第191話 決断
俺はもう一度説明文をよく読む。
レア度がないのは、魔道具から変わらず。
まぁ改造品が材料になっているんだから、ある程度予想はしていた。
それでもゴーレムとは思わなかったが。
寄生モンスターを改造した……か。
スキルに関しては、特に気になる点はない。
いや、魔力送信が気になるが、これは説明文にも書いてあった。
使役者に送られる……か。
おそらく魔力はサキュバス(仮)に送られているのだろう。
ドラゴンの翼とドラゴンの魔力を手に入れることが本当の目的だったんだろうな。
そして、肝心の魔吸虫を取り外す方法が……ない。
無理やり剥がそうとしたり、攻撃をすると、ドラゴンの魔石が破壊される。
ドラゴンの魔力が無くなれば、一緒に死ぬらしいけど……そんなことはさせられない。
「小さきものよ。我はどうすればいい?」
俺がずっと黙っていたからか、人型状態のドラゴンが尋ねてくる。
「あっ、もう確認ができましたので、ドラゴンに戻られても大丈夫です」
「ふむ。もう戻ってもよいのか……」
なんだか少し残念そうに呟く。
……久しぶりの人型とか言ってたから、もう少し体を動かしたかったのかもしれない。
ただ、今の状況でこれ以上、無駄に魔力を消費してほしくない。
俺はドラゴンが元の姿に戻るタイミングで、一旦仲間と相談する為にこの場を離れた。
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ドラゴンとコボルトに見えない場所まで離れた俺達は、妨害スキルを使って、絶対に聞かれないようにする。
ドラゴンを救う方法がない?
ふざけるな!!
そう大声で叫びながら、当たり散らしたい衝動をグッとこらえる。
この場にはナビ子とティータとラビットAもいる。
もし、3人がいなかったら、確実に自制できていなかっただろう。
それくらい怒りと悔しさでいっぱいだった。
3人は俺が話し出すのをじっと待つ。
「……何かあのドラゴンを救う方法はあると思うか?」
……誰も答えない。
3人ともそれが不可能だと分かっているからだ。
「マスター。酷なことを申し上げますが、こうなった以上、マスターが考えることは、ドラゴンを治す方法ではありません」
「なに?」
一体何を言い出すんだ?
「もしマスターが確実にドラゴンを治す方法を思いつくのでしたら、このままでもよいでしょう。ですが、もし思いつかなかったら? 今のマスターはドラゴンが死んでしまった場合のことを考えなくてはなりません」
死なせやしない!!
そう答えられたらどんなに良かっただろう。
だが、そう言えるだけの根拠がない。
「……俺は何を考えればいいんだ?」
俺は悔しさを噛み殺しながら言う。
「あのドラゴンをカードモンスターにするかどうかです」
「んなっ!?」
……ティータは何を言っているんだ?
「……それは今考えなくてはいけないことなのか?」
そんなこと、今はどうだっていいだろ!
それともなんだ?
さっさとドラゴンを見限ってカードにしてしまえと言いたいのか?
話の内容によっては、ティータを許せないかもしれない。
俺はさっきまでと違い、ティータを睨みながら答える。
「ええ。今考える必要があります。なぜなら、ドラゴンが死ねば、確実にこの火山が噴火をするからです。その時の対策をマスターは考えていますか?」
「……いや、考えていない」
さっきまで、ずっとドラゴンを治すことしか考えていなかったんだ。
ドラゴンが死んだ場合の噴火なんて考えるはずがない。
「もしドラゴンが死んだ場合でも、マスターがドラゴンをカードモンスターにして、ここを守らせ続ければ、噴火が起こることはありません。ですが、仮にドラゴンをカードモンスターにしないのであれば?」
なるほど。
ティータの言いたいことは理解できた。
「……だから今カードにするか決めろと」
「その通りです。カードにする決断をするのであれば、ドラゴンが死ぬ直前までドラゴンが死なない方法を考えてもよいでしょう。ですが、カードにしない方法ですと、今から対策を考えなければ噴火に間に合わないかもしれません」
「……ドラゴンが死んでも、すぐに噴火するとは限らないじゃないか」
「ええ。そうかもしれません。ですが、わたくしの大自然の加護スキルが反応しております。ほぼ間違いなく、ドラゴンが死ねば、近いうちに噴火はするでしょう」
大自然の加護。
本来は森で発揮するスキルのはずだが、火山だって自然には違いない。
何かしら反応があるってことか。
くそっ!? だとしたら、噴火は確定じゃないか!
