第181話 更に戦力アップ
「なぁ。物は相談なんだけど、魔水晶以外で合成してみない?」
俺は残った大チコリスと大クコリスに聞いてみる。
あまり無理強いは出来ないけど、他の石で合成したらどうなるか気になる。
石なら手元にミランダ婆さんの店で買った宝石の粉末がある。
多分粉末を合成すれば、欠片にはなるんじゃないかと思う。
大クコリスと大チコリスは少し悩んで、ティータへ伝える。
「……炎竜石と創魔結晶ならいいと」
これまた随分と吹っ掛けられたなぁ。
炎竜石は、さっきまでガロンとラビットAがたくさん掘ってたし、ひとつくらい貰っても問題ないだろう。
しかし創魔結晶は……
「危険すぎないか?」
魔素を発生させる怪しい魔道具に入っていたんだぞ。
しかも持ち主は魔族。
実は、調査が終わった創魔結晶の欠片は俺が保管すると言って、カードにしていた。
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創魔結晶の欠片【素材】レア度:なし
特殊な改造が施された石の欠片。
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欠片だからか、さっきの魔水晶の欠片と同様、詳しい説明が載っていない。
別にそれはいいんだけど、それ以上に気になるのがレア度無しの部分。
今までのレア度なしは、落ち葉やゴミのような物しか存在しなかった。
欠片がゴミ扱い?
いや、さっきの魔水晶は欠片でもレア度はあった。
ゴミじゃなくてレア度がない場合はもうひとつある。
異界シリーズだ。
だけど異界シリーズは必ず説明文には異界のって言葉が入る。
だからこれは異界シリーズではない。
もちろん日本にもこんな結晶はなかったから当然だ。
「やっぱり合成するには危険すぎる」
ナビ子が以前、普通じゃありえない合成や矛盾した合成は失敗するって言っていた。
レア度がない怪しい物との合成なら、失敗も十分に考えられる。
「ですが、大チコリスの決意は固いみたいですよ」
創魔結晶と合成したいのは大チコリスの方か。
「他のじゃ駄目なのか?」
大チコリスが首を振る。
「元々マスターが言わなくても、この子達は初めから魔水晶以外を選ぶつもりだったようです。……心配せずとも大丈夫だと思いますよ」
「何でそんなことが言えるんだ?」
「わたくしもそうでしたが、波長とでも言いましょうか。これだっ! と思える相手は何となく感じるのです」
確かにこれまでに何度も、何でそれと? と思うような合成をしてきて、どれも成功している。
……俺よりも、本人達の直感を信じたほうが良さそうだ。
「分かった。じゃあ大チコリスは創魔結晶と合成な」
でも、やっぱり怖いから先に大クコリスと炎竜石の合成から行う。
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カーバンクル
レア度:☆☆☆☆
固有スキル:火の覚醒、魔力操作、魔力反射、浮遊
個別スキル:竜、木の実サーチ、収納
額に宝石を宿した幻獣。
宝石の種類によって能力が異なる。
竜の力を宿したカーバンクルは、竜の力を継承する。
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額に真っ赤な宝石を宿したカーバンクル。
魔水晶と合成した大リコリスと違い、こっちは見た目が少し変化している。
大きさと形はそのままだが、リスの毛並みから鱗のような肌に変化している。
俺はてっきりゴブリンメイジのように、スキルと説明文だけが違うのかと思っていたが……少なくとも並んでいたら同じ種族には見えないな。
そのスキルだが、固有スキルは殆ど同じ。
魔の覚醒と火の覚醒の違いしかない。
魔水晶と違って炎竜石は完全な火属性だったから、これは仕方ないだろう。
問題は個別スキル。
個別スキルの方に宝石ごとのスキルが手に入るみたいだが、フォレストドラゴンと同じ竜のスキルを持っている。
結局竜のスキルがどんなスキルか分かってないけど、強力なスキルには違いないだろう。
そして問題の大チコリスと創魔結晶の合成。
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カーバンクル
レア度:☆☆☆☆
固有スキル:魔の覚醒、魔力操作、魔力反射、浮遊
個別スキル:魔素精製、禁忌、木の実サーチ、収納
額に宝石を宿した幻獣。
宝石の種類によって能力が異なる。
紛い物の力を宿したカーバンクルは、禁忌の力を継承する。
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ほらぁ。やっぱりヤバいやつじゃん。
まぁ一応レア度はあるし、失敗しなくてよかったけど……禁忌のスキルってなんだよ。
見た目は炎竜石と違い、変わっていない。
額の黒い宝石が、何となく邪悪な感じに見える。
俺は改めて3匹のカーバンクルを見る。
魔水晶の力を宿した、額に透明な宝石の元大リコリス。
炎竜石の力を宿した、額に真っ赤な宝石で、鱗のある元大クコリス。
創魔結晶の力を宿した、額に真っ黒な宝石の元大チコリス。
呼び方は元のまま、リコ、クコ、チコでいいだろう。
そして、間違えないように、頭の中では、リコ(魔)、クコ(竜)、チコ(創)で覚えることにしよう。
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カーバンクルという、予想外の戦力が加わったが、合成はまだまだ終わりではない。
なぜなら本命の魔族の合成が終わっていないからだ。
さて、今度こそどうするか……。
「きゅートきゅート!」
「ん? どうした?」
もしかして、他にも合成候補がいるのか?
ラビットAは図鑑を捲り、ウサギのページを表示する。
「きゅ!」
「ジャッカロープ? ……別にいいけど」
ジャッカロープは前回ケリュネイアの元になったので、直接の進化はしていない。
なので、リスと同じく優先度は高い。
それに、ラビットAと同じウサギだから、もしかしたら魔族になるかもしれない。
俺はジャッカロープを解放する。
「それで何と合成するんだ?」
「きゅーモリ!」
……何でジャッカロープじゃなくて、ラビットAが答えるんだ?
まぁジャッカロープに異論がないならいいけど。
というか、コウモリ達はラビットAを含むウサギ軍団が捕まえてきたからな。
最初からそのつもりだったんだろう。
「それで、どのコウモリなんだ?」
ラビットAが選んだのはバンパイアバット。
よりにもよって……あまりいい予感はしないな。
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ヴォルパーティンガー
レア度:☆☆☆☆
固有スキル:闇の覚醒、角強化、暗視、吸血、嗅覚
個別スキル:再生、眷属化、超音波、雷の覚醒、凶暴化
ウサギ型上級モンスター。
非常に凶暴な空飛ぶ吸血ウサギ。
満月の夜の時にしか見つからない。
若い女性を好んで襲う。
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完成したのは、ジャッカロープにコウモリの羽と、牙が追加されたウサギ。
……ウサギなのか?
継承されたスキルはバンパイアバットのスキルばかりで、ジャッカロープのスキルは固有スキルの角強化と、雷の素質が覚醒になったくらいだぞ。
雷のコツや帯電はどうしたんだよ。
これじゃバンパイアバットじゃなくて、バンパイアラビットだ。
ん? バンパイアって魔族?
なら、一応予定通りのモンスター……んなわきゃない。
でも、強そうだからいいか。
どうやらラビットAは合成に満足したようで、他に希望はないようだ。
ってことは、残った幹部でこれ以上合成したいのはいないと。
「じゃあ後は新規のモンスターから戦力になりそうなのを選ぶか」
その為には分解から始めないと。
100種類以上の新規モンスターから、どのモンスターを優先的に分解して仲間にするか。
俺はティータとラビットAと3人で、朝まで話し合いを続けた。




