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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第4章 片翼のドラゴン
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第194話 グリム救命作戦

 俺は思いついたアイデアを皆に披露した。


 まぁアイデア……といっても大したことではない。

 ただ単に、グリムに一回死んでもらうだけだから。


 魔吸虫は魔力を全て吸い尽くしたら消滅する。

 それ以外に外す方法はない。

 だったら、全部吸い尽くされてしまえば簡単だ。


 その時にグリムは死んでしまうが……なぁに、死んでもすぐに消滅してしまうわけじゃない。

 魔石が粉々になる前に、魔力を補充してやれば、消滅することはない。

 魔力が戻れば、グリムも生き返るんじゃなかろうかと。


 端的にいえば、心臓が止まった人に、心臓マッサージして息を吹き返すイメージ。

 それが俺が思いついたアイデアだった。


 もちろんこの作戦は非常に危険だ。

 なにせ一回は本当に死んでしまうんだ。

 魔力を補充して、息を吹き返す保証なんて全くない。


 そしてもうひとつ。

 本当に魔吸虫は魔力を吸い尽くした瞬間に消滅するのか?

 魔吸虫が消滅するよりも早く、魔石が砕けてしまったら?

 決して可能性がないわけではない。


 ――だが、俺のこのアイデアは採用された。


「面白いではないか。我は試してみる価値があると思うぞ」


 グリムのこの一言が決め手となった。


 他に案もないし、本人がやる気になっているのなら、言い出しっぺの俺が止めるわけにはいかない。

 でも、だからといって、すぐに試すわけにもいかない。

 だって絶対に失敗はできないのだから。


 そこで、この作戦を完璧なものにするために、全員で徹底的に話し合うことにした。

 まず俺はグリムに俺のスキルについて説明した。

 どんな事ができるか分からないと、考えようがないもんな。

 カード化スキルのことがバレてしまうが、別にグリムにバレたところで、広まることはない。


 そういうわけで、カード化スキルと、カードモンスターの紹介をしていたら……何故かガロンが苦しみながらぶっ倒れた。

 いきなりのことで戸惑っていると、ラビットAが半狂乱になる。


「きゅート! じーちゃ、しぬー!」


 ラビットAが泣き叫び、収拾がつかなくなっていた。


 その後、なんとか一命をとりとめたが……原因は、契約魔法が発動したという、本当にしょーもない理由だった。

 考えてみりゃ、ガロンにはカーバンクルの紹介はしたものの、カーバンクルの能力や、カード化に関しては一切説明してなかった。


 それなのに、俺がグリムに次々と説明していくから、ガロンの好奇心が契約魔法の限界を越えたようだ。

 そして、俺に何か質問しようとしてぶっ倒れたらしい。


「お前なぁ。こっちは真面目に話し合いをしているのに……ふざけるなら帰ってもいいんだぞ」


「誰がふざけておるんじゃ! 儂は何も悪くないじゃろ!」


 まぁ正直契約のこと……っていうか、ガロンが何も知らないことを忘れていた俺も悪いけど。

 もうこうなったら仕方がないと、契約魔法を解除して、カード化スキルのことを教えることにした。

 というか、契約魔法で死にかけたことで、ラビットAがトラウマになって契約魔法を使いたがらなくなってしまった。

 もちろん教えたことはカード化スキルのことだけで、日本のことは話していない。

 状況としては、アザレアと同じくらいだな。


「ふむ。炎竜石に魔水晶に創魔結晶のカーバンクルか。……こういうのはどうじゃ?」


 ガロンが提案したのは、カーバンクル3匹を使った作戦だった。

 その案はかなり有用そうだったので、それを元に作戦を詰め、出来上がったのがグリム救命作戦となった。


 まず、グリムの魔力切れを起こすタイミングをこちらで決める。

 魔水晶の力を持つ、リコ(魔)なら魔吸虫と同じように魔力を吸収することが可能だ。


 グリムの魔力が空になって、魔吸虫が消滅するタイミング、そして魔石が砕かれるタイミングは、もしかしたらコンマ数秒とか、シビアなものかもしれない。


 そんなタイミングを魔吸虫の都合に合わせる必要はない。

 だから最後の魔力を魔吸虫に吸わせるんじゃなくて、リコ(魔)に吸わせる。

 これで魔力の補充が間に合う可能性が高くなる。


 そして、その魔力を補充するのは、クコ(竜)だ。

 グリムと相性抜群のクコ(竜)が、魔力を補充することで、スムーズにグリムの魔石に吸収されるはずだ。


 ただ、空っぽのグリムの魔力を、生き返らせるのに、必要な魔力はかなりの量だと思う。

 クコ(竜)の魔力では追いつかないかもしれない。

 そこで、チコ(創)の出番だ。

 創魔結晶の力を持つチコ(創)は魔力を生産することができる。

 これでクコ(竜)の魔力を回復させる。

 直接グリムを回復させないのは、グリムの負担を避けるため。

 チコ(創)が作った魔力をクコ(竜)の体内でグリム用に変換させて流し込むって訳だ。


 魔力のコントロールに長けたカーバンクルだからこその作戦。

 鍛冶師として各石の特性を生かした素晴らしい作戦である。

 うん、伊達に死にかけてないな。


 作戦は決まった。

 だが、準備はそれだけでは足りない。

 そのことをティータが教えてくれた。


「マスター。いきなり作戦の決行では何が起こるか分かりません。事前に予行演習をすべきです」


 予行演習……つまり、人体実験だ。


