第20話 合成
さて、実際に合成を始めたいのだが……どれからやろう?
さっきのナビ子の説明を聞くまでは、武器から制作していこうと思っていたのだが……結果がランダムなのは怖い。
鉄の剣を作ろうと合成して、盾が出来たりしたら……目も当てられない。
いや、盾ならまだいい。
むしろ鎧や兜の方が装備しづらいかもしれない。
フルプレートが完成したら、俺では歩くことすら出来ないかもしれない。
もちろん将来的には俺が扱えない武器も含めて全種類コンプを目指す。
だけど現時点で鉄は10個。
しかも追加で手に入る予定もない。
鉄は貴重なんだ。
使えないコレクションよりも使えるアイテムが欲しい。
「そういえば鉄なんだけど、合成に量とか大きさって関係あるの?」
何も考えずに鉄の剣とフルプレートとか思ってたけど、同じ鉄の量じゃないだろう。
でもカードには鉄としか書かれてないんだよなぁ。
具合的な量は不明である。
「うんにゃ。これは合成のもっとも良い所でね。多少の量ならオマケしてくれるの」
例えば鉄10キロが必要なアイテムに鉄が9キロしかなくても問題ないらしい。
合成結果が劣化することもないようだ。
そして逆に鉄が10キロあって、必要な鉄が9キロでも1キロが戻る訳ではない。
「じゃあこの鉄の塊を砕いて沢山の鉄にすれば……」
「オマケとは言ったけど、ある程度その量にあった結果になるから……少なかったら、フライパンとか……ネジとかが出来上がるかもしれないね。それからその鉄のカードは運営が選んだ量だから、変えない方が良いかもね」
……うん、この鉄を弄るのは止めておこう。
「とりあえず無難にポーションから作っていくか」
結局俺は武器のような取り返しのつかないものじゃなく、在庫の補充が出来る消耗品から始めていくことにした。
ポーションに必要な水のカードは無くならない。
ヒール草は仲間達のお陰でかなり集まった。
たとえ今使い切っても、まだまだその辺に生えているだろうから、また摘みにいけばいい。
それにポーションのような回復アイテムは必需品となる。
作って損はないはずだ。
俺はカードを2枚重ねて手に持つ。
「合成はリボーンって唱えるの」
リボーン……生まれ変わるってことか。
「合成」
俺がそう唱えると重なっていたカードがひとつになる。
「……へっ? これだけ?」
「これだけって……ちゃんと成功してるよね?」
カードを確認すると、確かにポーションと書かれてある。
「違うんだ……違うんだよ……」
ナビ子の言う通り成功はしているが……そういうことではない。
「ほら……せっかくの合成なんだからさ、カードが融合するときに光ったり、魔方陣が発動したりとか……そういう演出というか……そう、ロマンが足りない」
「ロマンって……カード化の時にも言ったけど、これから何度も使うことになるんだから、途中から面倒になるだけよ。それにどうせシュートもゲームの時の詠唱とか演出はスキップとかしてたでしょ」
……そう言われると何も言えなくなる。
確かに演出は最初だけ見て後はカットしている。
カットが出来ないのだったら確かに最初から無くても問題ないのかもしれない。
というか、この話から察すると、運営が面倒になって演出を作らなかっただけじゃないか?
「大体ね、ユーザーが勝手すぎるのよ! 演出がないと寂しいと文句を言い、演出があるとテンポが悪いと文句を言う。テンポよくスピーディーな演出にしても、最終的にはカットされる。いったいどうすればいいのよ!」
……なんかメッチャ怒ってるんですけど?
「あ、あの……ナビ子さん?」
「大体ね! その演出を作るのにどれだけの手間暇が……」
俺はナビ子を宥めようとしたが、ナビ子は更にヒートアップする。
随分と実感がこもっているし、もしかしたらナビ子は日本にいた頃に演出関係で色々と苦労したのかもしれない。
ナビ子が演出を作るプログラムを作ってたとか、作っていた人がナビ子を作ったとか。
真実は分からないけど、少なくとも今後ナビ子の前では演出について文句を言うのは止めようと誓った。
****
「セット」
空瓶とポーションのカードをセットする。
すると合成と同じようにカードが1枚になる。
――――
ローポーション【薬品】レア度:☆
下級ポーション。
飲むと体力も回復する。
患部に直接振り掛けると飲むよりも癒しの効果が高いが、その部分しか癒すことが出来ない。
――――
瓶に容れようが、そのままだろうが内容は全く変わらなかった。
ただイラストだけは水の塊から瓶に変わったが。
「消耗品は使っちゃうとカードは消滅するけど、空き瓶は残ってるから、それを変化すれば瓶は使い回せるよ」
そっか、瓶は無くならないのか。
空き瓶はこの家に何個かあったから、瓶の心配は要らないな。
「にしてもローポーションか。中級のミドルポーションとか上級のハイポーションとかもあるのかな?」
だとしたらどうやって作るのか?
