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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第4章 片翼のドラゴン
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第198話 グリムの目覚め

 ナビ子から話を聞いた後、俺からもナビ子へ状況の説明した。


 自分の不在時に勝手に作戦を決めて、しかも全部終わった後だということに不服そうではあったが、今回に関しては自分に非があると思っているため、特に何か言うことはなかった。


 そして、サテラという電子魔族のこと。


「あの子、ちょっと前まではアタイと同じくらいの背格好だったの。でもね、前回の報告会の時に、いきなりおっきくなっててさ。『アタシは電子妖精じゃなくて電子魔族になったの。これからはサテラと呼んで』とか言っちゃってさ。一ヶ月見ない間に大きく変わっちゃったんだよねぇ」


 夏休み明けのクラスメートかな?

 ……さしずめ異世界デビューってとこだろう。

 とまぁ冗談はさておいて。


「間違いなく改造スキルのせいなんだろうが……サテラの強さは半端じゃなかったぞ。ティータとケリュネイア以外が全滅だ。俺もティータが守ってくれなかったら、どうなってたことか」


「えっ!? シュートも攻撃を受けたの?」


「多分そうだと思うけど……」


 そんなに食いつくとこかな?


「ええ。あのままでしたら、確実にマスターは死んでおりました」


 あっ、死んでたんだ。

 実際に怪我している訳じゃないから、実感はないけど、そう言われると怖いよな。


「信じられない……」


「んっ? どうしたんだ?」


 別に敵だから、攻撃されても仕方ないように思うけど。


「あのね。ルールもそうだけど、運営の代わりにこの世界の調査をしてもらっているプレーヤーには生きていてもらわないと困るの。だからアタイ達ナビゲーターは、プレーヤーの邪魔はできても、プレーヤー本人に対しては、絶対に危害を加えることはできないんだよ。それがどれだけ敵対しててもね」


「じゃあ、俺じゃなくて側にいたティータを狙ったんじゃね?」


「……それだと、わたくしのせいでマスターに危険が及んだことになるので、あまり気分がよろしくないのですが」


「……ティータの気分はこの際どうでもいいとして、可能性はあると思うけど」


 ティータが不本意そうにむくれるが、助けてくれたことは事実だし、実際どうでもいい。


「ううん。少しでも危害を可能性がある時点で絶対に無理なの。嘘と一緒だよ。絶対に破れないものなの」


「……やっぱり改造かな?」


 妖精を魔族に改造できるんだから、ルールを破る改造もできるのかもしれない。


「おそらくね。もしかしたら、サテラの存在は、アタイが目指しているところなのかもしれない」


「おいおい、だからって改造は止めてくれよ」


 ナビ子が魔族に……うん、間違いなく似合わない。


「当たり前だよ! アタイはアタイのまま打ち破るんだから」


 ならいいけど。


「とりあえず次に日本に帰ったときに、文句を言いがてら聞いてみたらどうだ? あと、あまりこの世界に迷惑をかけるなともな」


 正直、今回は敵対したけど、今回のような真似をしないのなら、敵対する理由はない。

 ……あまり期待できないけどね。


「そうだね。そうしてみるよ」


 まだ次の帰還まで半月位あるから、忘れないといいけど。


「それでシュートはこれからどうするの?」


「とりあえずグリムが起きるのを待ちたいけど……」


 いつ起きるか分からないもんなぁ。

 ひとまず魔水晶で噴火エネルギーを抑える実験もしたいし、数日は滞在するとして、それまでに起きなかったら……その時に考えよう。



 ****


 それから数日後。

 俺達は魔水晶を設置し、今はダンジョンの外、ガロンの小屋まで戻ってきていた。

 ここで、のんびりと山のモンスターやダンジョンのモンスターを狩ってグリムが目覚めるのを待っていた。


 ここ数日、地揺れは起きていない。

 どうやら魔水晶の実験も成功したようだ。


 ――とりあえず一旦山を降りてケフィアに報告しようか?