 こちらには、合成で作った魔吸虫がある。

 ティータのいうように、実験自体は可能だった。


 だが、その提案には全く気乗りしなかった。

 だって人体実験だぞ。

 誰で試すんだって話だ。


 もちろんコボルトやガロンで試すわけにはいかない。

 というか、生き物で実験に失敗したら死んでしまうから……実験体はカードモンスターしかいない。

 もちろんカードモンスターは、本物の生き物とは違うから、参考にならない部分もある。

 特に死に方だ。

 死ぬ際は肉体も残らず消えて、カードに戻ってしまう。

 ただ、これは今回のケースと似たような感じだから、仮にカードモンスターで成功すれば、グリムでも成功する可能性が高いということになる。


 だけど、たとえ生き返るとはいえ、カードモンスターは俺の大事な仲間だ。

 人体実験なんて真似はさせたくない。


「マスター。お気持ちは分かりますが、この作戦は失敗はできないのですよ。想定外のことに備えるためにも、実験は必ずやる必要があります。心配せずとも、実験体にはわたくしがなります。成功するまでわたくしを何度も殺して下さい」


 ――俺は、ティータにそこまで言わせてしまった自分を恥じた。


 俺だって実験の必要性は十分に分かっていた。

 それなのに、決断できなくて、いつまでもウジウジとしやがって。


「分かった。だけど、ティータを殺すつもりは一切ないからな」


「ふふっ、期待しております」


 それが実験体を買って出たティータへ出来る唯一のお返しだと思う。

 そう意気込んで始まった実験だが……見事に2回ほどティータを殺してしまった。


 1回目は魔力の失くなるタイミングが掴めず、回復させることができなかった。

 魔力が切れて、よしじゃあ魔力の供給を……と、指示出ししようと思った瞬間に、ティータがカードへ戻ってしまった。

 指示なんか出していたら間に合わない。

 カーバンクル達の阿吽の呼吸に任せることにした。


 ――もしこれが本番だったら……と思うと、震えが止まらなかった。

 ティータのいうことが正しかったんだと、こんなところで甘さはいらないんだと再認識させられた。


 ただ、この失敗で有益な情報も分かった。

 死ぬタイミングがティータよりも、魔吸虫の方が先だということだ。

 カードに戻ってくるタイミングが魔吸虫の方が早かったのだ。

 つまり、タイミングを誤らなければ、成功する可能性が高いことだ。


 早速そのことを踏まえて次の実験を……と言いたいところだが、残念ながら、次に実験をするのは半日後。

 なぜなら、カードが回復するのを待たなければならなかった。

 もしこれがティータだけならクールタイム短縮ですぐに戻せるが、魔吸虫もいる。

 クールタイム短縮は1日1枚だから、どうしても半日待つ必要があった。


 そして、2回目。

 今度はタイミングはバッチリだったが、魔力の質の問題で、魔力の供給が間に合わなかった。

 そもそも今回の実験で魔力を与えるクコ(竜)と、妖精のティータでは、魔力の相性が良くない。

 与えた魔力をティータが自分で自分用の魔力に組み替える必要があるから、間に合わなかったのだ。

 それでも、魔吸虫よりも数分後にカードに戻ってきた。

 もしこれが自分にピッタリの魔力だったら、ティータは死ななかったかもしれない。


 でもこれで、グリムに魔力を与える役目はクコ(竜)にしか出来ないことが分かった。


 だからティータで実験しても、これ以上は意味がない。

 そこで、実験体をドラゴニュートに変更することにした。

 ドラゴニュートなら、火属性の竜系で、クコ(竜)との相性も悪くない。

 ドラゴニュートもティータの頑張りを見ていたので、自ら実験体を名乗り出た。


 今度は魔吸虫しか生き返らせる必要がないので、ティータには申し訳ないが、クールタイム短縮を使い、すぐに実験を行った。


 ――実験は成功した。

 ドラゴニュートは死ぬことはなく、魔吸虫のみが死んだ。

 だが、生き残らせるためには想像以上の魔力を与えなければならないことが分かった。

 クコ(竜)だけでは到底賄いきれないため、チコ(創)の魔力も必要とした。

 ドラゴニュートでこれだから、グリムにはどれだけの魔力が必要なのだろうか。

 クコ(竜)やチコ(創)の魔力をいつでも回復できるような準備が必要なのだと分かった。


 半日が過ぎ、ティータが生き返ったところで、実験の成功を報告。

 そして最終確認のため、もう一度ドラゴニュートで実験をして成功させた。


 二度の成功。

 カーバンクル達のチームワークも完璧と言えるだろう。

 これで準備は全て整った。


 今からでもグリム救命作戦を決行……と言いたいところだが、作戦の決行は半日後――次の日の朝に決まった。


 今回の作戦は魔力は当然ながら、集中する為、神経をすり減らす。

 特に作戦の中心となるカーバンクル達の体調を完ぺきにするためにも、カードの中で、半日は休ませなければならなかった。


 俺としては、可能なら今すぐにでも決行したかった。

 何故なら……遅くなればなるほど、ナビ子が戻ってくる可能性があるからだ。

 ナビ子を信じたい気持ちはあるが、もし万が一敵だった場合は、肝心なところで邪魔をされる可能性がある。

 だから、ナビ子が戻ってくる前に全てを終わらせたかった。


 しかし、無理をして失敗したら全てが台無しになるので、こればっかりは仕方がない。

 正直なところ、俺自身も疲れていたし、ちゃんと休むことにした。


 そして、ナビ子が魔水晶を取りに出かけて3日目の朝。

 いよいよグリム救命作戦が始まる。

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