第198話 グリムの目覚め
ナビ子から話を聞いた後、俺からもナビ子へ状況の説明した。
自分の不在時に勝手に作戦を決めて、しかも全部終わった後だということに不服そうではあったが、今回に関しては自分に非があると思っているため、特に何か言うことはなかった。
そして、サテラという電子魔族のこと。
「あの子、ちょっと前まではアタイと同じくらいの背格好だったの。でもね、前回の報告会の時に、いきなりおっきくなっててさ。『アタシは電子妖精じゃなくて電子魔族になったの。これからはサテラと呼んで』とか言っちゃってさ。一ヶ月見ない間に大きく変わっちゃったんだよねぇ」
夏休み明けのクラスメートかな?
……さしずめ異世界デビューってとこだろう。
とまぁ冗談はさておいて。
「間違いなく改造スキルのせいなんだろうが……サテラの強さは半端じゃなかったぞ。ティータとケリュネイア以外が全滅だ。俺もティータが守ってくれなかったら、どうなってたことか」
「えっ!? シュートも攻撃を受けたの?」
「多分そうだと思うけど……」
そんなに食いつくとこかな?
「ええ。あのままでしたら、確実にマスターは死んでおりました」
あっ、死んでたんだ。
実際に怪我している訳じゃないから、実感はないけど、そう言われると怖いよな。
「信じられない……」
「んっ? どうしたんだ?」
別に敵だから、攻撃されても仕方ないように思うけど。
「あのね。ルールもそうだけど、運営の代わりにこの世界の調査をしてもらっているプレーヤーには生きていてもらわないと困るの。だからアタイ達ナビゲーターは、プレーヤーの邪魔はできても、プレーヤー本人に対しては、絶対に危害を加えることはできないんだよ。それがどれだけ敵対しててもね」
「じゃあ、俺じゃなくて側にいたティータを狙ったんじゃね?」
「……それだと、わたくしのせいでマスターに危険が及んだことになるので、あまり気分がよろしくないのですが」
「……ティータの気分はこの際どうでもいいとして、可能性はあると思うけど」
ティータが不本意そうにむくれるが、助けてくれたことは事実だし、実際どうでもいい。
「ううん。少しでも危害を可能性がある時点で絶対に無理なの。嘘と一緒だよ。絶対に破れないものなの」
「……やっぱり改造かな?」
妖精を魔族に改造できるんだから、ルールを破る改造もできるのかもしれない。
「おそらくね。もしかしたら、サテラの存在は、アタイが目指しているところなのかもしれない」
「おいおい、だからって改造は止めてくれよ」
ナビ子が魔族に……うん、間違いなく似合わない。
「当たり前だよ! アタイはアタイのまま打ち破るんだから」
ならいいけど。
「とりあえず次に日本に帰ったときに、文句を言いがてら聞いてみたらどうだ? あと、あまりこの世界に迷惑をかけるなともな」
正直、今回は敵対したけど、今回のような真似をしないのなら、敵対する理由はない。
……あまり期待できないけどね。
「そうだね。そうしてみるよ」
まだ次の帰還まで半月位あるから、忘れないといいけど。
「それでシュートはこれからどうするの?」
「とりあえずグリムが起きるのを待ちたいけど……」
いつ起きるか分からないもんなぁ。
ひとまず魔水晶で噴火エネルギーを抑える実験もしたいし、数日は滞在するとして、それまでに起きなかったら……その時に考えよう。
****
それから数日後。
俺達は魔水晶を設置し、今はダンジョンの外、ガロンの小屋まで戻ってきていた。
ここで、のんびりと山のモンスターやダンジョンのモンスターを狩ってグリムが目覚めるのを待っていた。
ここ数日、地揺れは起きていない。
どうやら魔水晶の実験も成功したようだ。
――とりあえず一旦山を降りてケフィアに報告しようか?
