第190話 寄生モンスター
魔石に寄生しているモンスターを確認するために、ナビ子がドラゴンに食べられる。
最初はガチギレしていたナビ子も、他に案がないのが分かっているためか、最終的には渋々ながらも折れてくれた。
「ううう……まさかドラゴンにアタイが食べられる日が来るなんて」
涙目で呟くナビ子。
もちろん他に案があれば、そんなことをする必要はないんだけど……現状他のアイデアは思い浮かばない。
「くくっ……残念ながら、わたくしが変わって差し上げることも出来ませんので」
「きゅふ……きゅビ子。がんば!」
一方、笑いを噛み殺しながら言うティータとラビットA。
まぁ当事者以外からしたら愉快な状況かもしれない。
なにせ、どんな事があっても、カードで復活できるから、死ぬ心配がない。
「ううう……アンタ達、覚えてなさいよ!」
登録に関しては、直接じゃなくても目視さえすればいい。
なので、ここが日本なら胃カメラを入れれば……って、ドラゴン用の胃カメラなんて存在しないか。
でも、普通のカメラがあれば、ナビ子じゃなくて、他のカードモンスターでも問題はない。
流石にラビットAは無理だろうが、ティータやメーブ、フェアリーやピクシーでも大丈夫だろう。
カメラか……残念ながら、どんな素材を作ればカメラが出来るか分からないから、合成のしようがない。
だからどんなに嫌がってもナビ子には頑張ってもらわないといけないし、ナビ子もそれが分かっているから、ティータやラビットAに代われとは言えない。
ただ、ナビ子が勝手にドラゴンの口から入るわけにもいかない。
ちゃんとドラゴンの許可を取らないと。
「ってなわけでして……寄生モンスターを確認するために、この子を中に入れたいんです」
「魔石に取り憑いた寄生モンスターの確認……か。そのために我の中へ入ると」
流石にドラゴンも考え込む。
正直、体内に入られるってのは、皮膚を触れられる以上に嫌だと思う。
でも、やってもらうことは、大きく口を開けてもらうことと、ナビ子が入っている間、動かないでもらうことだけ。
流石に魔石までの道案内……とかできるはずがないもんな。
「別に中に入らずとも、魔石を見ることができればよいのだな?」
……おやっ?
「ええ。ですが、何か別の方法があるので?」
「うむ。魔力を大量に消費するので、今の状態では極力やりたくはないが……人化という方法がある」
おおっ人化!?
しかし、人化で魔石が見れるのか?
そもそも魔力を大量に消費するって……
「……本当に大丈夫なんですか?」
「なに。我の寿命が、残り1ヶ月から半分に減るだけだ」
全然大丈夫じゃなかったー!!
「いやいやいや。寿命が半分って……」
そもそも残り1ヶ月も聞いていない。
そこから半分って、あと半月になるじゃん!?