「失礼ですが、マスターはなぜそこまであのドラゴンに肩入れされるのでしょうか? カードモンスターにして召喚しても、状況は何も変わらないと思いますが」
「変わるに決まっているだろ!!」
さっきまでは我慢できたけど、今の言葉には我慢できなかった。
俺の叫びにティータだけでなく、ナビ子とラビットAまで怯む。
「……すまん。取り乱した」
「いっ、いえ。こちらこそ申し訳ございません」
ティータも慌てて謝罪する。
別にティータは疑問を口にしただけで、何も悪くない。
完全に俺の八つ当たりだ。
「俺さ。あのドラゴンを一目見て、凄いって思ったんだ」
元々ゲームやアニメなどで憧れていたドラゴン。
実物を見た時は、その圧倒的な存在感に興奮と感動を覚えた。
おそらく覇気なんかなくても、何も喋れなかっただろう。
それに、まだ少ししか話してないが、それでもあのドラゴンの気高い生き様はよく分かった。
ただ、あれは誰にも縛られない生き方だからこその気高さ。
もしカードになって俺に従うようになれば、誇り高いドラゴンの魅力は失われてしまうだろう。
俺の目標は今も変わらず図鑑コンプだ。
だが、コレクションを手に入れることで、その輝きが失われるのは、俺には耐えれない。
それならコレクションを手に入れないほうが何倍もマシだ。
まぁこんなことティータに……いや、誰に言っても理解されないだろうけど。
「決めた。俺はたとえあのドラゴンが死んでも、カードモンスターにはしない」
コブリンキングと同じだ。
俺はあの気高いドラゴンをカードにするんじゃなくて、あのドラゴンに負けないドラゴンを自分で育ててやる。
「では、別の噴火対策を考えねばなりません」
ティータの方針では、カードにしないのなら、別の噴火対策を考える。
その対策ができるまで、ドラゴンを治す方法を探すのを後回しにするってことだ。
「もちろん別に考える。でも、ドラゴンを治す方法も同時進行で考える。だから……一緒に考えてくれ」
俺だけなら無理だけど、人数がいれば出来ないことはないはず。
「……わたくしのマスターは随分と欲張りですね。分かりました。わたくしも微力ながら協力させていただきます」
「きゅきゅ!」
ティータに続いてラビットAも張り切る。
が、ナビ子は最後まで何も言わなかった。
……やはり間違いない。
実は再会してからずっと気にはなっていたことがある。
本人はデフラグしていないから、調子が悪いと言っていたが、最初に様子がおかしかったのは魔道具の説明文を見たとき。
その後の広間では普通だったから、その時は気の所為かと思った。
次に違和感があったのは、ドラゴンの背中を登ったとき。
ラビットAとはしゃいでいた。
ラビットAはいつもあんなだから、別に気にしないが、こういった真面目な時に、ナビ子が俺の元から離れて遊ぶことはない。
そしてその後の侵蝕スキルの件。
あの時は付与する呪いがあるって後から言っていた。
あれは元から知っていて、ドラゴンに聞いて誤魔化せなくなったから、思い出したかのように説明したんじゃないのか。
そして俺が一番気になっているのは、改造に関しては何も言わないこと。
レア度がなくて改造。
その2つのキーワードで思い浮かぶことがひとつある。
それにナビ子が気づいていないはずがないんだ。
今回の敵に関することなのに、何も話さないナビ子。
間違いない。今のナビ子は……敵だ。