そんなことを考えていた矢先に、コボルトバトラーから、無事にグリムが目を覚ましたと報告があった。
まったくタイミングがいいのか悪いのか。
ひとまず俺達はグリムの元へ向かう。
「おおっ、シュートではないか。面倒をかけたな」
そこにはすっかり元気になっていたグリムの姿があった。
グリムは死ぬ前のなり損ないの人型や、ドラゴンではなく、完全な人型の姿をしていた。
ただし……翼は片方だけ。片翼のままだった。
「ったく。起きるのが遅いんだよ」
俺は嬉しさを隠すように、軽口を叩く。
「なに。ここのところ、あまり寝れてなかったのでな。熟睡させてもらった」
俺に合わせるように、グリムもおどけたように言う。
「……もう、大丈夫なのか?」
「うむ。今、体を動かしておったところであったが、しっかり魔力も馴染んでおる。死ぬ前よりも健康体なのは間違いない」
グリムは屈伸や腕回しをしながら答える。
どうやら本当に大丈夫そうだ。
「その……翼は?」
確か再生できるようなことを言っていたはずだ。
「ふむ。我も再生を試みたのだが……どうやら再生することはできぬようだ」
「再生できないって……魔力が足らないのか?」
「いや、魔力の問題ではない。もっと別の……我自身に問題があるようだ」
グリム自身に問題が?
「もしかして、復活の際に何か不具合が?」
「我にも原因が分からぬ。再生しようとしても、体が拒否するような感じでの」
俺が思ったのは、復活したことによって、正常な状態が変わったんじゃないかということだ。
カード化する際は、最初にカードにした状態が、登録される。
例えば剣。
最初に剣をカードにすれば、折れても元通りになるけど、折れた剣をカードにすれば、折れた状態が正常になって、元の剣に戻らない。
もちろんカードとは全く違うが、グリムは一旦死んで生き返ったことにより、片翼の状態が正常になったんじゃないか?
だとしたら、申し訳ない気持ちになる。
俺がそれを伝えると、グリムが否定した。
「シュートよ。汝は我が命を救ったのだ。誇りこそすれ、気に病む必要はない」
そう言われてもねぇ。
「そもそも汝の説は違うと思うぞ。原因は分からぬが、もし汝の説が正しいとなると、我はあのなり損ないの姿が本来の姿になるところであった。そうではないか?」
あ~、確かにそうかも。
「だが魔力の戻った我は、もうあの姿にはなれん。ドラゴンの姿が本来の姿である」
「そっか。じゃあ原因を探さないとな」
「なに、別に翼がなくとも問題ない」
「いやいや、翼がないと飛べないだろ」
「確かに飛べぬが……もう何百年もここから動いておらぬからの。不便ではないぞ」
何百年も飛んでないって……偉大なドラゴンかと思ったけど、実は引きこもりかよ。
まぁおかげで噴火もしてこなかったんだろうけどさ。
「しかし、汝を乗せて大空を舞い上がるのは、面白いであろうな」
ドラゴンに乗って空を飛ぶ……ロマンだな。
「なら……そのために早く翼を治さないとな」
「うむ。そういうことであれば、我も努力するとしよう」
……理由がなかったら努力しなかったのかよ。
「ふむ。しかし、それとは別に、汝には我を救ってくれた礼をせねばならんな」
「えっ、いや、別にいいよ」
「そうはいかん。それに元はといえば、我が部下を助けた礼に汝には来てもらったのだ。それが我まで助けてもらうとは……本当に感謝する」
グリムが頭を下げる。
……ここで謙遜したら、かえってグリムの顔に泥を塗ることになる。
「じゃあ、後でカーバンクルやティータにも礼を言ってやってくれ。アイツらが一番頑張ったんだ」
「うむ。当然、あのもの達にも礼をせねばなるまいて」
グリムの快気祝いで後で宴会をするつもりなので、カーバンクル達はそこで呼び出すことにする。
そして、その宴会の後で、グリムとガロンに全てを話そうと思う。