「小さきものよ。我は汝に託すと言ったはずだ。たとえ寿命が半分になろうとも、汝が我を治せば関係あるまい」
ここでの寿命はドラゴンの残り魔力を意味する。
だから魔力を使えば、その消費の分、死に近づく。
しかも、魔法やスキルを使うために魔力を練れば、寄生モンスターに魔力を吸収される。
人化はブレスや魔法よりは魔力の消費は少ないから、使えないこともないが、それでも残った魔力の半分を消費するようだ。
だが、今の寿命が半分になろうが、魔力がゼロになるまでに俺が寄生モンスターを倒して、ドラゴンの魔力が回復すれば、ドラゴンは生きながらえる。
しかし、だからといって、そこまで思いきれるのは……やはり覇気なんか関係なく、このドラゴンは気高い。
――俺も覚悟を決めないとな。
「お願い……できますか?」
ナビ子も納得はしてくれたけど、めちゃくちゃ嫌そうだし、体内に入っても確実に魔石まで到達できるか分からない。
なら、ドラゴンが確実に魔石を確認できるという人化をお願いしたい。
「では下がっておれ」
ドラゴンの言葉通り、俺達は少し離れる。
それを確認すると、ドラゴンは残り少ない魔力を練り……ドラゴン全体を魔力が包み、縮み始める。
「きゅわわ~」
ラビットAから驚きの声が上がる。
声には出さなかったが、俺も……ナビ子やティータだって同じ気持ちだったと思う。
ドラゴンを包んでいた魔力が人型までに縮まり、現れたのは……人間の見た目に、角と翼を持った身長2メートルくらいの大柄の男性だった。
ただし、翼は片方だけ。
どこから用意しているのか、赤い着物のような服を着ている。
俺はてっきりドラゴニュートのような竜人系をイメージしていたんだけど、角はあるけど、完全な人型とは。
「久方ぶりに人型になったが……やはり人型は窮屈であるな」
ドラゴンは手を握ったり、腕を回したりと、身体の動作を確認する。
俺よりもかなりデカい体なので、一つ一つの動作に迫力がある。
「あの……大丈夫ですか?」
聞きたいことはいくらでもあるが、とりあえず大丈夫か確認する。
「うむ。今の状況でも問題なく動けはするが……予想以上に、魔力を持っていかれたようだ。……あまり時間は掛けられぬな」
魔力が半分になると言っていたが、実際はそれ以上に消費してしまったようだ。
しかも人型を維持するのにも、魔力を消費する。
すぐに魔石を確認して、ドラゴンの姿に戻ってもらおう。
ドラゴンが着ている着物の前をはだける。
はだけて見えたドラゴンの上半身の胸元には、赤く輝いた魔石が埋まっていた。
なるほど。人型になると、魔石の一部が表に見えるようになるのか。
「ふむ。こんな物が我の体内に入っていたとは……」
ドラゴンの表情が険しいものに変わる。
赤く輝く魔石には蜘蛛のようなモンスターが張り付いていた。
恐らくこれが寄生モンスターなのだろう。
まずは予定通り登録して確認する。
――――
魔吸虫
改造品×吸魔系×昆虫系モンスター
――――
魔吸虫か。
そのまま魔力を吸い取る虫ってことか。
「……レシピが分かる」
しかし、これは複数枚合成。
今の俺はまだ解禁されてないが……このレシピなら、別に複数枚合成じゃなくても、吸魔系の何かを習得している昆虫モンスターがいれば、普通の合成でもできそうだ。
改造品ってのは、例の魔道具か、創魔結晶の欠片のことだろう。
この魔吸虫も改造されたモンスターってことなのかもしれない。
吸魔系ってのは、ロブマインドの魔法でいいと思う。
そして昆虫系モンスターはたくさんいる。
しかし、このモンスターを作ってもいいものか。
正直怖いが……図鑑説明文に弱点が書いてあるかもしれない。
俺はこの魔吸虫を合成で作ることにした。
ナビ子が回収した魔道具から、創魔結晶の欠片を回収。
そして、ロブマインドの魔法をスモールスパイダーに習得させ、そのまま合成。
――――
魔吸虫
レア度:なし
固有スキル:魔力吸収、魔力送信、侵蝕付与
寄生モンスターを改造したゴーレム。
対象の魔石に取り憑くことで、侵蝕のスキルを付与する。
侵蝕を受けた対象は、魔力が無くなるまで吸い尽くされる。
吸い尽くすまでは、どんなことをしても魔石から剥がれることはない。
吸った魔力は、使役者へ送られる。
取り憑いた魔石の魔力が無くなれば、その瞬間、魔吸虫は朽ち果てる。
もし無理に魔石から引き剥がそうとしたり、危害を加えると、魔吸虫は魔石を破壊し自滅する。
魔吸虫に寄生された時点で、そのモンスターは死ぬしかない。
――――
無事に魔吸虫を合成することに成功したが、そこには絶望しか書かれていなかった。




