第184話 樹海のダンジョンへ
カーバンクル達の出発を見届けた後、俺は樹海のダンジョンへ向けて出発した。
残ったラビットAやティータは不満そうにしていたし、ガロンは俺が次々とモンスターを召喚したのを見て唖然としていた。
……戻ったら色々と言われそうだなぁ。
とりあえず俺は広間から出て、最初の分岐点にまで戻る。
そこから俺がまだ行ってない方向――ガロンが足を滑らせて落ちたと言っていた場所へ向かう。
そこから樹海のダンジョンへ向かうのが、一番の近道だってコボルトバトラーから聞いた。
穴があって行き止まりだから、上に行ける方法があれば……らしいが。
実際にガロンは戻れなかったようだし、コボルトも無理ってことだったが、俺なら飛行系モンスターを使えば上に行ける。
どうせそこまでの道は分かっているので、俺のコボルトや地上のモンスターは召喚せずに、クイーンビーとビーナイトの飛行モンスターだけ召喚する。
分岐点までは数分でたどり着く。
そこから30分ほどまっすぐ一本道を歩いたところで、行き止まりにぶち当たった。
「……ガロンはよく生きていたなぁ」
問題の穴は目算でここから20メートルくらい上にある。
落ちどころが悪かったら、即死していてもおかしくない。
やはり幸運のスキル持ちだからか。
それとも、ドワーフが頑丈すぎるのか。
……どっちもかな。
さて、俺はどうするか。
クライミングのようによじ登るのは無理そうだ。
というわけで、やはり空を飛んでいくしか選択肢はない。
そこで早速新人モンスターを召喚することにした。
――――
セイレーン
レア度:☆☆☆
固有スキル:風の素質、歌姫、魅了
個別スキル:不協和音
半人半鳥の魔族。
空のセイレーン。
美しい歌声と容姿で相手を魅了する。
――――
ハーピー狙いでゴブリナとワイルドホークを合成させたんだが、ちょっとだけ違う魔族が誕生した。
一応レシピを見ると、鳥類モンスターと人型モンスターとあった。
多分ハーピーも同様のレシピだと思うけど……ランダム合成の結果かな。
それにしても……う~ん。
セイレーンって、人魚っぽいのをイメージしていたんだが……空のセイレーンってところが引っかかる。
もしかしたら、同名のセイレーンで人魚パターンもあるかもしれない。
海のモンスターを手に入れたら、是非とも試してみたい。
肝心のスキルの歌姫が気になるけど……俺が倒したモンスターを使っているわけではないから、歌ってくれない。
正直、この時点でセイレーンの能力の大半が封印されている気がする。
次に合成してやる時は、俺が倒したモンスターと合成してあげたいな。
セイレーンが俺を背中から抱きかかえる。
ハーピーは腕が羽になっているイメージだったが、セイレーンは違うようで、人型の腕と羽が別になっている。
しかし……密着するから仕方がないとしても、背中に柔らかいぬくもりを感じるのがなんとも……どうしても気になってしまう。
しかも、今ここにはナビ子もティータもいないから、咎める人もいない。
この感触をじっくり堪能……と思ったところで、穴を抜け、上層に到着する。
まぁ20メートル飛ぶだけだから、分かっていたことだけどね。
セイレーンから離れた俺は、道案内役のコボルトを呼び出す。
――――
コボルト
レア度:☆
固有スキル:鉱石変質、嗅覚
犬人型の下級モンスター。
ゴブリンと同程度の最弱モンスターだが、ゴブリンに比べて嗅覚が鋭く、察知能力に長けている。
また特定の鉱石をコバルト石に変質させる。
――――
ほぼ犬の顔をしたゴブリンって感じのようだ。
ただ、ゴブリンと違って固有スキル持ち。
鉱石変質はガロンが言っていたように、コバルト石ってのに変質させるみたいだ。
そして嗅覚のスキルだが……これはラビットAの持つ嗅覚のスキルと全く同じ名前だが、能力が違う。
ラビットAの嗅覚は勘が働くって意味だが、コボルトの嗅覚はそのまま鼻がいいって意味らしい。
このコボルトの案内でダンジョンを進んでいく。
カードモンスターになっても記憶は残っているので、最短ルートで進んでもらった。
――そして歩くこと数時間。
俺は黙々とダンジョンを歩き続けていた。
道中、何度も分岐点があったが、コボルトは迷うことなく先に進む。
もちろん罠も全て避けてくれている。
もしコボルトの案内がなかったとしたら、正直かなり探索に苦労していたんじゃなかろうか。
そしてモンスターの襲撃は、ビーナイトが簡単に倒してくれる。
順調に樹海ダンジョンに近づいているが……俺はずっと物足りなかった。
別にビーナイトやクイーンビーはよくやってくれているから、不満があるわけじゃない。
ただ、反応が欲しかった。
今までずっと近くにナビ子やメーブやティータ、それにラビットAやホブAもいたけど、今は言葉を発する仲間は誰もいない。
俺が一方的に話すだけで、相づちすらない。
命令にしたがってくれるけど、返事もない。
はっきり言うと、コミュニケーションに飢えていた。
――早くナビ子に会いたいな。
そう考えながら足早に移動していると……広間から出発して半日ほど経っただろうか。
無事に目的地にたどり着いたようだ。
目の前にはさっきとは比べ物にならない大穴が目の前にある。
いや、穴というよりは崖だな。
……真っ暗で底が見えない。
少なくとも、20メートルではすまないだろう。
――落ちたら確実に死ぬな。
俺がそう考えていると、さっきと同じようにセイレーンが背中から抱きかかえる。
「あっ、いや、ちょっと……」
まだ心の準備が……そう言いたかったが、それよりも早くセイレーンが崖に向かって飛び込んだ。
「いやああああ!?」
俺はさっきのように背中の感触を楽しむことが出来ずに、ただひたすら絶叫を上げることしか出来なかった。




