第186話 魔素発生装置
「ふぇ~。シュート達も色々あったんだね」
俺はガロンに出会ったことからコボルトに出会って魔族の話を聞いたことまで全て説明した。
「3リスの合成はアタイも見たかったけど……仕方ないね」
「悪いとは思ったけど、魔族とか言われたら戦力的にヤバイと思ったんでな。でも、お陰で俺もこうやってナビ子と合流できたんだ」
「うんうん。アタイもそれで良いと思うよ。それにしても、そのドワーフの人とコボルトに会えたのは幸運だったね」
「ああ。お陰で随分と助けられたよ」
まぁ助けられたなんて、ガロン本人には言えないけど。
「こっちもシュートの話で色々と分かったよ」
ナビ子の方は俺と別れてから、ずっと樹海のダンジョンを探索していたそうだ。
そして探索中にチタンゴーレムと遭遇。
このダンジョンに場違いなゴーレムに、何かあるとゴーレムを撃退。
そこで魔道具を発見した。
ナビ子はそれをカード化。魔道具には魔素発生装置と書かれていたそうだ。
ただ詳しい内容は図鑑がないから不明。
でも、魔道具をカードにした途端、ナビ子の気配察知のスキルが、この付近だけ正常に作動するようになった。
魔素発生装置って名前と、スキルからこの魔道具が異変の原因と思って間違いないと確信したナビ子は、他にも魔道具がないか探索を始めた。
すると、また気配察知がうまく作動しなくなる。
やはり他にも魔道具があると確信したナビ子はダンジョンを片っ端から探索して、全ての魔道具を回収することにした。
「途中でスッゴく大きな崖があったんだけど、そこは後回しにしたの。んで、全部見回って、後は崖の上……ってとこで、その崖の辺りからシュートの気配がしたの」
なるほど。
だからすぐに合流できたのか。
「崖の上は山のダンジョンに繋がっているんだ」
「じゃあ樹海のダンジョンは残っている魔道具はないよ」
「なぁその魔道具……壊れてないよな?」
「当たり前だよ! だって壊したら勿体ないじゃん」
流石ナビ子。ちゃんと価値が分かっている。
俺はナビ子から魔道具を受け取って、図鑑に挟む。
――――
魔素発生装置【魔道具】レア度:なし
集魔箱に特殊な改造を施された魔道具。
周囲の魔素濃度に関係なく、無尽蔵に魔素を発生させる。
――――
「これもレア度なし……か。ナビ子、どういうことか分かるか?」
俺はナビ子に尋ねてみるが……ナビ子は返事をしない。
というか、まるで心ここにあらずって感じでボーッと固まっている。
「おっ、おいナビ子! 大丈夫か!?」
俺は慌ててナビ子を揺さぶると……ナビ子がハッと我にかえる。
「えっ? なに? どうしたの?」
「どうしたのって……お前こそ、いきなり固まってどうしたんだ?」
マジで焦ったぞ。
「あ~ごめんごめん。その魔道具に関して何かないか、データを漁ってたの。んで、検索に時間が掛かっちゃった」
なるほど。
そういえば、以前も街中で情報量が多いから処理落ちしそうってことがあったな。
今回も似たようなものか。
「特に今回はここ数日間の情報が多すぎたから。でも、ちゃんとデフラグしたら、快適になるよ!」
デフラグ……多分、旅のしおりに戻って休んだらって意味だろうけど。
「……なんか型落ちPCみたいだな」
「ちょっ!? このスパコンナビ子ちゃんに向かって何てこというのさ!」
スパコンって……電子妖精がそれでいいのか?
「じゃあ自称スパコンのナビ子さん。魔道具の検索結果はどうだったんだ?」
「もう! 言い方に悪意があるよ! ……残念だけど、検索には引っかからなかったよ」
怒りながらもちゃんと答えてくれるナビ子。
でも、何も分からないと。
……やっぱりポンコツじゃないか。
「何さ。言いたいことがあんの?」
「いや」
久しぶりで調子に乗っちゃったけど、流石にこれ以上からかうのは可哀想だ。
「それでさ。俺が一番気になっているのはレア度がないことなんだ。これについてどう思う?」
「……レア度がないのは、元々この世界に存在しないか、レア度をつける価値もないくらいありふれているかのどちらかだよ」
「それは知ってるけど、異界シリーズでもないから、この世界のだろ? それにありふれている筈もない」
「う~ん。それはアタイに言われても……アタイはそう教わっただけだもん」
まぁそりゃあそうだよな。
「別にナビ子の予想でいいんだけど」
「予想って言われても……これだけじゃなんとも」
う~ん。
俺の気のせいかもしれないが、なんかナビ子の歯切れが悪い気がするんだよなぁ。
「まぁここで考えていてもどうしようもないし……一旦ラビットA達の所に戻ろうか」
多分これ以上せっついても、ナビ子が教えてくれるとは思えない。
ならラビットA達に合流してから次のことを考えたほうがいい。
「うん! ラビットAにも会いたいし、ドワーフのおじさんやコボルトも見てみたいしね」
そういうわけで、さっき通ってきた道……崖を登って山のダンジョンへ帰ることにした。
****
「きゅート! うそつき!」
戻ってくるなりラビットAに嘘つき呼ばわりされる。
なぜか知らないが、めちゃくちゃ怒っているみたいだ。
「なぁティータ。なぜ俺は嘘つき呼ばわりされたんだ?」
「リーダーはずっと魔族が来るのを待っておりましたから……」
「いや、俺は来るかもしれないって言っただけで、確実に来るとは言ってないんだが……」
張り切っていたけど、結局何もなくて暇をしていたと。
「それで……そちらもナビ子さんの機嫌が悪そうですが、どうされたんですか?」
「ちょっとな」
「シュートさいてー」
ったく。まだ言ってるのか。
崖でセイレーンに抱き抱えられてからずっとこの調子だ。
「なるほど。またマスターがイヤらしいことをされたのですね」
またってどういうことだよ。
「まぁナビ子の機嫌もすぐに直るだろうし、無視してていいから」
「むぅ。いいもんいいもん。アザレアに言いつけてやるもん」
そう言ってナビ子はラビットAと不貞腐れた者同士でどこかへ行く。
……まぁすぐに戻ってくるだろう。
「それで、そっちはどうだった?」
「カーバンクルとヴォルパーティンガーはまだ戻ってきておりません」
まだ戻ってきてないか。
まぁ俺が予定より早く帰ってきたもんな。
「それから、コボルトバトラーがマスターにお話したいことがあると」
「コボルトバトラーが? なんだろう。回復薬の追加かな?」
だが、ティータはそれを否定する。
そして、俺の待ち望んでいた言葉を口にした。
「ドラゴンがマスターに会いたいと言っているそうですよ」




