第185話 ナビ子との再会
セイレーンが大穴にダイブして、どれくらい落ちているだろうか。
俺も最初こそ取り乱してしまったが、セイレーンが落ちるペースを考えてくれたので、なんとか落ち着きを取り戻すことが出来た。
経験はないけど、パラシュートよりもゆっくりなスピードだと思う。
そのため、今では背中の柔らかい感触を楽しむ余裕すらある。
まぁ下を見ても真っ暗で先が見えない。
どこまで落ちるんだとか、本当にたどり着くのかと不安もあるが。
それにしても……すでに落ち始めて数分、距離にして数百メートルは降りている。
考えてみたら山の中腹と山の麓のダンジョンを繋いでいる穴だ。
千メートルくらいあるかもしれない。
幸いモンスターは近くにいないようで、モンスターに襲われる危険はなさそうだ。
こんな状況で飛行系モンスターに襲われたら、また取り乱してしまってただろう。
そういえば、少しひんやりしてきた気がする。
山のダンジョンは蒸し暑かったが、その蒸し暑さがなくなっている。
樹海のダンジョンの方に近づいてきたのだろう。
そうだっ! と、俺はカードから石ころを召喚する。
山で石器武器を作っていた頃の名残だが……これを落として音が聞こえるか確認してみよう。
俺が石を下に向かって投げると……数秒後、何かに当たる音がする。
おっ、意外と地面まで近いかもしれない。
下があると分かると一気に降りたくなる。
「セイレーン。少しスピードを上げようか」
返事はないが、代わりに落ちる速度が上がる。
これならすぐに地面に到着するだろう。
「――ふわぁぁ。ようやく地面か」
俺は地に足をつけ、大きく背伸びをする。
やっぱり地に足がつくって素晴らしい。
今回は特に飛行モンスターに座っていたわけでもないし、いつ到着するかも分からなかったので、喜びもいつも以上だ。
とりあえず、周囲を確認するために、ライトの魔法を解放し、明かりを灯す。
――周囲には何もなさそうだ。
モンスターの気配もなさそう。
「クイーンビー。インセクトクイーンと繋がりそうか?」
俺の問にクイーンビーが肯定の右に移動する。
通訳ではない久しぶりのやり取りに、少し懐かしさを覚える。
クイーンビーに質問したところ、ナビ子達の居場所はここからそう離れてなさそうってことと、ナビ子もこっちに気づいたらしく、大急ぎでこちらへ向かっているとのこと。
思ったより早く合流できそうで、思わず顔が綻んでしまう。
このままここで待っていても、ナビ子とは合流できそうだが、俺はいても立ってもいられず、足早にナビ子達の元へ向かった。
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「シュートおおお!!」
俺の名前を呼びながら猛スピードで突進してくるナビ子。
俺は受け止めようと手を差し出すが、ナビ子はその手をするりと避け、そのまま俺の顔面にダイブする。
「わぶっ!?」
「シュートおおお! 会いたかったよおおお!!」
俺の顔面に張り付いたまま泣き叫ぶナビ子をなんとか引き剥がす。
「ぷはっ!? ……ったく。何で避けてるんだよ」
それに抱きつくなら顔じゃなくて普通胸にだろ。
そういえば、ラビットAも最初は顔に抱きついていたな。
もしかして、抱きつかれやすい顔とか?
……そんな顔は嫌だなぁ。
「えへへ。嬉しくって思わず……ごめん」
ナビ子が照れながら謝る。
まぁ俺も嬉しかったけど。
そこに遅れてメーブやホブAがやってくる。
「ボス。会いたかったゴブ」
「主。再会できて妾も嬉しく存じます」
「2人もご苦労だったな。ナビ子の面倒を見るのは大変だったろ」
「ちょっ!? なんなのよそれは! アタイがこの子達の面倒を見てたんだよ!」
ナビ子がそういうが……メーブとホブAの表情を見れば、どっちが苦労していたかがよく分かる。
「そういうシュートこそ……あれっ? ラビットAやティータは……って!? そのエッチな女性は誰なのさ!」
今頃気づいたのかよ。
というかエッチって……まぁセイレーンだから、男を魅了するようなエロい体つきはしているけど。
それでも服は着せているし、アラクネと似たようなものだろ。
「ラビットAとティータは別の場所で待機をしている。この子は新しく合成したセイレーンだ」
「ラビットAとティータを放ったらかしにして、新しい子とこんなところで何をしていたのさ」
ナビ子がジト目でこっちを見る。
「お前らに合流するために、ここまでやって来たんだろうが。ナビ子だって気配察知が使えるなら、マグマゴーレムを倒して魔道具を壊したんだろ?」
「マグマゴーレム? 確かにゴーレムを倒して魔道具は回収したけど、アタイ達が倒したのはチタンゴーレムだったよ」
マグマゴーレムじゃなかったのか。
もしかしたら場所によって異なるゴーレムが守っていたのかもしれないな。
「あのね。すっごく硬いし、魔法も全然効かないし……すっごく強かったんだよ」
「それ、どうやって倒したんだ?」
「最初はすっごく苦労したんだよ。でもね、ゴーレムは動きが単調で、しかもゆっくりでね。負ける要素はなかったの」
そこはマグマゴーレムと一緒だ。
動きは単調だったから、こっちの攻撃は当たるし、向こうの攻撃は避けやすい。
「んでね。硬いけど全部の物理攻撃が効かないわけじゃなかったの。剣や槍は全然通らなかったけど、ハンマーや金槌で砕くことはできたの」
斬や突じゃなくて打なら良かったってことか。
ハンマーを武器にしているゴブリンもいたから、ソイツらが頑張ったのかな。
「後は土魔法も効いたんだよ。ストーンブラストで岩をぶつけるの」
――――
ストーンブラスト【土属性】レア度:☆☆☆
土属性の中級魔法。
召喚した岩を射出する。
――――
簡単に弾が岩になった大砲のような魔法だ。
放物線ではなく直線で岩が飛ぶので、カタパルトのような投石機よりも威力が高い。
ただ……土魔法が効いたってよりは、単純に物理攻撃が効いただけの気がする。
「攻略法が分かったら後は作業って感じだったかな。……そっちはマグマゴーレムがいたの?」
「ああ、俺達の方はマグマゴーレムだった。それから……異変の謎と原因も突き止めた」
「本当っ!?」
「ああ、ちゃんと説明するよ」
俺はナビ子に別れてからのことを説明した。




