ、多分普通に火がつくぞ。
「ふむ。人間には少し強かったか」
少しどころじゃない気がするが……。
グリムは火竜酒を一気に飲む。
すげぇ……絶対に無理だ。
「儂はこれくらい強くても、なんの問題もないぞ」
ガロンも普通に飲んでいる。
流石ドワーフ。
生粋の酒飲みだな。
流石に俺はこのままじゃ無理なので……果物のカードを取り出して合成。
――――
ドラゴン・ベリー【飲料】レア度:☆☆
火竜酒とベリー系の果物を使用したカクテル。
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……うん。
これなら飲める。
ただ、レア度が下がって普通のお酒になっちゃったなぁ。
少しもったいなかったかも。
「ふむ。それも美味そうであるな」
気づくと2人が俺の酒を覗き込んでいる。
仕方がないから、2人の分も用意する。
「ほう。これも中々イケるではないか」
「確かに美味いのう」
もうこの2人は酒なんでもいい気がする。
「さてシュートよ。酒の肴として、お主の話を聞きたいところじゃが……教えてくれるんじゃろ?」
「いや、確かに教えるつもりだけど、酒の席で話す内容じゃないぞ」
こんな話をしたら酒がまずくなる。
「シュート、我もガロンも細かいことを気にする性分ではない。気にせずに話すが良い」
いや、2人が気にしなくても俺が気にするんだが……が、もうすでに結構飲んでいる2人には何を言っても無駄のようだ。
あまり酒の力で誤魔化したくなかったんだけど、仕方がない。
俺はガロンとグリムに全てを打ち明けた。
****
「――とまぁ、俺の同郷がグリムを傷つけたんだ。すまん」
日本という別世界からやって来たことや、俺以外にもいること。
そして、今回グリムを傷つけたのはその中の一人だってこと。
流石にゲームに関しては意味が分からないだろうから、運営という組織に送り込まれたとだけ説明したけど、それ以外はかなり正確に説明した。
「なぜシュートが謝る? 同郷とはいえ、顔も知らぬ者なのであろう?」
「確かに会ったことはないけど……」
「ではシュートが謝る必要はない。我も会ったこともないドラゴン種のしでかしたことを謝ることはせぬ」
「うむ。儂も全く知らぬドワーフの責任をとれと言われてもまっぴらごめんじゃ」
異世界からの侵略とか思われて、責められることも覚悟していたから、2人の言葉が素直に嬉しい。
それに、こんな荒唐無稽な話をスキルも使用せずに信じてくれる。
それが、俺を信頼してくれていると感じ、嬉しく思う。
「しかしその運営であったか。わざわざ別世界に人間を送り込んで、何を考えておる?」
「一応この世界の調査だとは言っているようだけど」
「それが分からぬ、何故、別世界のことを調査する必要がある?」
う~ん。何故って言われてもなぁ。
「儂は分かるぞ。知的欲求は人類の発展に必要不可欠じゃからの。異世界人も似たようなものじゃろう」
「ふむ。知的欲求か。我のようなドラゴンにはない感情だ」
「ほぅ。ドラゴンは長生きじゃから、知識欲は高いと思うておったが違うのか?」
「確かに知識を欲するドラゴンもおるが、長生きのドラゴンほど、知識欲よりも、安寧に過ごすことを求む」
「ほう。安寧を望むか。それは意外じゃった。知識もそうじゃが、儂はもっとドラゴンは血気盛んで争いを求むと思うておった」
「考えても見ろ。血気盛んで争いを好むのなら、こんなダンジョンの奥底におらぬと思わぬか?」
……確かに。
争いを好むのなら、外で暴れまくって、この世界が崩壊していてもおかしくない。
「だが、若いドラゴンやワイバーンのような賢くないドラゴンは血気盛んなものが多い。その一部のせいでドラゴン全体がそう思われておるのも分かっておる」
……ワイバーンって馬鹿なのか。
「ふむ。一部のもののせいで、偏見を受ける。そういう意味では、ドラゴンも異世界も同じじゃな」
「まったくだ」
がははと2人して笑う。
なんかちょっと取り残された気分。
というか、めっちゃ意気投合してるじゃないか。
やっぱり酒の力ってスゲーな。
「しかし儂らはとんでもない秘密を知ってしまったのう。お主が契約魔法を使ってでも秘密にしようとするわけじゃ」
「……もう契約魔法は使わないから、この秘密は自己判断で頼む」
ラビットAのトラウマになってしまったもんな。
「安心せい。我はこの秘密を外部に漏らさぬ」
いや、引きこもりのグリムが漏らす心配はしてないけど。
「儂もどんなことがあっても漏らさんぞ。第一、異世界のことを聞かれてしまっては、それを狙うものから消されかねん」
もし異世界のことが公になれば、運営がこの世界を調べようとすることと同じように、この世界の人間が日本のことを知ろうとするだろう。
そして、異世界の知識を持つガロンは捕まって……俺も気をつけよう。
「そこでじゃ。儂はお主に付いていこうと思うておるんじゃが……どうじゃろう?」
「はあっ!?」
突然何を言い出すんだ?
「儂がここにいたのは炎竜石や炎魔石を手に入れるため。それらも今回でかなり手に入れたしの。ここに住む理由も無くなった」
だからって別に付いてこなくても……。
「それに、お主の側におれば、秘密だのなんだので気にすることもない。お主だって儂が他所で秘密を話してないか気にするよりは近くにおった方がよいだろう?」
「いや、ガロンは話さないと思っているから別に……」
「時にシュートよ。お主のこの世界の目的はなんじゃ?」
俺の言葉を塞ぐようにガロンが尋ねる。
いきなり話が変わったけど……やっぱり酔ってるんじゃないのか?
「俺の目標はカード図鑑のコンプだけど」
「ちなみに儂が側におれば、儂の鍛えた武器をカードにすることもできるぞ」
ガロンがニヤリと笑う
むむ。それは少し魅力的だな。
俺の合成では一流の鍛冶師が鍛えたレベルの武器は作れない。
俺のことを知っているガロンが鍛冶師として俺と専属契約を結んでくれれば……。
「俺はライラネートを拠点にしているが、それでもいいのか?」
「どこだろうが構わぬ」
「俺は借家……というか、住まわせてもらっている身分だから、住む家とかは自分で探してもらうぞ?」
「金はあるからその辺は心配せんでも良い」
まぁ武器を1本でも売れば、それだけで金には困らないだろうな。
う~ん。正直こっちにデメリットは何もない。
「分かった。詳しい話は後で詰めるとして……うん。これからもよろしく頼むよ」
「うむ。よろしく頼むぞ」
俺とガロンは握手する。
こうして俺はガロンを新たな協力者として迎え入れることにした。