「あったとしても、少なくともそこら辺に生えてたヒール草とただの水じゃ無理でしょうね」
やっぱりそうだよな。
ただの水じゃなくて、もっと別の……山の天然水とかならいいのかな?
この山の上流で汲んでこれないかな?
ヒール草は……より上等の薬草があるのか?
それともヒール草の質の問題なのだろうか?
ふむ……試してみるか。
俺はヒール草とヒール草のカードを重ねる。
「ナビ子、同じカードを合成してもいいんだよな?」
「もちろんだよ」
ナビ子がニヤニヤしながら言う。
こういう表情をするってことは……多分当たりだな。
俺は早速合成してカードを確認する。
――――
上ヒール草【薬品】レア度:☆☆☆
魔素濃度の高い場所でしか育たないヒール草。
煎じて飲めば、骨折すら一瞬で治る。
――――
おお……何だかスゴいものに変化した。
上ヒール草か……普通のヒール草は植物だったけど、これは薬品扱いになるんだ。
まぁ骨折すらすぐに治るんなら十分薬品扱いでいいよな。
「……これをさらに合成させたら何になるんだろうか?」
上ヒール草から……特上ヒール草になったりして。
いやいや下手したらもっと凄い……
「あっそれ以上しても無駄だと思うよ」
「えっ? 無駄ってことは……これ以上ヒール草の上位はないの?」
だとしたら少し残念だなぁ。
「そうじゃなくて……さっきの説明覚えてる? レベル2の合成じゃ、星3までしか出来上がらないよ」
……そういえば、他のことに気をとられていたけど、確かにさっきの説明でそんなことを聞いた。
「ってことは上ヒール草以上はあるけど、現時点で合成は出来ないと?」
現時点で上ヒール草のレア度は星3。
これよりも上になると間違いなく星4以上だろう。
「あるかどうかは自分で探してもらうから、アタイの口からは言わないけど、合成できないのは間違いないと思うよ」
「ちなみに合成したらどうなるんだ? まさか失敗扱いに……」
「流石に失敗扱いにはならないよ。だけど、半分は当たってるかも。あのね、合成元のカードのどちらかが結果としてカードになるの」
「それは……上ヒール草と上ヒール草で合成したら、上ヒール草が一つになるってことか?」
「そうだけど……同じ素材じゃ分かりにくいよ。上ヒール草と別の物で合体すると、上ヒール草かその別の物のどちらかになるってこと」
う~ん。……参ったなぁ。
片方が無くなるのなら、迂闊に試すことが出来ないじゃないか。
せっかく色々できることが増えたと思ったのに、早くも行き詰まるのか。
この合成制限……レベルが上がるごとに少しずつ解放されるのか、もしくは一定のレベルで上級合成解除みたいになるのか。
もし後者の場合なら、少なくともレベル5までは上限解放がないことになる。
レベル2になったばかりだが……いつになれば次のレベルにいけるのか。
「なぁナビ子。レベル3にはどうやってなるんだ?」
「……レベル2になったばかりなのに、もうレベル3の話? 気が早くない?」
「気になるんだよ。レベル3には図鑑200種類でいいのか? それとも300種類か?」
レベルは上がりにくくなるのが基本的だ。
図鑑200種類は考えにくいから300が妥当かな?
「レベル3へはね……合成で100種類の登録だよ」
合成で100種類の登録か……そこまで難しいことじゃないな。
現時点でポーションと上ヒール草の2種類。
多分クコ系の実と水でも何か出来るだろうし、他の草とかもいろいろ試してみてもいい。
そういえばヨモギは雑草でレア度がなかったけど、ヨモギって確か毒消しの役割もあるんじゃなかったっけ?
それに単純に餅と合成すれば蓬餅が出来るかもしれない。
うん、現在レア度がない物でも色々試してみてもいいかもしれないな。




