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カード化スキルで図鑑コンプリートの旅  作者: あすか
第4章 片翼のドラゴン
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第193話 グリム

「んああああ!!」

「きゅあああ!!」


 俺とラビットAは数日振りの太陽の光を浴びて、思いっきり伸びをする。

 すっごく気持ちがいい。


 うん、やっぱりダンジョンみたいに暗い場所に長時間いたら、そりゃあいい考えも浮かばないし、疑り深くもなるよな。


 ナビ子を見送るために外に出たけど、気晴らしにもなって、ちょうどよかったかもしれない。


「きゅビ子……だいじょーぶ?」


 ラビットAもナビ子の様子が変なことに気づいていたようで心配そうだ。


「まぁメーブもいるし、大丈夫だろう」


 一応、メーブにはこれまでの状況と、俺の考えを解放(リリース)するときに全て伝えている。

 ナビ子が非協力的だったのは、敵だからなのか、それとも全く別の意味があったのか。

 しっかりと見極めてくれることだろう。


「さっ俺達も戻ろうか」

「きゅい!」


 噴火のことも、ナビ子のことも、一旦忘れて、ここからはドラゴンを治すことにだけに集中しよう。


「きゅート。まって。じーちゃとこいく!」


 ……何を言い出しているんだコイツは?


「あっ、もしかしてガロンのところに行くって言ってるのか?」

「きゅ! じーちゃ、さびしー」


 コイツ……ガロンのこと、じーちゃって呼んでるのかよ!?

 ってか、きゅーちゃじゃないのか。


「もう一度ガロンを呼んでみろ」

「きゅう? じーちゃ」


 そっか。ラビットAは最初だけきゅになるから、そこを変えてやれば……


「よし、ラビットA。最初じゃなくて途中で俺の名前を呼んでみろ」


「きゅう? きゅート、どーゆーこと?」


「……なんでそこはシュートじゃないんだよ」


 おかしくない?