 そんなことを考えていた矢先に、コボルトバトラーから、無事にグリムが目を覚ましたと報告があった。

 まったくタイミングがいいのか悪いのか。


 ひとまず俺達はグリムの元へ向かう。


「おおっ、シュートではないか。面倒をかけたな」


 そこにはすっかり元気になっていたグリムの姿があった。

 グリムは死ぬ前のなり損ないの人型や、ドラゴンではなく、完全な人型の姿をしていた。

 ただし……翼は片方だけ。片翼のままだった。


「ったく。起きるのが遅いんだよ」


 俺は嬉しさを隠すように、軽口を叩く。


「なに。ここのところ、あまり寝れてなかったのでな。熟睡させてもらった」


 俺に合わせるように、グリムもおどけたように言う。


「……もう、大丈夫なのか?」


「うむ。今、体を動かしておったところであったが、しっかり魔力も馴染んでおる。死ぬ前よりも健康体なのは間違いない」


 グリムは屈伸や腕回しをしながら答える。

 どうやら本当に大丈夫そうだ。


「その……翼は?」


 確か再生できるようなことを言っていたはずだ。


「ふむ。我も再生を試みたのだが……どうやら再生することはできぬようだ」


「再生できないって……魔力が足らないのか?」


「いや、魔力の問題ではない。もっと別の……我自身に問題があるようだ」


 グリム自身に問題が?


「もしかして、復活の際に何か不具合が?」


「我にも原因が分からぬ。再生しようとしても、体が拒否するような感じでの」


 俺が思ったのは、復活したことによって、正常な状態が変わったんじゃないかということだ。


 カード化する際は、最初にカードにした状態が、登録される。

 例えば剣。

 最初に剣をカードにすれば、折れても元通りになるけど、折れた剣をカードにすれば、折れた状態が正常になって、元の剣に戻らない。


 もちろんカードとは全く違うが、グリムは一旦死んで生き返ったことにより、片翼の状態が正常になったんじゃないか?

 だとしたら、申し訳ない気持ちになる。

 俺がそれを伝えると、グリムが否定した。


「シュートよ。汝は我が命を救ったのだ。誇りこそすれ、気に病む必要はない」


 そう言われてもねぇ。


「そもそも汝の説は違うと思うぞ。原因は分からぬが、もし汝の説が正しいとなると、我はあのなり損ないの姿が本来の姿になるところであった。そうではないか?」


 あ~、確かにそうかも。


「だが魔力の戻った我は、もうあの姿にはなれん。ドラゴンの姿が本来の姿である」


「そっか。じゃあ原因を探さないとな」


「なに、別に翼がなくとも問題ない」


「いやいや、翼がないと飛べないだろ」


「確かに飛べぬが……もう何百年もここから動いておらぬからの。不便ではないぞ」


 何百年も飛んでないって……偉大なドラゴンかと思ったけど、実は引きこもりかよ。

 まぁおかげで噴火もしてこなかったんだろうけどさ。


「しかし、汝を乗せて大空を舞い上がるのは、面白いであろうな」


 ドラゴンに乗って空を飛ぶ……ロマンだな。


「なら……そのために早く翼を治さないとな」


「うむ。そういうことであれば、我も努力するとしよう」


 ……理由がなかったら努力しなかったのかよ。


「ふむ。しかし、それとは別に、汝には我を救ってくれた礼をせねばならんな」


「えっ、いや、別にいいよ」


「そうはいかん。それに元はといえば、我が部下を助けた礼に汝には来てもらったのだ。それが我まで助けてもらうとは……本当に感謝する」


 グリムが頭を下げる。

 ……ここで謙遜したら、かえってグリムの顔に泥を塗ることになる。


「じゃあ、後でカーバンクルやティータにも礼を言ってやってくれ。アイツらが一番頑張ったんだ」


「うむ。当然、あのもの達にも礼をせねばなるまいて」


 グリムの快気祝いで後で宴会をするつもりなので、カーバンクル達はそこで呼び出すことにする。

 そして、その宴会の後で、グリムとガロンに全てを話そうと思う。

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