第195話 魔族の女性
いよいよグリム救命作戦を始める。
「じゃあグリム。人化を始めてくれ」
この作戦は、ドラゴンではなく人型で行う。
人型なら、体が小さい分、魔力が伝達しやすいだろうし、何よりも魔石と魔吸虫が肉眼で確認できる。
それに、魔力を空っぽにするんだから、魔力の大量消費もデメリットではなくなる。
というか、前回で魔力の半分以上が無くなったとかいう状態だから、人化できるか不安だったが、グリムによれば、あと1回、短時間なら可能らしい。
……それを酒盛りでやろうとしたんだから、グリムも大概だよ。
「うむ。それでは下がっておれ」
俺は下がって人化を見届ける。
これでもう後戻りができなくなった。
俺のすぐそばには、カーバンクル達が、いつでもいけるように待機している。
もう俺にできることは、このカーバンクル達の頑張りを見届けるだけ。
……頑張ってくれよ。
そして魔力に包まれたグリムが人型まで縮まると、3匹がグリムに向かって駆けつける。
そしてグリムを包んでいた魔力がなくなると……そこには前回とは違った姿のグリムがいた。
今の姿は、前回のように着物は着ておらず、裸状態。
前回同様、胸には魔石が露出しており、正面から見たら、着物がないだけのように見える。
だがよく見れば、腕や背中には鱗が残っており、尻尾もある。
人間でもなく、かといってドラゴニュートでもない。
ちょうど、そのハーフのような姿になっていた。
「――魔力が足らなかった……か」
そういってグリムは崩れ落ちる。
完全な人化をするには魔力が足りず、中途半端になってしまったようだ。
ってことは、いつ魔力切れになってもおかしくない。
いきなり予想外の展開になるが、俺は何とか叫ぶのをこらえる。
俺が慌てたら、グリムやカーバンクル達まで動揺する。
何も出来ないんだったら、せめて迷惑をかけないように、落ち着いてないと。
「すまん……あとは……頼んだ……ぞ」
もうほぼ限界のようで、グリムはそのまま目を閉じ動かなくなる。
そこにカーバンクルが近づき、救命作戦を開始する。
人化は中途半端だけど、魔石は見えているし、作戦に支障はないはずだ。
「マスター。大丈夫です。きっと成功しますよ」
「……ああ。当然だろ」
ティータの言葉に俺は力強く頷いた。
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「――終わったのか?」
さっきまで忙しなかったカーバンクル達の動きが止まった。
邪魔しないようにと少し離れている場所にいるから、グリムの様子は分からない。
消滅していないので、成功したとは思うが……。
サポート役としてカーバンクル達の側にいたティータが俺に手招きをする。
俺は近づいてグリムを見るが……まだ意識がなさそうだ。
「一応、消滅の危機までは脱出したようです。ですが……目が覚めるかどうかは分からないそうです」
魔力切れで死ぬことはなくなったが、一旦魔力が空になり死んだのは事実。
生き返りはしたが、目が冷めずにこのまま……植物状態になる可能性が残っているそうだ。
魔力はもう回復しているし、外傷も翼以外ない。
こればっかりは本人の意識次第。
状態異常回復などの魔法や道具でどうにかなるものでもないらしい。
「……なぁに。グリムならすぐに意識を取り戻すだろ」
グリム程のドラゴンが寝たきりなんてありえない。
……そうだろう?
「さっ、お前達も疲れたろう。少し休むといい」
後は目が覚めるのを待つだけなら、カーバンクルじゃなくてもいい。
というか、コボルト達がさっきからそわそわしているから、いい加減教えてあげないと。
うん、起きるまでの世話はコボルト達に任せよう。
一応、それでも万が一に備えてカーバンクルを1匹残すことにする。
残るクコ(竜)には一旦カードに戻ってクールタイム短縮で回復させる。
その後は数時間おきに交代で見守ることにする。
……まぁそんなに長い時間目が覚めないことはないと思うが。
ったく。さっさと目覚めろってんだ。
俺とティータはコボルト達の元へ向かおうとする。
「んんん? これはどういうことかな?」
不意に背後から知らない女性の声が聞こえてきた。
振り向くと……コウモリのような黒い翼、そして角と尻尾の生えた女性が上空にいた。
背丈は人間の女性と同じくらい。
まさに俺が思い描いていた通りのサキュバスのイメージそのものだった。
間違いない。あれが例の魔族だ。
「そんなっ!? 一体いつの間に!?」
ティータが慌てて俺を守るように前に移動する。
ティータの気配察知でも気づかなかったようだ。
いつの間にってのもそうだが、どうやって入ってきたんだ?
「きゅート!」
「くるな!!」
ラビットAがこっちに向かってきそうな気配がしたので、俺は慌てて制する。
ラビットAがこっちに来たら、あっちが手薄になる。
さいわい、今の所魔族が襲ってくる気配はない。
興味深そうにグリムを見ている。
「そこで寝ている人、随分と変な姿をしてるけど、アタシが魔吸虫を付けたドラゴンだよね? なんで生きてんの?」
やはりこの魔族が今回の元凶か。
「それに……なんか変なモンスターが多いね。君の仕業かな?」
魔族はグリムの側にいるカーバンクルや、少し離れた場所にいるラビットAやドラゴニュート、そして最後に俺とティータを見る。
「そこにいる妖精もただの妖精じゃなさそうですし、君はなにも……んん? 君の顔には見覚えがあるね」
もちろん俺には見覚えがない。
「ああっ、そうだそうだ!! 君、コンプのプレーヤー君でしょ。ってことは、このモンスター達が噂のカードモンスターなのかな?」
俺をコンプのプレーヤーと呼ぶ。
……ある程度予想はしていたから、驚きというよりもやっぱりという感情のほうが強かった。
「そういうお前は改造のプレーヤーの関係者か?」
まさか改造プレーヤー本人ではないだろう。
ナビ子と同じ電子妖精……にしては、姿が違いすぎる。
しかし、話し方の雰囲気は……。
「アタシは……君の所にいるナビ子だっけ? あの子と同じナビゲーターだよ! ただし……電子妖精じゃなくて、電子魔族だけどね」