「きゅ? きゅートはきゅート」


 ……もう慣れたから別にいいけどね。


 そうだな。

 ドラゴンの治療にはまだ時間が掛かるだろうし、ガロンには現状を説明しておいた方がいいだろう。


 時間がかかるなら、自分の家に戻るって言うかもしれないし、気が変わってドラゴンに会うって言うかもしれない。

 あっ、でもドラゴンのところに連れていくには許可がいるのか。


 まぁどうせ先にドラゴンの場所に着くんだし、聞いてみてからガロンの所へ行けばいいか。


 今回、外に出た方法は、以前コボルトが言っていた、ドラゴン専用の抜け道を使ってだ。

 ドラゴンの宝物庫を過ぎたところに隠し扉があり、そこから火山の外、もしくは平地へと出られる。

 一直線で、通路も整備されており、しかも広いので、飛行モンスターやユニコーンでも移動できる。

 お陰で半日以上かかる道のりが、1時間もかからずにドラゴンの棲みかに戻ることができる。


 ちなみに、ここ数十年単位でドラゴンは使用していなかったらしい。

 が、直近でモンスターが通り抜けた形跡はあった。

 それが平地へ現れたモンスターの痕跡なのは間違いないだろう。

 だが、魔素発生装置は見当たらず。

 形跡もそこまで多くなかったので、この通路ではなく、付近の魔素発生装置から流れ込んだ分でモンスターが生まれたに違いない。

 だから、もう平地にモンスターが現れることは殆どないと思う。



 ****


 う~ん。やはり芳しくない。

 ナビ子を見送って、すでに丸1日が経過した。


 俺はドラゴンの治療に専念して、考えつく限りの事を試してみたが、どれも成果がなかった。


 分かったことといえば、魔吸虫の生態くらいだ。

 魔吸虫が魔石から魔力を奪うのはパターンがある。


 まず、ドラゴンが大人しかった場合。

 外部から魔力を取り込まず、魔力を練らない場合は、魔石から定期的に同じ量の魔力を奪う。


 次に、ドラゴンが魔力を消費した場合。

 魔力を練ると、その分の魔力を奪いにかかる。

 だから、普段と同じだけの魔力を練ると、魔力が足りず発動しない。

 いつもより多めに魔力を練れば、魔吸虫が奪っている間に残った魔力で魔法やスキルを発動できる。

 これは迂闊に試すことができないから、ドラゴンの経験と先日の人化で判断した。


 最後に外部から魔力を取り込んだ場合。

 周囲の魔素や噴火エネルギー等を取り込む。

 魔力回復ポーションを飲ませる。

 栄養たっぷりな食事を取らせる。

 スキルで魔力を送り込む。

 その場合は、魔吸虫が活性化して、取り込んだ分の魔力を一気に奪う。

 ドラゴンの魔力が補充されることはない。


 だが、唯一魔吸虫が魔力を奪わない方法があった。

 それはクコ(竜)が魔力を分けた場合だ。

 クコ(竜)は炎竜石と合成したカーバンクルだ。

 炎竜石はドラゴンの魔力を浴びて作られた鉱石。

 その力が源になっているクコ(竜)の魔力は、このドラゴンとほぼ同じ性質を持っていた。

 だから、魔吸虫が魔力が増えたことに気づかずに、ドラゴンが大人しい場合と同じと錯覚しているようだ。


 まぁこれにしたって、気休め程度魔力が回復するだけ。

 カーバンクルが限界まで魔力を分け与えて何とか寿命が1日延びる程度。

 正直焼け石に水状態だ。


「あーくそっ! っとに、どうすればいいんだよ!」


「おや、シュートよ。もう諦めたのか?」


 俺が癇癪を起こしたことで、諦めたと思ったようだ。


「別に諦めてないけどさ……グリムと違って、魔石を持ってない俺には、今ひとつ感覚が分からないんだよ」


 昨日の夜から俺はドラゴンをグリムと呼ぶことにした。

 元々名前を持っていなかったそうだから、クリムゾンドラゴンにちなんで俺が名付けた。

 グリムという名前を思いの外喜んでくれたようで、コボルト達にも今後はグリムと呼ぶように。などと言っていた。

 そしてグリムはシュートと名前で呼ぶようになった。


 というのも、元はガロンを連れてきたことにより、小さきものが2人になってしまったからだ。

 それと、夕べの酒盛りで意気投合したからってのもある。

 グリムも酒は好きらしく、ガロンと3人で大騒ぎした。

 まぁ当然ながらグリムはドラゴンの姿だが。

 ドラゴン姿で樽ごと一気に飲む姿は何とも迫力ある光景だった。

 ガロンも最初こそ緊張していたが、酒が入ると、ドラゴンだろうがお構いなしだった。

 途中で興が乗ったグリムが人化しようとしたから、大慌てで止め、そのままお開きになってしまった。

 こんな馬鹿なことで寿命をさらに削るのは洒落にならないもんな。


 ……全部解決したら、今度は人化したグリムと飲んでみたいな。

 と、その為にも頑張らないと。

 うん、癇癪を起こしている場合じゃない。


「そもそも、本当に魔力が無くなったら死ぬのか? ラビットAなんか、しょっちゅう魔力切れを起こしてるぞ」


 きゅぺぇって言いながら、ばたんきゅーしている所を何度も見た。

 もし魔力切れで死ぬなら、ラビットAは何回死んでいるんだって話だ。

 だから魔力が無くなったら死ぬってのが、そもそも間違っている気がするぞ。


「それは魔法やスキルに使う魔力がなくなったに過ぎん。身体を維持する魔力はかろうじて残っておるはずだ」


 魔力ゼロっていっても、完全にゼロってわけじゃないのか。

 体力ゼロって言いながらも、話したり動いたりできるのと同じか。


 だけど魔吸虫は全ての魔力を奪う。

 それこそラビットAのばたんきゅー状態から、さらに干からびるまで搾り取る状態らしい。


「そもそも我らモンスターは魔力でできておる。本当に魔力が無くなれば、身体を維持することすらできなくなる」


「ん? ってことは、もしグリムが魔吸虫に魔力をすべて奪われたら、その身体はどうなるんだ?」


「この場に居なかったように、跡形もなく消滅するであろうな」


 あ~死んだら魔素に還元されるっての。

 あれも、これが関係してるんじゃね?

 死んでモンスターの全ての魔力が無くなるから、魔素に還元されて消滅するみたいな。

 う~ん。論文とか書けそう。


 んん? ……ってことは、先日ティータと話していた、魔石を回収するってことは、できなかったってことじゃないか。

 ったく。じゃああの決断は何だったんだよ。


 そういえば、魔吸虫の説明文に、全ての魔力を吸い尽くしたら、その瞬間朽ち果てるって書いてあったな。

 魔吸虫も魔力が無くなるの? ……いや、違うな。

 魔吸虫はゴーレムだ。

 命令されていた魔力を吸い尽くして役割を果たしたら、自分も消滅するってことだろうが……ふむ。


「……なぁ。魔力が無くなったらその消滅っての。どんな風に消滅するんだ?」


「なんだシュート。そんなに我の消滅が気になるのか?」


 グリムが冗談めかして言う。

 が、今はちょっと真面目に聞きたい。


「いや、ちょっと閃きそうなんだ。だから真面目に答えてくれ。魔力が無くなったら、一瞬で消えるのか? それとも魔力が残っている間に、魔力のなくなった部分からじわりと消滅していくのか?」


 俺が真面目だとわかったようで、グリムもまじめに答える。


「消滅するには段階がある。全ての魔力を失えば、最初に魔石が色を失う。この時点で我の命が消えるであろう。次に色を失った魔石が砂のように崩れ、消滅する。魔石が崩れたことに肉体が耐えきれず、消滅していく」


 ……すぐに消えるわけではないのか。

 魔吸虫は魔力を吸い尽くしたら、すぐに消滅って書いてあった。

 それが正しければ、魔石が色を失った瞬間に消滅するはず。


「……ひとつ思いついたことがある」


 非常に危険な賭けだが……ようやく突破口が見えた気がした。

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